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全ての始まり

お久しぶりです、時雨です。

今回は過去編となります、それではどうぞ。

「あの、どなたさん?」


突然頭上から降ってきた声に私はちょっと顔を上げ彼女(セーラー服を着てるからたぶん女子)にそう応えていた。


「あ、ごめんごめん。私、柊裕子ひいらぎゆうこっていうんだけど分かる…わけないよね」


急な展開で少し面食らったけど、とりあえず彼女、裕子の顔を見てみた。ベリーショートの髪、目はパッチリしていて心なしか声も少し低くボーイッシュな雰囲気がある。というよりセーラー服を除けば見た感じほぼ男子なんだよなぁ…「ちょーい、聞いてる?」あ、


「ごめん。とりあえず質問いい?」

「…どうぞ」

「まず、私と裕子さんは初対面ってことでいいんだよね?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、なんで私がサッカー好きなこと知ってるの?」

「あぁ、雪って知ってるでしょ?私も雪の友達なんだ」

「え、雪の?」


雪っていうのは私にとって中学で初めて出来た友達で本名は高坂雪たかさかゆき。色白で黒髪の似合う和風美少女。でも人見知りが激しくてクラスに馴染めてなさそうだったから話しかけたら案の定って感じだったなぁ。あと、体が少し弱いらしいけどサッカーの知識がすごかったんだよね、ほんと。


「なら納得かも」

「でさ、これ渡しにきたんだ」


渡されたのは一枚の紙。内容は…


(なにこれ?サッカーやりませんか、チームメイト募集って)

「えぇ!?」

「んじゃ渡したから、場所はそこに書いてあるしね。じゃっ、バーイ」

「あ、ちょっ」


こうして裕子は嵐のように去って行った。今考えれば人騒がせもいいところなんだけどね。

…そして放課後、私は結局その場所に行くことにした。と言っても迷うことなんて無かったんだけどね。色々なサッカーチームに断られて半ば諦めてたサッカーをやるチャンスが舞い込んできたんだもん、誰だって行くよね!

その場所はだいたい家から自転車で10分ぐらいの所にあった。あまり人目につかないギリギリミニゲームができるくらいの広さしかない公園、そんな所にぽつんと2人の人影…


「あ、こっちこっちー」


手を振っているのはやっぱり裕子、その隣には雪。


「やっぱり来ましたね。静音ちゃん」


鈴のような綺麗な声、ほんと癒される。


「まぁね。でも…」

「予想以上に集まらなかった」


裕子が隣でしょぼくれている。


「ほとんどノープランだったんですからしょうがないですよ」

「いやいや、サッカーチーム作るのにノープランって」


無茶苦茶過ぎるわ。だから問い合わせの電話番号すら載ってなかったのか。


「ま、いいや。浅見さんサッカーしよ、サッカー。一応来てくれたんだし」

「いいね。やろうやろう」


こうなりゃやけくそだ。雪なんてもう笑ってるし、…引きつってるけど。

それから1時間くらいやっていたのはPK対決だった。んで、このときに私は裕子がキーパー志望だってことを知った。ん、私?私はフォワード志望、やっぱカッコイイじゃん、フォワードって。それにこの公園にもサッカーゴールがあったのにも驚いたなぁ、すごい古かったけど。


バシュッ! パシッ!


「ナイッシュー!すごい上手いじゃん」

「いやいや、端ギリギリ狙って止められるってどんだけ守備範囲広いんよ」


もはや蹴る前に動いてる気がする。後で聞いたんだけど裕子には蹴りだされた瞬間にボールがどのように飛ぶかどう変化するか感覚的にわかるそうだ。


「いやぁ、昔からシュート受けてたからね。反射神経には自信があるのだよ、これでも」


裕子が胸を張る。…うん、胸は私のほうがあるな。


「へぇ、じゃあこれでも…」


私は少し後ろに下がり、そして


「くらえぇ!」


そのままシュートを放つ。狙うのはさっきと同じゴール右上。


「そこは通じないよ!」


裕子がボールに合わせて右上に跳ぶ。裕子の本当のすごさはそのジャンプ力、160㎝とけして大きいとは言えない体格(女子としては十分大きいとおもうが)の裕子だが、それでせえ軽々ゴール端に届くのだから驚きだ。そしてボールは裕子の手に弾かれ…ることなくゴールへと吸い込まれていった。


「え?」


裕子はつい間の抜けた声を出してしまう。それもそのはず、ボールは裕子の手をすり抜けように通過していったのだから。


「すごい!もしかして無回転シュート!?」

「そっ、覚えるのに結構かかったんだよね」


無回転シュートっていうのは文字通り回転をかけずにうつシュートのことでスピードはないけど空気抵抗で球筋がぶれるんだ。これが手をすり抜けたように見えたわけ、ほんと覚えるの大変だったなぁ。


「でも、やっぱりすごいよ裕子さんは」


わたしと座り込んだ裕子に手を差し出す。裕子もニッと笑って私の手を掴んだ。


「裕子って呼んで。静音もすごいよ、あんなシュートできるなんて」

「…ねぇ、裕子。本当にサッカーチーム作らない?今度はちゃんと計画立てて」

「やっぱノープランはまずかったかぁ。でも、今度は出来そうな気がする」

二人で話していると雪が慌てて近づいてきた。

「わっ私も一緒にやらせてくださいね」

「もっちろん!」

「一番最初に巻き込んだんだし」

「あ、そうだ。明日もここに集まらない?さっそく計画立てよ」

「いいねぇ~、集まろ集まろ」

「そうですね。明日は土曜日ですし」

そう約束して私たちは解散した。


…翌日。朝10時にはもうあの公園に集まっていた。


「さて、まず練習場所を確保しなきゃだね」

「えー、ここじゃダメなの?」

「いくらなんでも狭すぎるでしょ…」

「サッカーどころかフットサルすら危ういですからね」


はっきり言ってここが一番のネックなのだ。練習場所が無ければチームメイトを集めることすら出来ない。しかし、逆を言えば練習場所さえ確保できれば人などを集めることがグッと楽になるということだ。


「でも、練習できる所なんてある?」

「うーん、おじさんなら何か知ってるかな」

「おじさん?」

「うん、スポーツ店のおじさん。小さいころからの知り合いなんだ」


おじさんはお父さんの高校からの親友で生まれてからずっとこの町で暮らしていたらしい。小さいころからよくうちに遊びに来てくれていて、そのときにはよくサッカーの話をしてくれてたんだよね。そういうこともあって一時期私はおじさんの店に入り浸ってずっと話し相手になってもらってたんだ。(基本サッカーについてとサッカーが出来ないことへの愚痴だけど、うぅ、今考えるととんでもない黒歴史だよなぁ)ちなみに今私が使っているスパイクもおじさんからのプレゼントだったりするの。


「てことは、私たちが知らないような場所も知ってるかもしれないってこと?」

「そーいうこと。じゃあ、行こっか」

「開始10分で人を頼るの一択ですか」


雪の苦笑交じりのツッコミはスルーして私たちはおじさんの所へ自転車を走らせた。



「ということなの」

「へぇ、静音ちゃんがサッカーチームをねぇ」


おじさんが思わず唸った。


「どこかいい場所知りませんか?」

「いい場所といってもねぇ、広さが足りないところがほとんどで…。いや、そうだ。あそこなら充分な広さがあるぞ」

「あるんですか!?」


裕子が思わず身を乗り出して聞く。


「ああ、だが場所が思い出せない。大樹なら覚えていくかもしれないな」

「え、お父さんが?」


意外な名前に少し面喰ってしまう私。


「ああ、ちょっと待ってなさい。大樹を呼んでから行こう」


おじさんは奥へと戻り、私は二人にVサインを送った。

…20分後私たちはおじさんとお父さん、2人と一緒にその場所へと向かっていた。


「しかしびっくりしたよ。まさか静音ちゃんがチームを作ろうなんてね」

「それを言うなら俺もだぞ。飲んでたビール吹き出しそうになったんだからな」


お父さんが笑いながら言う。吹き出しそうって実際吹き出してたし。


「言い出しっぺは裕子なんだけどね~」


そういって後ろを振り返れば居心地悪そうにとぼとぼ歩いてくる裕子と雪がいる。


「なんかアウェー感半端ないんだけど」

「入る隙がないですからね」

「さっ、着いたぞ」


着いた場所は町はずれのにある大きな倉庫だった。


「ここ?」

「あぁ、ここは俺たちが学生の頃からある倉庫でな。前に自治会長さんが役場に問い合わせてみたら一応町が管理しているが立地が悪いから使うこともないし使うことがあったら自由に使ってもいいっていう返答がきたらしい」

「へ、へー…」


雪が苦笑いを浮かべた。そんな管理体制で大丈夫か、公務員…って感じに。


「でも勝手に入って大丈夫なんですか?」

「ここに来る前に許可取っておいたから大丈夫だよ」


電話をかけたら律儀りちぎですねと返されたことは後で聞いた話だ。


「まぁ、自治会のほうもまつりの道具がちょっと置いてあるくらいでほぼ手つかずのままだし、なにより、」


お父さんとおじさんが搬入口らしい扉を開ける。中に入った時、私たちは目を見開いて言葉を失った。


「これだけの広さがあれば練習どころか試合だって出来るってことさ」


おじさんがニヤリと笑う。そこに広がっていたのはサッカーコートがゆうに入るであろうほどの巨大な空間だった。


「25年くらい前か。俺たちもやったよな、ここでサッカーを」

「あぁ、いつも夜に忍び込んでな。まさか娘にここを紹介することになるなんて思ってもみなかったが」


お父さんがしみじみ言う。だけど私たちにはそんなことなど聞こえていなかった。ただ、サッカーができるという思いに駆られていたんだ。


「なぁ、静音。俺には1つ夢があるって言ったことがあったよな」

「監督をやってみたい。だっけ?」


ずっと前にサッカーの試合を見ながらお父さんが言ったこと、それが監督という夢だった。そのために監督に必要な資格も取ってしまったくらいだ。


「ならやりましょう、監督」

「え?」


そう言ったのは意外にも裕子だった。


「だって言ってたじゃないですか、ここでサッカーしてたって」


訂正、裕子はちゃんと聞いていたらしい。


「ていうことは選手だったんでしょう?ならサッカーについても詳しいし作戦なんかもうまく考えてくれるんじゃないかなって」

「そうですよ、そのほうがいいと思います」


雪も笑って賛同する。


「監督、か」

「いいじゃねぇか。やってみろよ、大樹。これ以上ないチャンスだろ?上神うえかみ高の名参峰めいさんぽうまたみせてくれよ」

「そう、だな。ここで怖気づくわけにはいかないよな、やってみようか監督を

「そうこなくっちゃ!」

「なら俺もスポンサーぐらいはやらせてくれよ。用品とかやすくしとくよ?」


おじさんも笑いながら言う。相変わらず現金な人だ。


「よし、新チーム始動だー!」

「おー!」


裕子の声に私たちも応える。ここから私たちの夢が始まったんだ。

真面目に働いている公務員さんすみません

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