邂逅
気が付けば、俺は横になっていた。
不思議に思いながらも上体を起こし 周囲を見渡してみるとーーそこには何もなかった。
真っ白で限りない空間。ついあるゲームの冒頭シーンを連想してしまった。
俺は何故こんな場所に寝ていたのだろうか‥。
記憶を辿ってみても、何も思い出すことは出来なかった。
ただ 長い夢を見ていたような気分だけが俺に付きまとい、離れようとしなかった。
昨夜、俺は確かにいつも通りに寝床に潜ったはずなのだがーー
『おっ、目覚めたー?』
気の抜けた声が俺の耳に届く。
なぜか不快感が胸の辺りに込み上げてきた気がするがーーきっと気のせいだろう。
声の方向に立っていた人物は、真っ白な服を身に纏った、金髪の青年だった。
美しい髪は肩にかかるほどの長さで、顔立ちはとても良い部類に分けられるだろう。
「‥‥誰だ?」
率直な疑問を口にする。
まずこの状況自体が謎に包まれているので、思考はやけに落ち着いていた。
彼は白い空間にポツンとあるイスに腰掛け 足を組んだ後、口を開いた。
『僕? 僕は神様☆』
なるほどーーーかなりこじらせていらっしゃるご様子だ。
このファンタジックな展開に、誰がついていくことが出来るだろうか。
「今そういうボケは需要ないんだけど‥」
心の内とは反対に口調は弱々しいものとなってしまう。
コミュ障の宿命である。恐ろしや。
『ホントだってばー!
僕の名前はゼウス
世界を潰して君をここに連れてきたのも僕なんだよ?』
ーーぶっ潰した?
世界を?
思考が追いつかない俺を気にも留めず、男は話を進める。
『僕の目的は新たなる世界の創造。
そのために、前の世界は僕が崩壊させた。』
まずい、混乱してきた。
新たなる世界?崩壊?
そんなものを信じろと言われて信じられる人物が存在するのだろうか。
『蒼 春樹くん、君は今から新たなる世界に赴いて、そこにおける欠陥を探してもらう。
欠陥っていうのはいわゆるバグだね。世界の不安定、未完成な部分。』
「待て待てストップ!意味が分からない。
まず元の世界?の皆はどこに行ったんだよ。」
純粋に疑問をぶつけたのだが、返ってきた返事は衝撃的なものだった。
『全員殺したよ?』
彼は調子を変えず、そう言った。
もし仮に、彼の言うことが全て事実だったとしたら 俺はどうすればいい。
全く、分からない‥
『けど、救う方法ならある。
僕が所持している前世界のバックアップ‥‥
それに干渉出来る《欠陥》を発見出来れば、取り返すことが出来るかもしれないよ?』
バックアップ、つまり コピー。
「それを取り返すことが出来れば、元の世界に戻れるってことか?」
『そゆこと☆
君達には、これから新たなる世界の学校で一年間暮らしてもらいま〜す
その過程で《欠陥》を探し出してもらうってわけ。』
大きく手を広げ、キザっぽい仕草でそう言った。
「ーーー君達?
君達ってどういうことだよ」
『言ってなかったっけ?
前世界から連れて来るのは数百人もの中学生だよ。
全員、同じ学校で過ごしてもらうからね!
あ、あと 一年以内に元の世界に戻れなかった場合、全員死んじゃうからよろしくね☆』
よろしくない。
なに一つよろしくなんてない。
どんなラノベ的展開だ。
突拍子もないことばかりだが、この状況が既に異常である。
そのせいで彼の言葉が偽物だとは到底思えなかった。
そんなことを思っていると 突如体が光に包まれ、視界がフェードアウトして行った。
こうして俺はフザけた神様 ゼウスの計画に巻き込まれ、新しい世界へ赴くこととなる。
神と 鍵と 人間が紡ぐ物語が
この時 始まった。