欠陥
俺の…力…?
何を言っているんだ、この人は
「…残念だけど、俺にはどこぞの主人公みたいな特殊能力はないぞ」
「いいやーーーある。
それに、力を持っているのは君だけじゃあない。
この世界に来た中学生
全員さ」
「なっ……!!?」
「ど…どういうこと?」
混乱した様子の紗理奈が言った。
勿論、俺だって混乱しているが。
「君達全員が運命に干渉する力を所持してるんだよ。
ゼウスは そんな力を持った人物達をこの新世界に連れてきたのさ」
「な……何だよそれ!?
意味わかんねぇよ…」
「まぁ力については、後で説明してあげるよ。
…本来 君達人間は、前世界の崩壊と共に全て死亡する筈だった。
けれど、君達は生きたまま新世界へ連れて来られた。
…どうしてか分かるかな?」
「それは……俺達に欠陥を探し出させるためじゃないのか?」
俺はそう答えた。
「その答えじゃあ半分だねぇ
…創造神ゼウスは、運命を操作する力を持っている。
その力を持ってしても、君達を運命操作で
世界の破壊と同時に、故意に殺すことは出来なかったんだ。」
ーーー?
話が全く読めなかった
突然大量の情報を頭に詰め込まれて、処理しきれない。
「つまりゼウスの支配下に置くことが出来ない
君達の存在そのものが
前世界におけるーーーー欠陥だったんだ」
その言葉に、俺達は何も反応出来なかった。
まるで脳が、受け入れることを拒否しているかのように。
「ゼウスは生命を創り出すことが出来る、
だけど約15年前、神々の間でとある抗争が起こったんだよ」
アマテラスは告げた。
「ゼウスは新世界創造の計画を実行しようとした。
だが、温厚派の神々は彼の計画に反対した。
‥‥重い理由があったとはいえ、人間を大量に殺戮しようというのだからな。」
アマテラスに次いで、カグツチがそう言った。
「その争いーー《神界戦》で、アタシたち神々はゼウスに負けて、
別空間に封印され、閉じ込められてちゃったんだ
その争いの最中、ゼウスが生命を創り出すのを失敗した
彼にも干渉出来ない存在ーー即ち君達 を生み出してしまったってわけだよ」
……信じられなかった
いや、信じたくなかった。
自分達が、本来生まれてくる筈がなかった、
世界におけるバグだということを。
「それが、ゼウスが言っていた ここに連れて来た人間が中学生ばかりな理由なのか」
光輝はアマテラスにそう言った
「そうだよ。
前世界のバグならば、新たなる世界に連れて来ればいい
そして君達をまとめて消して、この世界を完成させるつもりさ」
「だったら どうしてゼウスは今 私たちを殺さないの?
運命操作が出来るっていうなら、今すぐ私たち全員を消すことが出来る気がするんだけど……」
七瀬は困惑しながらも、そう質問した。
「彼は新世界創造の計画と並行して、とある人物を蘇らせる計画をしている。
そのために、彼は戦争から今までの15年間で全ての力を使い切って、その器を完成させた。
だから彼の力が回復していない今は、この世界に自らやってくることが出来ない。
だから彼は、自分の神官を通して君達を殺そうとしてるのさ」
その力が完全に回復するのが、1年後。
つまりゼウスの言っていたタイムリミットの真実だったのか
それまでに俺達は、前世界のバックアップを手に入れて
元の世界へ戻る必要があるんだ。
「それと、君たちに伝えなきゃならない事がもうひとつ。
大晦日、12月31日に、この世界と神の間 の境界線が一瞬消える。
その瞬間に、ゼウスのいる 神の間 に攻め込める。」
「境界線が…消える…?」
「新世界における、欠陥さ。
君たちが以前 発見した欠陥と同じだよ。」
アマテラスは淡々と告げる。
「ちょ、ちょっと待ってよ…!
攻め込むって、ゼウスと戦うってこと!?」
七瀬がそう尋ねる。
「そうだよ☆
ゼウスを締め上げて、前世界のバックアップを力ずくで取り返す。
それしか君たちの生き残る道はないよ」
…ゼウスを…倒す…?
神々が大勢で攻めても、返り討ちにするような化け物に
俺たち如きが、勝てるはずがない
「そんなこと 不可能だ…
出来るわけがない」
俺は無意識にそう呟いていた。
「だから、君たちは運命の日までに欠陥を見つけて神々をたっくさん味方にする。
あの子に太刀打ちするにはそれしか方法がないもん」
あっけらかんとするアマテラス
その姿を見ていると、頼もしいというか何というか…
ーー信じられるような気がしてしまった。
「あ、そーだ。
ちょっと見てて。」
そう言うと、アマテラスは手を裏返し、手のひらを俺たちに見えるようにする。
すると淡い光が灯りーーそれは形を変えた。
輝きがおさまると、そこには一つの綺麗なナイフが現れた。
ナイフーーというよりは少し小さめの剣という感じだ
刃渡りは20~30cmほど
鍔には少し派手な銀の装飾がほどこしてあり、
俺たちがいる部屋の窓から差し込む夕日が反射して、とても美しい。
「ほいっ」
アマテラスは刃が剥き出しの剣を俺に向かって投げた。
軽く投げただけだったので、身をかがめてギリギリかわせた
「おわぁっ、危ねえ!!
なにすんだよ!!」
「大丈夫だよー
その剣は人間を斬ることは出来ないからね
その剣の名は「神斬」(カミギリ)、
神と神官を斬ることが出来る剣さ」
!?
「な…なんでそんなものを俺に…?」
「別に神界じゃあ珍しいものでもなんでもないよ?
アタシならいくらでも生み出せるし。
はい、みんなの分」
もう3つ同じものを作り出し、光輝、紗理奈、七瀬に向かって投げた。
「それは護身用、
もし私や かぐつちがいない時に神官に襲われたら君たちはなす術なしだからね。」
「‥ありがとう」
今まで神官と闘う手段は、欠陥を見つけて神を味方にして、
代わりに闘ってもらうしかなかった。
それを、今度は自分自身で戦えるようになったんだ
やってやる
目の前で友達が危ない目にあうのは、もう嫌だ
強くなって
紗理奈や、七瀬や、光輝
みんなを、守ってみせる。
ーー七瀬 夏実ーー
時刻は深夜2時。
寝つきは比較的早いほうで、普段なら夢の中にダイブしている時間なのだがーー
今日限りは、ベッドに横たわっていても微塵も眠気が感じられない。
その理由は極めて明確だった。
どうしても、目に焼き付いて離れない。
蒼の足を撃ち抜き、
次に私を撃とうとしてきた
あの赤髪の神官の姿が。
同室の女子生徒は既に、二段ベッドの上で心地良さそうな寝息を立てている。
三つ編み+眼鏡というthe 文系少女な外見のルームメイト兼クラスメイト。
そういえば彼女は確か光輝と同じ係になっていなかっただろうか。
‥‥まぁまだあまり話せていないのだが。
この世界に来てから、一体何度 他人との会話に不自由を感じただろうか‥
思い出し、いい加減 自分のコミュ力の低さに辟易してきたところで
私はベッドから抜け出し 立ち上がった。
学校が休みだったというのに、果てしない疲労感が全身を覆った。
私はどうにかそれを振り払うように 一つ大きく伸びをした。
「‥‥外の空気吸ってこよ‥」
ルームメイトが起きないように、慎重に扉を開け 廊下に出た。
深夜なので廊下の電灯の明かりは全て消えているが、
窓から入り込む月明かりのおかげで歩くのに支障はない。
寮の正面玄関の扉を開けて外へ出ると、冷ややかな風が私の頬を撫でた。
ーー今夜は、星が綺麗だ。
空を見上げると、そこには無数の星屑が散りばめられていた。
これらの星は、私達が以前見ていた星と同じものなのだろうか
そんなことを考えながら、校舎の隣にあるベンチを目指し 歩いた。
ようやく目的地であるベンチが視界に入った時、そこに違和感を感じた。
暗くてあまりよく見えないがーー確かにそこには、ベンチに腰掛けている人影が見えた。
向こうはこちらに気づいている様子はない。
‥‥誰だろう‥?
少し離れた所からよく目を凝らし見てみると、
実際はとても見覚えのある人物だった。
長くもなく短くもない髪。
特別に整っているわけでもない顔。
しかしそれでいて、他とは違う強い意思が秘められた真っ直ぐな目。
ーーー私の、好きな人。
「あ‥‥‥蒼‥!」
不意に出た声を聞いて、蒼は私の存在に気づいた。
「あれ‥七瀬? なにしてるんだ?」
どんどん加速する鼓動を黙らせるように自分に言い聞かせながら、私は答えた。
「‥‥ちょっと眠れなくて、気分転換にね
そういう蒼は?」
「‥俺も、似たような感じだ」
「そっか」
ーー蒼はその身で神官の恐怖を受け止めたんだ、
眠れないのも無理はない
私は声が震えないように注意を払いながら、勇気を出して言った。
「‥‥隣 いい?」
「‥、うん。」
その返答に、思わずガッツポーズをしたくなる衝動を抑えて蒼の隣へ座った。
お互いに空を見上げる。
しばらくの沈黙が訪れた。
しかし、不思議と気まずくはない
心地よい空間がそこにはあった。
このまま、いつまでもこうして隣に居られたら。
柄にもなくそんな風なことを考えてしまっていた。
「‥‥昼間、泣いちゃったりして、ごめん」
蒼が神官に殺されなくて、私は安堵して泣いてしまった。
きっと、困らせたに違いない
恥ずかしさと申し訳なさが入り混じった複雑な心境だ
「謝ることなんてないだろ、むしろ‥嬉しかったし」
「‥‥嬉しかったって?」
「七瀬が、俺のこと守ろうとしてくれただろ?
‥‥今まで俺のことかばう人なんて、居なかったから」
そう告げる蒼の目には、どこか悲しげな影があるように思えた。
「‥‥ねぇ、蒼‥」
ーー本当は、聞いちゃいけないことなのかもしれない。
人には誰にでも、隠したいことがある。
己の中でとどめておきたいこともある。
それくらいは、私にも分かってた。
それでも
それでもーーーー
私は、蒼のことがもっと知りたい。
誰よりも理解できる人間で居たい。
自分でも、醜い感情だと痛感する。
好きであるが故に、蒼を傷つけるような質問をしようと言うのだ
私だって、その事実を知りたくなかったと後悔するかもしれない。
しかし、抑えは効かなかった
この悲しい目に秘めていることを
蒼の過去を
全て、知りたいと思ってしまったんだ
「どうして蒼は、そんな目をするの?
‥‥前の世界で、何があったの‥‥?」
私は、蒼にそう言った。
初めて教室で蒼を見たときからそうだった。
彼は、他の人達とは違った目をしてた
絶望の中に希望を見出すことを、諦めてはいなかった。
そんな彼をーー私は好きになってしまったんだ
「‥‥わかった。」
彼はそう言って、話を始めた。