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終焉
『私を、終わらせて。』
栗色の髪をなびかせた彼女は 笑顔で、しかし溢れ出る涙を堪えずに そう言った。
深い闇の中で 大粒の水滴が、微かに虚しく輝いている。
かく言う俺の目からも無数の涙の粒が零れ落ち、とめどなく流れる。収まる気配は微塵もない。
黄金の柄のナイフを握る俺の右手は、激しく震えていた。
『ーー大好きだよ。』
か細い声で、彼女は俺に好意を伝えた。
たった一言。
しかしその言葉は俺に重くのしかかり、離れようとはしない。
数え切れない思い出。
それらが俺の脳裏を横切っては 散って行った。
『‥絶対、絶対に助けに来る。
だから‥‥待ってろ。』
そう彼女に伝え、強くナイフを握りしめた。
『‥‥うん、ずっと、待ってる。』
何度目かの眩しい笑顔で、少女はそう答えた。
その返答を聞き終え、俺は彼女の腹部に刃物を深く、深く突き刺した。
これでこの世界は終わりを迎えることとなる。
この瞬間 全ての人間の記憶は削除され、新たなる物語が始まった。