疫病神
彼はゆっくりと口を開く。
「‥‥俺は他人を不幸にする体質だ、って言ったら、七瀬は信じるか?」
蒼の落ち着いた調子の言葉に対して、私は理解が追いつかなかった。
「‥‥どういうこと‥?」
「昔から、俺に親しくしてきた友達は皆 ひどい目に遭ってきた。
交通事故、重度の病気。
それは偶然じゃなく、間違いなく俺のせいなんだ。」
一体何を言っているのか。
脳が話を拒絶しているかのように思えた。
「そんなこと、あるわけ‥‥」
「あるんだよ。」
彼はいつになく真剣な眼差しでそう言った。
しかし、そう簡単に受け入れられる内容ではないことも確かだ。
「実際、この世界に来てからも、七瀬と紗理奈は俺の近くに居たせいで死にかけただろ?
きっとこの体質がアマテラスの言う【運命に干渉する力】なんだと思う。
そのせいで俺はずっと避けられ続けてきたんだ」
運命に干渉する力。
アマテラスはこの世界に来た全ての人間に存在するものだと言っていたので、蒼のその体質は異常ではないのだろう。
しかしーー現実にそんなことが起こっているだなんて、思いもしなかったのだ。
「唯一、俺の影響を受けない親友が居た。
そいつだけは俺の近くに居ても不運な目には合わなかった。
けど‥‥この世界に来る一週間前に、突然 交通事故で死んだ。」
その言葉を聞いた瞬間、息が詰まった。
一体どんな思いをしたのだろう。
人に避けられ、心の拠り所であろう人物も自分が原因で死亡。
私にはとても計り知れない悲しみ、苦しみがあるはずだ‥‥
「本当は、生まれてくるべきじゃなかったんだ
こんな疫病神が生きていて メリットなんてあるはずないのにな‥‥」
彼は自嘲的にそう呟いた。
一際冷たい風が吹き、私たち二人の頬を撫でる。
「‥‥そんなこと、ない。」
私は知らず知らず、言葉を零していた。
「蒼が生まれてこなかった方がいいなんてこと、あるはずない!
そんなこと言わないで!!」
怒鳴りつけるような口調。
この感情をうまく言葉にすることができない。
ただーー彼の存在を、彼自身が否定することは、どうしても許せなかった。
「‥‥事実だろ。
七瀬だって、俺と一緒にいれば不幸な目に遭わせられるんだ
いない方がいいって思うに決まってるよ。」
「そんなことない!
少なくとも、私は蒼に会えて良かったと思ってるよ!!」
溢れ出る感情に歯止めをかけられない。
ひどく傲慢なことかも知れないーーそれでも、私の思うこと全てを蒼に伝えたい。
そう思った。
「ーー蒼が私を不幸にするって言うなら‥‥
あんたが、私を守ってよ!!」
溢れそうになる涙を堪え、私はそう叫んだ。