束の間の休息
ーー神の間ーー
「ぐっ‥!!!」
神の間に響き渡る、男の悲鳴。
「おいおい赤髪君
何でこんな状況になってんのか‥分かってんのかァ‥‥?」
悲鳴の主は、片腕の赤髪の神官。
その神官の顔面を踏みつける、黒髪の男が居た。
「テメェが蒼 春樹 を殺せなかった上に
情けなく逃げ帰って来たからだぜ‥?」
男は、より一層足に力を込める。
神官の頭蓋から、ミシミシと音がした。
「アマテラスに吹き飛ばされる瞬間、
緊急転移して逃げてきたんだよなぁ?
情けなくよぉ‥‥」
「も‥申し訳ございません‥‥」
今度は、倒れている男の、横腹を蹴り上げる。
「‥‥覚悟のない神官は、ゼウスには必要ねェんだよ‥」
再び、赤髪の神官の頭を踏みつける
そして力を込めーー
ブチャッ
頭を、踏み潰した
無残に、跡形もなく頭部は潰れて居た。
「まったく、ひっどいことするねー君は♪」
ヘラヘラ笑いながら近づいて行く、ゼウス。
「神官は殺しても死なねーんだし、
別にいーじゃんよー。
てか、アンタだけにはひどいとか言われたくねぇ」
「アハッ☆それは言えてるかもね~」
「‥‥つーかゼウス
やっぱアマテラスの野郎、脱出してやがったみてぇだな」
「あの程度の封印、すぐ破壊されると思ってたよ☆
‥‥しっかし、またもや 蒼 春樹くんの味方が増えちゃったね~‥‥
やっぱり侮れないねぇ、彼は」
「そりゃそうだ、
なんたって《なり損ない》なんだからよォ
運の巡りが一般人のそれじゃねーって。」
「よくも悪くも、ね♪」
「‥‥話は変わるんだけどよォ
アマテラスが向こうサイドについたってことは、
こっちの情報も色々とバレてんじゃねぇのか?」
「だろうね。
きっと彼女のことだから、《運命の日》のことも伝えてるんじゃないかな。」
「おもしれェ‥‥上等じゃねーか
返り討ちにしてやるよ
‥‥蒼、春樹」
決戦はーー12月、31日
ーー街ーー
「ちぇっ、逃がしちゃったか~
てか、転移なんてズルいってのー!」
金髪碧眼の女ーーアマテラスは子どものように騒いだ。
ちなみに、見た目は俺たち中学生と変わらない。
彼女は突如目の前に現れ、あっというまに神官を圧倒し、撃退してしまった。
「怪我はない?蒼 春樹くん‥‥‥って、おもいっきり怪我してたねww
メンゴw」
なんだこいつ。
そういえば、神官とこの人の戦闘に夢中で忘れていた
神官に 足を撃ち抜かれていたことを。
思い出したら急に痛みが押し寄せてきた。
「そんな怒った顔しないでよ~!
回復は手伝うからさ~」
「‥‥回復、出来るんですか?」
「ぷっ、敬語キモスww」
ブッ殺すぞ。
「‥‥回復 出来るのか?」
「あったりまえじゃーん
アタシはアマテラスさんだよ?
ま、痛みを抑えて、自然回復を早めるぐらいしか出来ないケドね~」
「十分だよ、ありがとう」
「そっちの黒髪少女くんは、怪我してない?」
アマテラスが振り向いた先には、七瀬がいた。
呆然と座り込んだまま、神官が消え去った場所を見つめていた。
「あっちの子は、怪我はないみたいだね
じゃあ 蒼 春樹、治療するねー」
アマテラスはそう言うと、俺の太腿に手を触れてきた
そして微かな光と共に流血は止まり、痛みは薄れていった。
「すげぇ‥‥」
「痛みを無くして治癒を早めただけだからね
あんまり動いちゃダメだよ?」
「あ‥‥うん、ありがとう」
「‥あと‥さっきからそこの おんにゃのこが放心状態なんだけど
だいじょうぶー?」
アマテラスは、座り込んだ七瀬に語りかける。
そのとき、七瀬が口を開いた。
「‥あ‥‥‥」
あ?
「‥‥蒼ぃぃいぃぃ!!!!!!」
突如立ち上がり、こっちへ猛ダッシュ
そのまま、俺に抱きついてきた。
「ーーなっ‥‥‥なnななな 七瀬ぇっ!!?」
訳わからない
頭が全く回らない
強く締めつけてくる
顔が熱くなる
苦しい
けど、
温かい
「‥‥怖かった。」
七瀬は俺に抱きつきながら、震え声でそう言った。
ーー当然だ。
目の前で神官を目の当たりにしたんだから
恐怖以外の何物でも無かった筈だ‥‥
「‥‥蒼が死んじゃうと思って
すごく怖かった‥‥!!」
彼女の両目から
大粒の滴が流れ落ちた。
七瀬は
自分の事よりも、俺の事をーー‥‥
「‥‥春樹ぃーーー!!!
七瀬ぇーーーー!!!」
離れたところから、光輝の声がした。
目を凝らすと、こちらに走ってきている光輝と紗理奈が見える。
「ってうおお!?
七瀬とイチャイチャなうでしたか、
これはこれは失礼した」
俺と七瀬を見て、いつものふざけた調子で光輝が言う。
そして俺はスルーする。
「春樹くん!なっちゃん!
大丈夫!?
爆発音が聞こえたから来てみたんだけど‥‥」
「‥あぁ、大丈夫だよ
そっちの人が助けてくれたから」
俺はアマテラスを指差した。
俺が指差すと、アマテラスは光輝に向かってツカツカと歩き始めた。
そのまま至近距離まで接近、光輝の顔をまじまじと見つめる。
「‥‥何だよ」
「‥ふむ‥‥全然足りてないよ
光輝くん‥」
「はぁ?‥‥何言ってんだアンタ?
つーか何で俺の名前‥」
光輝がそう言うと、
アマテラスは一歩下がり、わざとらしく くるりと回った。
長いブロンドの髪と、ワンピースの裾がなびく。
「おっと失礼、自己紹介がまだだったね
アタシは太陽神アマテラス、
運命を司る神様でーす☆」
かわい子ぶった笑顔を浮かべ、そう言った。
「神‥?
ハッ、こんな貧乳金髪ワンピースの神様が居てたまるかってんだよぼォッ」
言い終わるとほぼ同時に
笑顔のアマテラスによる上段回し蹴りが
光輝の意識を吹き飛ばした。
ーーーー
「う‥あぇ‥?」
と、背中から間抜けな声が聞こえた。
「あっ、光輝くん起きた!」
と紗理奈。
「女子に蹴られて気絶ってどうなのよ‥‥」
と七瀬。
泣きじゃくっていた先程とは一転、
いつも通りの七瀬になっていた。
「起きたなら降りてくれよ‥」
今俺たちは、寮の部屋の前に到着した。
俺は気絶した光輝をおぶっている。
まあ男が俺しかいなかったので仕方がなかったが‥‥
正直、足が砕けそうです
俺けが人なのに‥‥
そんな小言を自分の胸に閉じ込め、光輝を降ろしドアを開けた。
「‥へぇー
これが新世界の寮かぁー
なんか普通だねー
つまんなーい☆」
知るかそんなもん
この世界を創ったゼウスに言ってください。
「‥‥えと、何か記憶が飛んでいる気がするんですが」
状況を飲み込めない光輝が言った。
「えーとね、光輝くんは アマちゃんに蹴られて気を失ったんだよ
それで光輝くんは春樹くんにここまで運ばれたの」
紗理奈が光輝に手短な説明をしてくれた。
‥‥てか、アマちゃんって。
色々とマズイ気がするが、放っておこう。
「‥‥そうだ思い出した!!!
おい貧乳女!!てんめぇよくも‥」
「ごめん聞こえなかったなー
もう一回お願い☆」
‥‥あぁ怖い。
アマテラスの目が明らかな殺意を醸し出している。
確かに彼女の胸は申し訳程度にしかないが。
「‥なあ。早く本題に入らないか?」
このままだと また光輝が気絶させられそうな気がしたので、
俺はそう言い出した。
「そうだね!
2人とも けんかしちゃダメだよ!」
紗理奈はそう言った。
健気な子や‥‥。
「じゃあ蒼、カグちゃん呼んで」
黒髪ショートの七瀬は、俺に向かってそう言った。
‥‥さっきは泣きながら抱きついてきたりしたってのに、
案外普通に接してくるんだな‥
そんな事を思いながら、俺はポケットの鍵を取り出した。
ーー鍵
これは新世界の欠陥、即ちバグだ。
本来、俺たちと神々が出会うことなんて絶対にない。
それが可能なのは、今いるこの世界は、創造神ゼウスが即興で創ったものだからだ。
期間は僅か一週間。
俺たちは、新たなる世界でバグを見つけるための「駒」として使われている。
前の世界は、住人と共に既に崩壊した。
その中の数百名の中学生が、欠陥探しの道具のためにこの世界へ連れて来られることになった。
‥‥そういえば、
連れて来られる人は、どのように選んだのだろうか?
ランダムなのか
それとも、何か共通点が‥‥?
そしてもう一つ気になることがあった。
白い空間でゼウスが言った、
俺達のことは、諸事情で殺すことが出来なかった
という言葉だ。
奴はいずれ分かると言っていたが、あれの真実は一体なんなのか。
そんな思考を巡らせながらも、
俺は鍵に語りかけた。
「カグ、出てきてくれ」
鍵は俺の呼び掛けに応え、赤く輝いた。
同時に光の球体が目の前に現れ、徐々に子供のような姿へ変わる。
ーー神官に弾き飛ばされた鍵は、幸いにも傷一つついていなかった。
よほど頑丈な素材なのだろうか…
「ふぅ…ようやく出してくれたか…」
カグは溜息まじりに言った
「きゃーーー!!!
かぁぐつちぃ~~!!!!」
満面の笑みで 叫びながらカグに抱きついたのは、アマテラスだった。
「んなっ!!何故貴様がここに居る!!?
だっ、抱きつくなぁ!!
ナデナデするなぁ!!」
抵抗するも、まるで子供のような扱いをされている。
いや、まるで っていうか 子供だな
「かぐつちー!!会いたかったよ~!!!
相変わらずちっちゃくて可愛いね~!!」
「きっ、貴様からかっているのか!?
早く離れろ!!」
そう言いながらも、カグは照れて赤面している。
「大体、貴様はゼウスに拘束されていたのではないのか!?」
カグが言った。
「ばかだな~カワイイな~かぐつちー
あんな封印アタシに通じるワケないじゃーん!
かるーく脱出したよ!」
「なぁ…話、始めないのか…?」
こんなやり取りが終わりそうになかったので、
俺はみんなが思っているであろう事を再び言った。
「…アマテラスは、どうして俺達を助けてくれたんだ…?」
俺は疑問に思っていた事を口にした
別にアマテラスには、俺達を助ける理由は無かったはずだ。
「今、君達を死なせるには勿体ないんだよ。
それに、アタシには君が必要なんだよ
ーーー蒼 春樹。」
アマテラスはそう言うと、四つん這いになり、こちらへ ぐいっと顔を近づけた。
ーーー睫毛が長い
唇には艶があって
瞳は透き通るような藍色
髪は一切の濁りのない黄金…
その美しさに、声も出せず見とれてしまっていると
「お……おいアマテラス、近いぞ!!
は…春樹から離れろ!!」
カグが、赤面しながらそう言った。
「あっれー!
もしかしてかぐつちー、
ヤキモチやいてんのー!?w」
「ばっ…馬鹿を言うな!!!
そんなわけないだろう!!」
「あはっ、こどもだねぇー」
「……っ!子供いうなぁー!!」
「にゃっははー☆
…まぁふざけるのはこの辺にしておいて、」
そう言うとアマテラスは、途端に真面目な顔つきへ変わった。
「……君達の目的は
世界の欠陥を見つけ、ゼウスが持つ前世界のバックアップに干渉し、
元の世界へ戻るコトーーーでいいんだね?」
「…ああ。」
「…単刀直入に言うと
残念ながら、それは現時点では不可能だよ。」
彼女は、俺達に受け止められない現実を突きつけた。
「なっ……!!!
ふざけた事言ってんじゃねぇよ!!!!
それじゃあ 俺達は元の世界に戻れねぇっていうのか!!?」
光輝は 声を荒げて言った。
「違うよ、アタシは可能性の話をしてるだけさ」
一呼吸おき、アマテラスは続ける。
「アタシは運命を司る神、アマテラス
人の運命を視覚化することが出来る。
今 見える君達の運命は、一年後に全員が死亡するってことだけだよ」
「ーーーウソだろ…?」
開きかけていた道が閉ざされ、再び暗闇へ突き落とされたような気分になった
「……けど、そんな運命を変えるーー
…いや、『歪める』ことが出来るかもしれない。
蒼 春樹……君の力があれば。 」