表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

ツナギの少年

本当にお久しぶりです、時雨です。予想外のスランプに入ってしまいましたが何とか書き上げました。今回は裕子の話ですよ、それではどうぞ

                      ●

みやさん上がって!ゆうみのるをマーク!」

「真と雄二はそのまま守りを固めて!武人は宮さんの対応を!」


チーム結成から早一か月、メンバーも六人増えて八人になり、ほぼ初心者の集まりだったみんなもこの頃にはかなり上達していた。


ピー


「ミニゲーム終了!今日はここまでだ、各自クールダウン後帰ってゆっくり休むように」

「皆さんお水ですよー」


お父さんは本当に監督に就任しちゃったし、雪はマネージャーとしてチームを支えてくれている。


「ありがと、雪」

「にしても早いねぇ、一か月って」

「本当に。メンバーも集まってきたし、順調、順調」


裕子はあははと笑う。


「だよね。そういえば武人、実、二人ともドリブルうまくなった?」

「ん?ああ、まぁな」

「武人も自主練やってるからねぇ」

「な、お前が誘ってきたんだろ、実!」

「そうだけどさ~」


武人もそうだけど弄ってる実の顔も少し赤い、要するに二人とも照れてるんだ。


「そうそう、真と雄二もディフェンスうまくなってるし」

「そりゃ大事なセンターバックだからな」

「僕らが抜かれちゃ意味ないし」


普段は二人して場を盛り上げてくれるけどそんな中でも自分の仕事の責任を自覚してくれるのは何よりもの嬉しかった。


「皆さん気づいてますか?今日、誰も勇くんをドリブルで抜けてませんよ」

「え、そうだっけ?」

「宮さんがバンバンパスカットしてたからその印象が強すぎて…」

「勇の印象が薄れちゃったね」

「どうせ地味な存在ですよ!」

「ははは…」


勇が口を尖らせ雪が思わず苦笑する。


「まぁまぁ、そのパスカットができたのは勇が相手をパスに頼らざる得ない状況においてくれたからなんだよ?」


その話の中心人物である宮さんが勇へフォローを入れる。


「それも宮野先輩が教えてくれたことじゃないですか」

「あんなの教えて一日二日でできることじゃないよ。勇の呑み込みの早さには驚かされてばかりなんだからね」

「そう言われると…、嬉しいっす…」


勇が照れ隠しか少しうつむく。そんなことはお構いなしに宮さんは相変わらずのふわふわとした笑顔を浮かべて勇を褒めていた。

勇はこのチームで唯一の一年生だ。そしてチームに入ったきっかけはなんと裕子のチラシだったの。あの公園でウロウロしていたのを通りかかった裕子が連れてきたんだけど、そのとき勇にサッカーを教えていたのが宮さんだった。

かく言う宮さんこと宮野大地みやのだいちはチームを結成してから一番最初に入ってくれた男の子だ。宮さんもきっかけは裕子だったらしい。なんでもまだ一年生だった時の体育でサッカーをやったときずいぶん熱心に勧誘されたそうだ。そのかいあって入ってくれたんだけど、なんで上手いのか聞いても少しやってただけって言って教えてくれないんだよなぁ。まぁ、その辺は閑話休題ってやつね。そんなこともあって勇はすっかり宮さんに憧れて宮さんもそんな勇に目をかけるって関係になってた。まぁ、実際宮さんが一番うまいし、私も一回も勝てたことないからそこに憧れるのは分かるんだけど…ちょっと複雑なんだよなぁ。


「本当うれしいよ、ここにいる全員が強くなろうって思ってくれてることが」


裕子がそう言った。私も同じ、武人も実も、真も雄二も、勇も宮さんも、そして裕子も、全員が強くなろうと努力しているのを感じるたびに私も嬉しくなる。


「でもまだ三人足りないんだよね…」


「えぇ、そろそろ十一人そろえないと」


あと三人、出来れば得点力のあるフォワードが欲しいと思っていた。


「そこは悩んでも仕方ないって。んじゃ、そろそろ帰りますか」


「…そうですね、帰りましょうか」


この言葉を皮切りに、私たちはそれぞれ帰路に就いた。


                    ☆

「はぁ、試合したいなぁ」


いつもはつかない溜息をつきながら私、柊裕子はそう呟いた。静音にはああ言ったけど、正直それについて一番悩んでいるのは私。チームを作っても試合ができなきゃ意味ないじゃん!でも、その人数不足をどうにかする手立てもないし…。

実際三人とはいかなくても一人あてはあった。当時、ディフェンダーとして上手くいかなかった私にゴールキーパーっていう道を示してくれた、そして私の初恋の人。でも、


「あいつはサッカー部にいるしなぁ」


サッカー部にいるのにわざわざ移籍(?)を頼むのも気が引けるし…。そんなことを思いながらいつも通りの帰り道を歩いていた。ちょうど家の近くの公園まで差し掛かった時、突然、パンッ、パンッ、と何かが壁にぶつかる音がした。


(この音、サッカーボール?)


その音の正体がサッカーボールが壁に当たる音だと私は気付いた。


「こんな時間に誰だろ…」


私は少し興味がわき公園の中をのぞいてみた。そこにいたのは大工さんが着るような作業用のツナギ着た見た目的に私と同じくらいの男の子、その男の子が壁に向かってサッカーボールを蹴っていた。そしてそれを見ていた私の顔は、間違いなく驚愕の色に染まっていた。


「すごい、まったく同じところに返してる…」


彼が蹴りだしたボールは時に曲がり、時にまっすぐ、あらゆる軌道を描きながら壁に描かれた直径数センチの黒丸を狂いなく射抜いていた。それをさらに十数回ほど繰り返し、ボールを足でトラップして止め、ふっと息を吐いた(ように見えた)。


パチパチパチ


「ん?」


気づいたら私は彼に拍手を送っていた。彼の技術にある種の感動を覚えていたから。そんな私を怪訝な顔で見つめる彼…あ、


「すっすごいね!さっきの!」


顔が熱くなるのを感じながらついまくしたてる私、はっはずかしいよぅ…。


「え、あぁ、ありがとう。もしかしてここら辺の人?」

「うん、私は柊裕子。家が近くなの、君は?」

「俺は修麻。最近越してきたんだ、よろしくな」

「へー、もしかして苗字って西堂?」

「あぁ、そうだけど」

「じゃあ君なんだ、5組に転入してきた転校生って」

「たぶんそうだろうな。転校生は俺だけみたいだし」

「私も神影中なの、2組だから暇があったら絡んでね」


私が一通りしゃべった後、修麻は私が持つサッカーボールに気付いた。


「あれ、柊もサッカーやってるのか?」

「うん、部活じゃなくてクラブチームだけど」

「まぁ、サッカー部のほうはあんまり楽しそうじゃなかったからな」


修麻の言う通りうちのサッカー部は県内でも名門として知られてるけど、反面厳しいのでも有名だった。むしろ厳しすぎると言っても過言じゃない気がする。


「やっぱりそう思う?」

「あぁ、なんかどんよりしてる気がする。誘われてるけど正直あそこでサッカーやりたくねぇんだよな」


あくまで、サッカーはやりたいけどと修麻が呟く。その時、私の中で何かが反応した。


「じゃあさ、うちでやんない?サッカー」

「え?」


さすがにこれには修麻も面食らったように驚いた。


「実はさ、そのクラブチーム私ともう二人の子とで作ったんだけど」

「いや、ちょっとまて。作ったのか?チームを?」

「うん、作った。監督は別の子のお父さんでちゃんと場所も借りてるよ」

「マジかよ…」

「マジマジ。でさ、出来てまだ一か月しか経ってなくて人数足りてないんだよね。だから入ってくれたらうれしいなぁって思ってさ」

「あー、そうだな。俺の家もまだ引っ越したばっかでバタついてるからまだ何とも言えないしな…。まぁ、考えとく」

「うん、考えといて、考えといて。あ、そうだ」


私はメモ帳を取り出し、場所の住所と簡単な地図を描いて修麻に渡した。


「はいこれ、ここで水木土日に練習やってるから良かったら見学に来てね」

「分かった」

「それとさ、最後にお願い、いい?」


私は黒丸のあった場所の前に立った。


「私と勝負して」

「は?」


修麻がおもわず間の抜けた声を出す。


「実は私キーパーなんだよね。だからうけてみたいなって」

「別に大したものじゃないだろ」


修麻は苦い顔をしてはぐらかそうとする。でも、


「あんな・・・・見せられて受けたくならない方がおかしいよ。それとも、私じゃ力不足?」


私は自分にできる最大の挑発をやって見せた。隠そうとしても無駄だって意味も込めて。


「はぁ、分かった分かった。一回だけだぞ」


修麻は気を悪くした様子もなく半ば呆れ気味に言った。

彼がボールを定位置に置く。その瞬間、身に纏う空気が変わった。


「っ……」


ドロリとしたものが背中を伝う、汗だ。今まで感じたことのない気持ち悪い汗がまるで私を凍てつかせるように体温を奪い、硬直させる。今まで受けたこと事のない、あいつとも、静音とも違う独特の覇気プレッシャー

それは私と体を分離させる。


(分かってる。でも動かない!?)


修麻はすでに動き出している。理解しているのに体が言うことを聞かない。そして彼の足が、ボールに当たり、消えた


パンッ……


ボールの消失を認識したとき、敗北を教える軽快な音が私の耳元で鳴り響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ