捨てた息子がヤンデレになって戻ってきた。
「お母様、迎えにあがりました」
ものスゴい美形の青年が、私の手を握ってキラキラとした目でそういった。
アレックス・ラミンレクス
彼は、プルデンシャル王国の王子であり極悪非道の独裁者であり、英雄だ。特悦した実力で民や兵士に絶対忠誠を誓われている。
多分こんな中年の薄汚れた女を母と呼ぶような人間では決してないのだが、青年は期待した面持ちでいった。
「私のことを覚えてますよね!?」
「....え、えぇ、覚えてるわ」
ごめん、貴方は誰ですか?
でもそれを言ってしまったら、不敬罪とかで殺されるかもしれないから取り合えずそう言う。
いや、こんな薄汚れた中年女が母と名乗る方が不敬罪なんじゃないだろうか....
とかそんな考えが迷路のようにグルグルと回っていると...一人の少年が頭の中でヒットした。
「ラミ....よね?」
確か、適当に付けた名前が長すぎるから、適当に短くしたアダ名で呼んでたと思う。
「はい、ラミです」
その名前で私は大体のことを思い出した。
私はプルデンシャル王国の娼婦上がりの使用人だった。
けれど、当時の王様が私に手を出してきて、当時若かった私も「わーい!王子とヤれるラッキー!」とか軽くアホなことを考えてたら、なんと妊娠してしまったのだ。
でも元は娼婦だったので別にいいやーとか、中絶しとこー、とか論理感も道徳もへったくれもないことを考えていたのに、中途半端に優しい王様がそれを許さなかった。
「子供を産んでくれ!側室になって育ててくれ!」
王様に言われては、仕方がないし何より側室とかラッキーと思って快諾したけど、世界はそんなに甘くは無かったのだ。
何故ならば最早王様と王妃様の間には2人の子供をもうけており、私が産んだ息子がいい風に見られる訳がなかった。
「貴方って本当に薄汚れているのね....まるで貴方の心のようだわ」
「私から夫を誘惑して...汚い娘」
「いい?身分を弁えなさいよ、貴方の息子は皇帝なんかになれないんだからね」
まぁ、こんな感じに私はめっちゃ風当たりが悪くて散々嫌がらせを受けながらの生活だった。王様も子供産ませたらそれで終わりとばかりに交流がない。
まぁ、娼婦時代の嫌がらせはもっと酷くて残酷だったからお嬢様育ちの嫌がらせは可愛らしくてそこまで苦でもなかった。
「お母様!大好き!」
何より、この子がこんな風に言ってくれるのがそこそこ嬉しかった。
ぶっちゃけコイツのせいで不幸な目にあってんだから、マザコンになってくれないと、割に合わねーんだよ。という気持ちもあったことは認めよう。
「私も大好きよ...ラ...ラ」
ラ...なんだっけ?ヤベーな、確か名前だけでも王子っぽくと思って適当に長くしたような気がするけど、ちょっと忘れた。確かラミ何とかだった気がするけど....もうラミでいいや。
「ラミ、愛してるわよ」
「嬉しい!」
ちょろい子供である。
しかしながら、私の息子は本当に私の血が入ってるのかと思う位に美形で優秀で、ちょっと魔性な子供だった。
コイツだったら王国とか支配出来るかな~アハハ...
「何考えてるのー?」
「んー?ラミのことだよ~」
「わーい!」
本当にチョロい子供である。
と、まぁなんとか8年間頑張って育ててみたのはいいけれど、元々子供好きでもなく、しかも側室生活ももう面倒臭くなったので、出ることにした。
理由は適当に、王妃からの嫌がらせとか心労とかそれっぽく。
「出ていっても構わないが、子供は残しておけ」
私が出ていく条件として、王様はそういった。親の贔屓目なしでラミは優秀だからこの国に役立つと考えたんだろう。
元々ラミを連れて行く気なんて無かったので私は快諾した。
荷物を纏めて、王宮を出ていく日に余り泣かないラミが泣きついてきた。
「嫌だよお母様!!何処にも行かないで!僕いい子になるから!役に立つから!!一人ぼっちにしないで!!出ていくなら僕も連れてって!一人にしないでぇぇええ!!!何でもするから!」
滝のように涙を流して必死で懇願するラミはとても哀れで美しく、心が張り裂けるような気持ちにさせるであろう姿だった。
しかしこれを見ても何とも思わず、寧ろウザったいと思う私は多分母性本能とか無いのだろう。ここに留まる気持ちもラミを連れて行く気も起こらない。
しかし、私は悪役とか子を捨てた母になりたくなかったので、適当に嘘をついて、適当に希望を与えた。
「私もね、ラミを愛してるの。でもね、あの人たちが私を追い出すの....」
「あの人たちが...?」
私は自分が出ていく理由を王族のせいにして、責任を丸投げした。
「そうよ、ラミも私も悪くないわ。あの人たちが悪いの....だからラミ、この国を変えるような人間になるのよ。
そうなったら、また一緒に暮らしましょう」
作り笑顔100%で飾り立てながらそういった。ラミが私の服から手を離した隙に、私は悲しそうなフリをしながら王宮を後にした。
まぁ、それからパン屋を経営したり孤児院を作ったり病院を作ったり学校を作ったり大工になったり隣国の軍隊長になったりとか、激動の10年を過ごしていた。
私にとっては退屈凌ぎで、暇潰しでしかないが、周りに神だ聖母だ戦士た裏切り者だと色々いわれた。
私は好きなことを好きなようにやってただけなので、その辺はどうでもよかったけど、結構充実していた。
だから、退屈だった8年間なんてすっかり忘れてた。
ラミンレクスが独裁者となって英雄になってるのはしっていたが、ラミの本名なんて忘れてたので王妃の子供か何かだと思ってた。
現在私は、やりたいことを粗方やって結構満足したから森の奥の小屋でゆったりと過ごしていのだ。
「10年前、貴方がいなくなってから私はこの国を支配することに時間がかかってしまい、申し訳ございません」
そもそも国って支配しようと思って支配出来るのか?という疑問より先に、頭を下げる王子に慌てて顔を上げるように諭す。
「やめてください!私は貴方の顔を見れただけで嬉しいですから....本当に会いたかったわ....」
嘘である。正直な話、もう会いたくもなくてさっさと何処かに行って欲しい。
「お母様、やっと貴方を迎えにいくことが出来ました。
さぁ、一緒にいきましょう」
「何処へですか?」
嫌な考えが頭を過る。
「王宮ですよ、一緒に暮らして幸せになりましょう。幸せにします。結婚しましょう」
まるでプロポーズだ。というかプロポーズだ。
「いや、私たち親子だよ?」
しかし、忘れていた。こいつが独裁者になっていたということを
「私がそんな法律を変えました。親子で結婚できるんです。逆らう王族は消しました、貴方を苦しめていた王妃は死に、王と兄たちは私の操り人形です、何も心配ありません」
いや心配だらけだよ!なんだよそれ!?聞いてねーぞ!!
つーか独裁者ってスゲーな!法律変えちゃったよ!
「あと、私に逆らう人間は反逆罪で死刑です」
キラキラ目が太陽のようなキラキラ....というかコイツどんだけ目を光らせれるんだよ!?
「あ、私は勿論お母様を殺したりしませんよ....ただ、愛するお母様を牢獄に閉じ込めたり、薬漬けにしたり、手錠や足枷をするのは、ちょっと気に病むんです....」
何する気だよコイツ!!しかもちょっとしか気に病んでくれないよ!というか既に色々と病んでるよコイツ!
「一緒に....来てくれますよね?」
「は、はい」
余りにも怖すぎて、思わずハイと言ってしまった。
神様、私の息子がヤンデレになってしまいました。どうか助けてください。
勢いで書いた小説です。良かったら、感想下さい。
主人公は本気で息子への愛情は無いです。なんか体から出てきたペットとかだと思ってます。
母としては最低だけど、人間としては色々と偉業を成し遂げているので立派です。




