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ROLLING

作者:

2010年に『スポーツ』をお題に書いた短編です。

 世界は廻る。


 ◇


 ――某月某日。


「ハァッ……ハァッ……くそッ!」


 少年は息を切らしながら、夜の街を疾走る。

 まるで何かから逃げるように。

 その“何か”は、少年にすら理解らないものだった。

 理解らないからこそ、彼は我武者羅に疾走るのだろう。

 少年はかれこれ三〇分以上は全力疾走しているが、未だに不安から解放される気配は感じられなかった。

 だが、少年の後方には少年を追っている様に見えるものは確認できない。

 追うものが居ないのなら足を止めればいいのに、少年は一瞬たりとも気を緩める事はしない。

 少年はふと、身を隠すにはうってつけの路地裏に目が行く。

 路地裏にちょこんと居座っている黒猫がこちらを睨んだが、少年は思わず睨み返して黒猫を退かした。

 奥へ、奥へ、奥へ、奥へ。出来る限り奥へ。街の明かりが届かなくなるぐらいの闇へ、少年は足を踏み入れていく。

 ここで漸く彼の緊張が解けた。


「ハァ……此処なら、しばらくは大丈夫だろ」


 少年は安堵の溜息を吐く。

 しかし不安は完全に抜け切れてはいない。

 兎に角夜が明けるまで疾走り続けるしかないか、なんて事を考えていた時、


「見ィーつけた♪」

「――――ッッッ!!」


 自分しか居ない筈の絶対空間に染み込んできた声に少年は戦慄した。

 同時に終わりだ、と確信した。

 最早逃げる気も起きない。これ以上はもう、体力の無駄だ。

 目前まで迫ってきた“それ”は少年と同じ人間かもしれないし、ひょっとしたら人の形をした死神かもしれないし、あるいは巷で話題になっている無差別猟奇殺人事件の犯人かもしれない。

 だが少年にとって今はそんな事どうでもよかった。本当に。心底。嘘偽り無く。

 せめて、楽に死ねればそれでいい。ただただそれだけを考えていた。


「あれェ? 逃げないの? 面白くないなぁ。まぁいいや、こっちも疲れてきたし。んじゃ今日はこの辺でゲームセットっつー事で♪」


 ――少年は紛れも無く“恐怖”そのものから逃げていた。


 ◆◇


 六月二八日、午後三時二〇分。

 梅雨のジメジメとした気候に不快感を抱かずにはいられない赤毛の少年――喜志廻世きし・かいせいは、既に下校時間だというのに呆と教室の天井を眺めていた。

 動きたくない。それが唯一絶対の理由だった。

 もういっそ学校で寝泊りしてやろうか、と思うほど彼にとって今日という一日は面倒に感じられた。

 人間というものは不思議なイキモノだ。日によって一日の感じ方が変わるなんて、恐らく人間ぐらいだろう。

 そんな下らない事を考えている自分が下らなくなって、廻世は思考を止めた。


「そろそろ帰るか」


 気だるそうに席を立つ廻世。

 教室には彼しか居ない。その光景は少しばかり虚しい。

 最後の人は鍵を閉める、という起源が理解らないルールに従うほど喜志廻世という人間は真面目ではない。

 どうせ盗られるものなんか無いから鍵を閉めなくても大丈夫、という結論を出して廻世は教室を出る。

 その時、


「あッ。ちょっちー、喜志君ストップストップー」


 まるで図った様なタイミングで少女の声が飛んできた。

 廻世は声のした方を向く。

 其処には、黒く塗り潰されたような長髪をポニーテールにしている少女――雨崎事実あまさき・ことみが悠然たる態度で立っていた。

 美々しさと毒々しさを兼ね備え、素敵と不敵が同居する笑みを浮かべながら。


「……何だよ雨崎。先に言っとくけど面倒事はごめんだぜ」

「まァたそういう事言うー。はいコレ、“みーちゃん”に渡しといて」


 そう言って事実が差し出したのは数枚のプリント類だった。

 廻世はそれらのプリントに何だか見覚えがあった。確か朝のホームルームで配られたような気がしたが、思い出すのも面倒になったので止めた。

 事実の言う“みーちゃん”、というのは廻世の幼馴染である少女の事だ。

 露骨に嫌な表情を浮かべながら廻世は、


「何で俺が」

「君が一番適任なのよん。幼馴染だし、家近いし。ね、一生のお願い」


 少女は顔の前で手を合わせて、自分の中で一番可愛いと思い込んでいる表情で懇願する。

 常人なら何かが目覚めてしまいそうなほどの威力だが、少なくとも常人には分類できない廻世には何の意味も無い。


「一生のお願いを軽い気持ちで使うな」

「そういうモンでしょ、一生のお願いって。極論極論ー」

「まぁ……そうだな」


 少し考えてから思わず納得してしまう廻世。


「っと、危ねぇ危ねぇ。またお前のペースに飲み込まれる所だった」

「じゃあ、このまま飲み込まれてみる?」


 やけに色っぽい声になったと思うと、事実は前屈みになって元々大きく開いていたワイシャツの胸元を更に強調し始めた。

 二つの膨らみはハッキリとした谷間を形成し、目のやり場に困る。たゆん、という効果音がリアルに聞こえてきそうだ。

 勿論、廻世にこの手の冗談は通用しない。いや、一応通用はするのだが冷めた反応しかできないのだ。


「遠慮しとく。てか、いつも思うけどお前彼氏居んのによくそういう振る舞いが出来るな」自分で言った“彼氏”というワードに気が付いた廻世は、「……そういや今日は絶希と一緒じゃねえのか?」

「うん。何か“先に帰る”ってメールが来てさ」

「お前ら本当に恋人関係なんかよ。普通カップルってのは仲良く一緒に帰るモンじゃねえの? なんか時々疑わしくなるぜ」

「勿論、ラブラブカップルよん♪ ちゃんとキスもエッチもヤッてますー♪ あ、疑わしいなら今度ハメ撮り動画送ろっかー? 喜志君の為ならマジエッチしてあげても良いけど♪ 友達をオカズにシコるのも中々背徳的でもえるんじゃない? 二つの意味で。アはははははははは!」

「あーハイハイ。理解ったから女の子があんまりデカイ声でそういう事を言うんじゃありません」


 興奮して暴れる獣を抑え込む様に、廻世は事実の頭に手を置く。

 事実はこういう生々しい下ネタを会話に挟んでくるので、廻世は其れを毎回右から左へ受け流している。


「でさぁ」事実は頭上の手を退けて、「結局の所コレ届けてくれんの? てか、ぶっちゃけるとアタシ買い物行きたいのよねー。もう少しで香水切れそうだし色々勝負服も買いたいし、そうなってくると“みーちゃん”の家にこのプリントを届けにいく時間が勿体無いっていうか」

「ぶっちゃけ過ぎだ」


 呆れた様に言って、廻世は無言で事実の手に握られていたプリント類を手に取る。

 それはつまり承諾の意を示す行為だ。


「あれ? あれあれあれぇん? 何? もしかして頼まれてくれたりする訳?」


 清々しい程わざとらしく言う事実。今の彼女なら、うざいの一言で片付けられそうである。


「ああ。買い物行きてぇんだろ。お前の言うとおり俺とあいつの家近いし、渡しとくよ」

「さっすが喜志君やっさしー♪ 感謝感謝ー。それじゃあお願いするね。じゃ、私はこれにて!」 


 ビシィッ! と軍人の様に敬礼をしたかと思うと、黒髪ポニーテールの少女はダッシュでその場を後にした。

 嵐が去っていった。というのが正しい表現なのかもしれない。

 一人残された赤毛の少年は、さっきより疲労感が増しているんじゃないかと思った。


(あいつと喋ってると調子狂うんだよなぁ。いや寧ろ気が狂いそうだ)


 不意に、廻世は手に取ってしまった届け物に目をやる。

 結局自分で自分を面倒事に追い込んでしまっている自分が下らなくなって、少年は少し憂鬱になった。

 とりあえず、幼馴染である“みーちゃん”に、この届け物を届けるべく廻世は学校を出る事にした。


 ◇◇


 喜志廻世が雨崎事実からの頼み事を承諾してから約十分後。

 廻世は、本日学校を欠席した幼馴染こと“みーちゃん”の家にプリントを届けに行く前に、少し道草を食う事にした。

 小腹が空いてきたので、近場のコンビニで何かを買おうという魂胆だ。

 別に急ぎの用でもないし、今日中に届ければ問題無いだろうと思い、廻世は特に気にかけなかった。

 ふと、彼は歩きながら空に意識をやる。

 一面の曇天。今すぐにでもひと雨来そうな空模様だった。


(俺が帰るまでに降ってくれるなよ)


 傘を持ち合わせていない廻世は、そんな事を口の中で言った。

 そうしている内に、目的地その一に到着。

 真っ直ぐ入店する筈だった廻世は足を止め、眉をひそめた。

 本来なら何の躊躇も無く店内に足を踏み入れる事ができるのだが、今日はそれができない状況だったからだ。

 その状況とは、店先に茶髪ピアス口元には煙草という、第一印象がよろしくない少年がヤンキー座りで居座っているというものだ。

 別に廻世は其れにビビッているからコンビニに入れないという訳ではない。

 否。できれば関わりたくない、という点では一致するかもしれない。


「ここは空腹を抑え込む方が得策だな、うん」


 などと呟いている間に、廻世と同い年ぐらいの少年は廻世の存在に気付き、近づいてきた。

 しまった、と思ったがここで逃げれば更に面倒な事になると思った廻世は色々と諦めた。


「よォ廻世。奇遇だな、こんな所でこんな時間によォ」

「あぁ。確かに奇遇だな、絶希」


 廻世は先程の事実とのやりとりの時、同じ名を口にしている。

 つまり、雨崎事実の彼氏こそがこの茶髪ピアスの少年――糸杉絶希いとすぎ・たつきなのだ。

 お似合いと言えばお似合いだし、不釣合いと言えば不釣合いなカップルである。


「そういえば学校を出る時に雨崎に会ったぜ」

「お、そうなのか。何か変な事されなかったか? 付き合ってるオレが言うのもなんだけどよォ、変わってるだろアイツ」

「あー……」廻世は少しだけ考えてから、「別に、何も」


 まあ本当は色々あったのだが、面倒を避けるために廻世は小さな嘘を吐いた。

 嘘も方便、とはこの事だろうか。


「そっか。ところで、オマエはコンビニに何か用事かよォ?」

「あぁ。ちょっと小腹が空いてな。ファミチキが恋しくなったんだよ」


 ファミチキとは今から廻世が寄るコンビニで販売されているホットスナックの事である。

 ジューシーな食感とサクサクの衣が何とも言えない不朽の人気商品だ。


「ファミチキならさっきオレが最後の一個を買ったから売り切れてると思……」


 何気無く言う絶希だが、台詞は途切れてしまう。

 廻世が怒りの表情を浮かべながら彼の胸座を掴んだからだ。


「おい。お前今なんつった?」

「うぐぐ。いやだからファミチキならさっきオレが最後の一個を買ったから売り切れてるって」

「ふざけんなコラ。お前、俺から楽しみを奪って何が楽しいんだよ」

「ちょ、たかがファミチキ一つで何でそんな鬼の形相!? そ、そうだ。スパイシーチキンは沢山あったぜ。そっちにしとけよォ」

「されどファミチキだろうが。大体スパイシーチキンなんかで妥協できるかよ。奴とファミチキじゃあ格が違うんだよ。その辺理解ってんのかコラ」


 胸座を掴む力が更に強くなる。


「うぐぐぐぐーッ! 待て待て待て落ち着け廻世! 言っとくけどオレ何も悪い事してないからよォ!? ただ最後のファミチキ買っただけだからよォ!」

「だから俺にとってはそれが悪であり罪なんだよ。俺に黙ってファミチキを食う奴は全員敵だ」


 ある意味爆弾発言する廻世。

 彼は妙な所で熱くなる癖があり、絶希と会えば八割方この状態になる。

 このやりとりが二人の仲というものの縮図なのかもしれない。


「くそッ」廻世は手の力を緩めて、「やってらんねぇよ」


 糸杉絶希、コンビニ、嫌な現実。

 それら全てに背を向ける廻世。


「およ? 結局何も買わないのかよォ」

「あぁ。元々あいつの家に行く途中だったからな」

「あいつ? もしかして“みーちゃん”の事かよォ?」

「……よく理解ったな」


 目を丸くして言う廻世。


「まぁな。長年の付き合いだろ」

「高校からの付き合いは長年に入るのかよ」


 ◇◇


 憎めない苛立ちが、赤毛の少年――喜志廻世の心中に渦巻く。

 先の茶髪ピアスの少年、糸杉絶希とは廻世が言ったとおり高校からの付き合いだ。

 絵に描いた様なお調子者で、紙に書いた様なバカで、“悪友”いう単語をそのまま形にした様な男だ。

 そんな悪友に鬱陶しさを感じつつも、廻世は彼との縁を断ち切ろうとはしなかった。

 なんだかんだ言って、糸杉絶希は悪“友”なのだから。


「あーぁ、ファミチキ食いたかったなぁ。絶希の奴、今度会ったら問答無用で奢らせてやる」


 と、呟く廻世。

 しかし過ぎた事を気にしても仕方無い。

 そう割り切って、廻世は本来の目的地に到着する。

 突風が吹けば跡形も無く吹き飛ばされてしまいそうなボロアパートの隣には四人家族ぐらいなら苦も無く住めそうな小奇麗な一戸建て。

 前者が廻世宅で、後者が“みーちゃん”宅である。


「いつも思うけどこの差は何なんだろうな」


 小奇麗な一戸建てと、その隣に建てられている貧相な自宅を見比べながら、やるせない気持ちになる廻世。

 同じ一人暮らしなのにな……と思いながら、彼は“みーちゃん”宅のインターホンを押す。

 ピンポーン、と普遍的な音が鳴る。

 そして暫くしてから、反応があった。


『……はい』

「あー、俺だけど」

『……あがって』


 機械を通して聞こえてきたのは、少し聞き取りにくいウィスパーボイスだった。


『鍵、開いてるから』


 声は無用心な事を言ったかと思うと、そのままインターホンを切ってしまった。

 廻世は大きな溜息を吐いてから、門を開けて少女が一人で暮らしている家に足を踏み入れた。

 玄関であるドアに手をかけてみると、何の抵抗も無くすんなりと開く。本当に鍵は開いているようだ。

 家の中は病的に静かだった。

 ゴソ、と何処かから何かが動く気配がしたかと思うと、一人の少女がふらふらと部屋の奥から出てきた。

 彼女こそが廻世の幼馴染――“みーちゃん”である。

 ボサボサの黒っぽい青髪に、ズレた青縁の眼鏡がどこか薄幸じみた印象を与える。


「玄関の鍵くらい閉めとけよ。最近何かと物騒なんだからよ」

「知ってる。“通りスルースキル”でしょ」

「あんまり他人事じゃねぇぞ。九件とも枷無市で起きてるからな。いつこっちに来てもおかしくねぇ」


 “通りスルースキル”とは、廻世達が住まう綾華市の隣、枷無市で横行している事件の通称である。命名は一人の高校生らしい。

 被害者はいずれも頚動脈を猟奇的かつ狂気的かつ芸術的にバッサリと切り裂かれており、警察はその道のプロの犯行ではないかと睨んでいる。

 しかも被害者は老若男女・女子供問わずに殺されている事から、完全に無差別殺人である事が理解る。犯人は服を選ぶ様な気持ちで人を殺しているのだ。

 ちなみに、被害者九人の内一人だけは腕を切る程度の怪我で済んだそうだ。


「まぁお前は引き篭もりだからあんまり関係無いかもな」

「うん、そうだね」


 引き篭もりである事を堂々と肯定する“みーちゃん”。

 少し冗談のつもりで言ったのだが、彼女が引き篭もりである事は紛れもない真実なので何も言えない廻世。

 数秒の沈黙が二人を包む。


「……そういや、お前また学校休んだんだってな。そのサボり癖なんとかしないと卒業できねぇぞ」

「卒業できないなら、辞めるよ」


 だったら最初から高校に入るなと廻世は心の中だけで言った。


「簡単に言いやがって。ホラ」徐に廻世はバッグから数枚のプリントを取り出して、「今日のプリント」

「……ありがとう」


 届け物を受け取る“みーちゃん”。

 これにて喜志廻世の任務は無事終了した。


「礼なら雨崎に言っとけ。雨崎がソレを届けてくれって俺に頼んできたんだからな。面倒臭ェったらありゃしねぇ」

「そう、なんだ。……ごめん、カイ」


 聞き取り難い声で“みーちゃん”は呟く。

 “カイ”、とは彼女だけに許された喜志廻世の呼び名である。

 小さい頃からずっとこの呼び方で通しているため、高校生になった今でも彼女は廻世の事をそう呼んでいる。


「気にすんなって。どうせ家に帰るついでだしな」

「……ありがとう」

「だから礼は雨崎に言えって」

「……ごめん」


 やれやれ、と廻世は頭を抱える。

 このままじゃ無限ループに突入してしまうと思ったので、彼は早めに切り上げる事にした。


「そんじゃま、用件も済んだ事だし帰るわ。明日はちゃんと学校行けよ」


 そう言って廻世は家を出ようとするが、


「待って」


 少女の囁く様な声が、赤毛の少年を引き止めた。


「何だよ」

「その……あがって。お茶、出すから」


 不思議と廻世はその誘いを断る事が出来なかった。


     ■■■


 お願い、私の話を訊いて。


 ◇


 ――六月某日。

 真夜中の綾華市は穿つ様な雨で覆われていた。

 ここ数日はずっとこの調子で、そろそろ晴れの日が恋しくなってきそうな程だった。

 そんな雨の中、傘も差さずに夜の街を歩く一つの人影があった。

 人影は携帯電話を手に持っていて、誰かと連絡を取っている。


「今度の参加者は趣向を変えてみたんだけど、どうかな?」


 電話の向こうから幽かに声が聞こえてくるが、雨の音の所為で何を言っているかまでは理解らない。


「……了解♪ そういえば最近知ったんだけどさ、鬼ごっこって昔は鬼事って呼ばれてたんだって。知ってた? ……え、知らない? まぁ知ってても知らなくてもいい知識だからね」


 降りしきる雨の中、人影は暗夜に溶け込んでいった。


 ◆◇


 都市伝説、というものがある。

 “死体回収のアルバイト”、“ソニータイマー”、“コーラで避妊”等々。

 どこにでも在って、どうにもならない幻想や戯言ばかりだが、根底から否定する事は中々できないものばかりである。

 勿論、喜志廻世や“みーちゃん”が住む綾華市にも、都市伝説は存在する。

 それは、闇に渦巻く或る戯れ(ゲーム)。

 ルールは簡単。

 “追われる側”は左を見るか右を見るかぐらいの気紛れで“何者か”に選ばれる。拒否権など無い。

 そんな気紛れで選ばれた“参加者”は、迫り来る“鬼”から逃げる。ただそれだけ。

 実に単純明快であると同時に奥が深い。ただ我武者羅に逃げていれば体力は続かない。かといってどこかに隠れて百パーセント安全、とも言い難い。

 そして何より、この戯れ(ゲーム)には丸一日“鬼”から逃げ切れば“願い”が一つ叶うというルールが在る。

 丸一日“鬼”から逃げるだけで自分の“願い”が叶うのなら安いものだ。

 ただし、                                                 命の保障はできないが。


 ◇◇


「カイは……そういうの信じる?」

「はぁ?」


 喜志廻世は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 テーブルを挟んだ向こう側には、自分で淹れた紅茶を静かに啜る“みーちゃん”の姿があった。


「……どうしたの?」

「いや、どうしたのはお前だろ。家ン中に連れ込んだと思ったらいきなり都市伝説について語り出す幼馴染なんて世界中ドコ捜しても居ねぇよ」

「そうかな……」と、“みーちゃん”は首を傾げて、「三人ぐらいは居ると思うよ」

「ならお前はその三人と一緒に即刻病院に行く事をオススメする。良い医者紹介してやっから」

「……私、別にどこも悪くないよ」


 真剣な眼差しと共に囁かれたので、廻世は一瞬で面倒臭くなった。

 これが“みーちゃん”の厄介な部分である。

 電波系で冗談が全く通じない。

 幼馴染とはいえ、廻世は事実や絶希なんかより“みーちゃん”の扱いを最も苦手としていた。


「で、話したい事はそんだけか?」

「ううん、あともう少しだけ……」

「ああ、そう……」


 “みーちゃん”の言う“もう少し”は常人のそれとは違う。

 廻世はその後三時間ほど、幼馴染の呪文じみた電波トークに付き合わされる事となった。


 ◇◇


 永遠だと錯覚してしまいそうなほど長々しい“みーちゃん”の電波トークが終わる頃、綾華市の空は一面雨模様となっていた。

 廻世は玄関を出た瞬間に思わずフリーズしてしまう。解凍するのにそう時間はかからないだろう。

 そんな彼を見て申し訳なく思った“みーちゃん”は相変わらずのウィスパーボイスで囁く。


「……ごめん。私の話が長くなっちゃった所為だよね」

「気にすんなって。お前が謝る必要は無えよ」


 しかし内心、話が長いのにはウンザリしている廻世であった。


「傘……あるけど」


 “みーちゃん”はそう言うと、玄関の横に置いてある傘立てを指差した。

 ビニール傘や柄物まで結構な品揃えである。一人暮らしなのに。


「いやいや、家隣だし要らねぇだろ」

「……そっか」


 その時。

 本当に、ほんの僅かだが、少女はクスりと笑みを零した。

 それを見た廻世は正直驚いた。


「珍しいな、お前が笑うなんて。明日はロンギヌスの槍でも降るんじゃねぇか?」

「……それは困るね」


 そんな下らない会話で、二人の一日は締めくくられる。


「じゃあな。明日はちゃんと学校来いよ。あと鍵閉めろ」

「……努力する」

「おう、そうしろ」


 その言葉を最後に、玄関のドアはバタンと閉められる。

 続けてカチャリ、と何か歯車的なものが回る音がした。どうやら“みーちゃん”はちゃんと鍵を閉めたようだ。


「はぁ」


 安堵の溜息を吐く廻世。

 安心したところで、ダッシュで隣の自宅まで行こうと足を踏み出した瞬間、


 ざあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


 突然、今の今まで蛇口を少し捻ったぐらいの小雨が、海をひっくり返したような豪雨に変貌した。

 雨は一瞬で廻世の頭のてっぺんから爪先までを悉く濡らした。


「……こういうのはマジ勘弁」


 廻世は直ぐ隣の自宅までは走らず、歩く事にした。もう色々どうでもよくなったからである。

 雨に濡れるというのも中々良いモノだ。嫌な事とか、疲れとかを洗い流しているようで。

 そんな下らない事を考えている自分が下らなくなって、廻世は思考を止めた。

 結局、雨に濡れる事自体嫌な事なので、雨で洗い流そうという考え自体が無意味なのだ。

 そうしている内に、廻世は“みーちゃん”宅の隣にある廃墟じみたアパートに到着した。通称“ワールドアパート”と呼ばれる其処は、住民の殆どが学生であり、その殆どがワケ有りという、怪しさの塊の様な所だ。

 郵便物は入ってないかな、と廻世は二段しかない集合ポストを確認する。二段目の左から小鳥遊、継接、君ヶ丘、喜志と続く。つまり廻世の自室は二〇四号室であり、一番奥だ。

 ポストに入っていたのは、よくある広告を兼ねたティッシュのみだった。いや、ティッシュを兼ねた広告と言った方が正しいか。


(今はティッシュじゃなくてタオルが欲しいな……)


 そう思いながら、ずぶ濡れの状態で階段を登っていくと、丁度二〇二号室のドアが開き、住人と思しき女性が出てきた。

 歳は二十歳かそこらだろう。金髪のロングヘアーで口には煙草と、どこか元ヤン臭がする女性である。


「あ、こんちわっス」


 廻世は挨拶する。という事は彼女は此処の住人である事が理解る。

 一応、近所付き合いは大事にする喜志廻世なのであった。


「ン、廻世か。こんにちは」


 元ヤン臭が漂う女性は気だるそうに挨拶する。低血圧なのかもしれない。

 ふと、廻世はいつもと違う彼女の様子に気が付く。


「あれ? 今日は左腕無いんスね」


 廻世の言うとおり、女性の左腕は丸々無かった。服の袖がだらしなく垂れているだけだ。

 “今日は”、と廻世が言うからには普段は義手か何かを装着しているのだろう。


「ン、まぁな。雨の日は付け根が痛むんだよ」

「へぇ。色々大変なんスね」

「ン、色々大変だよ」片腕の女性は気だるそうに言うと、ずぶ濡れの廻世を見て、「ン、それよりどうしたんだ其れ。着衣水泳でもしたのか?」

「いやいや、してないっスよ」


 失笑する廻世。


「ン、そうか。まぁ風邪はナントカのナントカって言うし、気をつけろよ」


 それだけ言い残して、片腕の女性はミスマッチなピンク色の傘を持ってその場を後にした。

 恐らく、“風邪は万病のもと”と言いたかったのだろう。


「……御心配どォも」


 独り呟いて、廻世はずぶ濡れで帰宅する。

 廻世はとりあえずシャワーを浴びる事にした。

 このボロアパート――“ワールドアパート”にはいっちょ前にシャワーが完備されている。とは言っても本当にシャワーだけで浴槽は無いので、浴槽が恋しくなると近所の銭湯に行くしかない。

 外では、雨がざーざーと降り続いている。さっきまでの海をひっくり返したような雨とは打って変わって、それこそシャワーのような雨が。

 まるで廻世を嘲笑うかのように。ざーざーと。


     ■■■


 さぁ、始めよっか。

 アンタは何を賭ける?


 ◇


 六月二九日、午前〇時。

 喜志廻世は完全に熟睡していた。

 今日は素敵で不敵な女友達に面倒事を押し付けられたり、絵に描いた様な悪友に絡まれたり、電波な幼馴染の支離滅裂で意味不明な無駄話に付き合わされたりと、何かと疲れる事が多かったので仕方の無い事だろう。

 寝苦しそうに、彼は寝返りを打つ。

 瞬間、プルルルル、と初期設定じみた携帯電話の着信音が鳴り響いた。廻世の電話である。

 その音が耳に入ったのか、廻世は起きてしまう。案外熟睡でもなかったのかもしれない。

 呆とする視界で番号を確認する。

 それは“みーちゃん”の番号だった。見間違える事など、ありえない。


(こんな時間にどうしたんだあいつ。てか、電話をかけてくる事自体どうしたんだ? 電話を見るのも嫌いなのに)


 不思議に思った廻世は、とりあえず通話ボタンを押した。

 もしもし、と彼が言う前に、



『やっほう! グッモーニーン! おはようございまーっす! アテンションプリィーズ! やぁやぁ良い夢見てたかい? 見てたなら謝るし、見てないなら良い夢見ろよって応援してあげたくなるねェ!』



 明らかに“みーちゃん”のものではない声が、電話の向こうから飛んできた。

 知り合いの電話から今までに聞いた事の無い声が聞こえてきて廻世は驚いたが、比較的落ち着いた様子で返事を返す。


「……誰だ、お前。どうしてあいつの電話から」

『“誰だ”は無いでしょ“誰だ”は。まぁ良いや』と、電話の声はつまらなそうに白けたと思ったら、『と・り・あ・え・ず、オメデトウございまァーッす! アンタはこの度、楽しい楽しい楽しい戯れ(ゲーム)の参加者として選ばれましたー! ヒューヒュー! お友達に自慢しても良いぜ?』


 テンションの振幅の激しさに苛立ちを覚えつつも、廻世は落ち着いて状況を理解しようとする。

 そもそもただの悪戯電話かもしれないし。


「何の事だ。意味が理解んねぇぞ」

『あるェ? 知らない? 弱ったなぁ、どこから話そうか……』


 声は数秒考えてから言う。


『アンタって“都市伝説”とか信じるタイプ?』


 何か、おかしい。

 電話の声は廻世の記憶に新しいワードばかりを紡いでいく。

 “戯れ(ゲーム)”だとか“参加者”だとか――“都市伝説”だとか。

 全て昨日、というか数時間前に延々と“みーちゃん”から訊かされた電波トークの中に含まれていたワードだ。

 これじゃあ、これじゃあまるで――。


「……どっちでもねぇよ」

『アララ、厄介だね。まぁ良いや、正面から信じないタイプよりマシだし。そんじゃサクサクっとルール説明しちゃおうかねェ』

「おい待てコラ。俺はまだその戯れ(ゲーム)とやらに参加するとは言ってねぇぞ」

『ハァ? ほざいてんじゃねぇよクズが。拒否権なんざどこにも存在しねぇんだよブァーーーーーカ! 生まれる前から出直して来い!』


 電話の声の意味不明な暴言をスルーしながら、廻世は冷静に状況を整理しつつあった。

 “みーちゃん”が話していた“都市伝説”の一つの特徴は、確かこうだ。

 ――“追われる側”は左を見るか右を見るかぐらいの気紛れで“何者か”に選ばれる。拒否権など無い。

 確かに廻世は今、“何者か”に選ばれ、参加を拒否しようとしたらそれを拒否された。

 特徴が一致する。証明など必要無い。

 そう。廻世は今、間違いなく“みーちゃん”が話していた“都市伝説”に引きずり込まれようとしているのだ。


『それに、アンタには絶対に断れない“理由”を用意してやったからさ』

「理由だと?」


 嫌な、予感がした。


『そッ♪ ちょっと待っててねー、今聞かせてやるからさ』


 電話の向こうから何やらゴソゴソと音がする。

 何を聞かされるのか、廻世は自分でも薄々気付いている気がした。

 だが“それだけ”は駄目だ。あってはいけない。あってはいけない。あってはいけない。あってはいけない。あっては、



『……た……助け、て…………カイ』



 刹那、廻世は心臓が止まった気がした。

 間違いない。聞き間違える筈がない。

 彼を“カイ”と呼ぶのは世界中何処を捜してもあの少女しか居ない。

 確かに今。喜志廻世の幼馴染――“みーちゃん”の声が、電話の向こうから聞こえた。

 しかも、いつもより弱々しい声で、廻世に助けを求めている。


『さぁてと! コレで自分が置かれている状況が理解ったかなァ? アンタが戯れ(ゲーム)に参加しなけりゃあ、アンタの大事なだァーいじな幼馴染ちゃんの命はどうなっても知らないよー♪ てか、こいつ見かけによらず結構タフだよねェ。さっき五、六発ほど顔面殴ってやったけど、気絶しねぇんだからよー。多少口から血は出てるけどな。やっぱり人は見た目で判断しちゃ駄目って事か! うんうん、当たり前の事だけど勉強になるねェ。それにしても綺麗な顔してるよなーこいつ。あんだけ殴ったのにまだ綺麗って思えちゃうのが凄い! パッと見は地味だけど、よおく見るとかなり整った顔してる。眼鏡よりコンタクトにした方が良いんじゃね? ルックスだけ見るなら絶対彼女にしたいね。あ、見た目で判断しちゃ駄目なんだっけ。そうだ、イイコト思いついた。なァどうせこいつ処女だろ? 今からこいつ滅茶苦茶に犯してやっから電話越しでハァハァ欲情してろよ! ま、アンタが戯れ(ゲーム)に参加するってんなら止めてやっても良いけどねェ! てかどっちにしろ拒否権無いんだけどさァ!』


 殺意が、沸騰しそうになった。


「……上等だクソ野郎。そんなに参加して欲しかったら参加してやるよ」


 この瞬間、喜志廻世は戯れ(ゲーム)への参加を表明した。

 綾華市の闇という闇の向こう側に在る闇へと、足を踏み入れたのだ。


『イイね。囚われたお姫サマを助ける忠義の騎士的な? 何それ超ウケる♪』


 ◇◆


『それじゃあまァ、ルール説明をちゃちゃっと済ませるよ。メモの準備とかしていいよー♪』

「要らねェよ。さっさと言え」


 理不尽で一方的な“都市伝説”に巻き込まれた赤毛の少年――喜志廻世は、覚悟を決めた。

 生き抜く為。大切なものを護る為。生きる理由を守り抜く為。


『それではルールを説明しまーす♪ 面倒だから一回しか説明しないので耳ィかっぽじってよーく訊きやがって下さーい! ルールは簡単、“鬼”から一日逃げるだけ。まあ所謂鬼ごっこって奴だね!』

「大層な余興の割にはシケた戯れ(おあそび)だな」


 相手が何かボロを出さないかと思い、挑発の言葉を織り交ぜていく。

 同時に、今電話の声が言ったルールと、先刻の“みーちゃん”の電波トークを照合する。

 ――気紛れで選ばれた“参加者”は、迫り来る“鬼”から逃げる。ただそれだけ。

 ここまでは寒気がするぐらい、現実と“都市伝説”が一致する。

 廻世はいい加減、現状を現実として受け入れ始めていた。問題は信じるか信じないかではなく、この戯れ(ゲーム)をどう制するかに切り替わっていた。


『そう言うなって。“鬼”から逃げ切った奴にはちゃんと豪華な商品が待ってるんだぜー?』

「そいつァ興味深いな」

『だろだろだろだろ!? 訊いて驚け愚民A! なんと! “鬼”から一日逃げ切った奴は、願いが一つ叶うんだぜェ! 凄ェだろオイ!』


 ――丸一日“鬼”から逃げ切れば“願い”が一つ叶うというルールが在る。

 疑心は確信へ。半信半疑は全信無疑へ。

 さっきから理解っていた事だが、これは本物の“都市伝説”だ。

 喜志廻世は最後の確認を終えた。

 なんて事は無い、これは正しく“都市伝説”という名の現実だ。


「……へぇ。そりゃ凄ェな。どんな願いでも叶うのか?」

『一生遊んで暮らせる金とか、地球の半分をやってもいいよー♪』

「ンなモン要らねェよ」

『ストイックだねぇ。ま、逃げてる間にでも考えておきなよ。大体のルールは理解った?』

「あぁ」

『じゃあ次に参加者を教えておくよー』

「参加者?」


 自分の他にも同じ境遇の奴が居るのか、と廻世は思考を巡らせた。


『そッ♪ 参加者はアンタと糸杉絶希、雨崎事実の三人。寂しいけどコレが一番面白いんだよねェ』

「…………は?」


 再び、廻世は心臓が止まったかと思った。

 電話の向こうから聞こえてきたのはよく知った名前だった。

 絵に描いた様な悪友、糸杉絶希。

 素敵で不敵な女友達、雨崎事実。

 彼らもこの戯れ(ゲーム)に参加させられているのだ。


『じゃ! こっちからは以上だよー♪ 存分に楽しんでイってね! それじゃあゲームスタートーッ!』


 ブツン。

 電話の向こうからは機械的で規則的な音だけが続いていた。普段はこの音には何も感じないが、今なら嫌悪感を抱ける。

 電話を握る力が強くなる。

 喜志廻世の、およそ感情と呼べる色んな感情が渋滞する。

 気持ちの整理に少しだけ時間がかかった。


「訊いてねえぞ、絶希と雨崎まで参加してるなんて」


 廻世は兎に角此処に居てはいずれは“鬼”に捕まってしまうと思い、急いで靴を履いて古びた玄関を勢い良く開け放つ。

 幸いにも、雨は止んでいた。これなら視界は良好(今は真夜中だが)だし、追われた時は疾走り易い。

 彼はこれからどうするかを考える。

 答えは直ぐに出た。


(とりあえず、あいつの家に行ってみるか)


 脱兎の如く疾走り出す廻世。

 階段は使わず、飛ぶ。

 弾、と着地に成功する。爪先から脳天まで電気が突き抜けそうになったが、それを気合で吹き飛ばす。

 向かう先は、直ぐ隣の“みーちゃん”宅。

 六月二九日、午前〇時一〇分。

 闇は深まる。


     ■■■


 アンタの本当に大切なものって何?

 ……へぇ、考えるんだ。

 てっきり即答できるものだと思ってた。


 ◇


 ピンポーン、とクラシックな音が鳴る。

 反応は無い。

 葉が落ちる音まで聞こえそうなぐらい、嫌な静けさ。


「くそッ、やっぱり居ねぇか」


 “みーちゃん”宅前で、戯れ(ゲーム)の参加者その壱――喜志廻世は大きな舌打ちをした。

 電話の声の持ち主と一緒に自宅に居ると踏んでいたが、その考えは甘すぎたようだ。

 ならばやはり“みーちゃん”は何者かに拉致られて、今は別の所で廻世の助けを待っている、という事になる。

 しかしそれが何処なのかは廻世には皆目見当もつかない。


「いや、今あいつを気にするのはやめだ。電話のクソ野郎は俺を無理矢理にでも戯れ(ゲーム)に参加させる為にあいつを餌として利用しているだけに過ぎねぇ」


 廻世は“みーちゃん”の事は横に置いておく事にした。

 今、やるべき事は、


(絶希……出てくれよ……!)


 他の参加者――糸杉絶希、雨崎事実と連絡を取る事だ。

 廻世は長ったらしい発信音に苛立ちを覚えつつも、悪友が電話に出てくれる事を居もしない神に祈った。

 十数回目のコール。

 まさか、もう既に――?

 そう思ってしまった瞬間、


『よォ、廻世か。オレも丁度電話しようと思ってた所なんだよォ』


 聞きたかったが聞きたくない声を聞いて安堵の溜息を吐く廻世。複雑な気持ちである。


「そうか、ナイスタイミングって奴だな。絶希、お前今何処だ?」

『綾華駅前。此処ならまだ人通りは多いし、比較的安全かなと思ってよォ』

「駅前、か。確か、逃げる範囲とか何も指定されてなかったよな」

『言われてみればそうだな』

「ならお前は電車に乗って逃げろ。この時間ならまだ終電がある筈だ」

『む、オマエに言われるのは何かシャクだが、今はそんな事言ってられねぇな。理解った、とりあえずオレは出来るだけ遠くに逃げるよォ』

「ああ、そうしろ」

『オマエはどうするんだよォ、廻世』

「なんとか逃げる。これでも元・陸上部なんだぜ、俺」

『へぇ、そいつは初耳だよォ。今度ゆっくり現役時代の話でも訊かせてくれよォ』

「良いぜ。“コレ”が無事終わったらな」

『そうだな』

「そんじゃ、一旦切るぞ。定期的に連絡するから、もしもの時の為に携帯はサイレントモードにしとけよ」

『ハハッ、着信音やバイブで隠れてんのがバレるってパターンかよォ。漫画の読み過ぎだろ其れ』

「うるせぇよ。あいつに色々吹き込まれてんだよ。じゃあな、今度こそ切るぞ」

『あいよォ』


 ブツン。

 続けて、着信履歴から雨崎事実に連絡を取ろうとする廻世。

 彼は初めて自分から事実に電話をかけた。

 向こうからは何度もかかってくるが、その内容は正に素敵で不敵であり、事実の暇潰しとしか言い様のないものばかりである。

 最後にかかってきた時の内容は『幸運になれる壺を一〇万円で買うか、今直ぐアタシとテレフォンセックスするか』というものだった。

 勿論、廻世は無言で電話を切った。寧ろ斬った。


「雨崎ならなんとか逃げ切れそうだけどな……」


 コール音は絶希の時よりも早く途切れる。


「もしもし、雨崎か?」

『うん、そうだよー♪ てか喜志君から電話をかけてくるなんて珍しいね。どういう風の吹き回しィ?』


 どうやら、この女に心配は無用らしい。

 落胆すると同時に安心する廻世。


「お前なぁ、今の状況理解ってんだろ?」

『うん。ぶっちゃけアタシ結構動揺してるんだよねぇ。どうしたらいいかな?』


 あの雨崎事実が動揺する。

 それほどまでにこの“都市伝説”とやらは恐ろしいものらしい。

 そもそも何故廻世達はこうまでして必死に逃げようとするのか。

 理由は簡単、“みーちゃん”が話していた“都市伝説”の特徴の最後には、どうしてもつっかかるものが有るからだ。

 命の保証はできない、と。

 つまりは、この戯れ(ゲーム)は命を賭けた娯楽という事だ。だがこの戯れ(ゲーム)を制した者は願いが一つ叶う。正にハイリスクハイリターンである。

 “鬼”は参加者を殺すつもりで追いかけてくるという事なのだろう、と廻世は推理している。


「とりあえず絶希の野郎は綾華駅から電車で出来るだけ遠くに逃げろとは言ってある。だから雨崎も何か交通手段を使って出来るだけ遠くへ逃げろ」

『お! という事は航空用ストライカーユニットを使っても良いのかな!?』

「……お前に魔力が有るならな」


 最早これから先、彼女を心配する必要は無いかもしれない。


『まぁ冗談はさておき、喜志君の言うとおり出来るだけ遠くに逃げてみるよ』

「ああ、そうしてくれ」

『それじゃあまた!』

「おう」


 ブツン。

 とりあえず二人に連絡は取れたので、安心する廻世。

 一体今日は何回安心したら気が済むのだろうか、と廻世が考えている時、背後から一つの足音が近づいてきた。

 この時間帯のこの辺りは人通りが病的に少ない為、廻世は思わず全身の毛が逆立ってしまう。

 まさか、“鬼”か――?

 恐る恐る振り返る。


「ン、こんな所で何やってるんだ廻世?」


 神経の張り詰め過ぎだった。

 足音は戯れ(ゲーム)の“鬼”ではなく、“ワールドアパート”二〇二号室の住人である片腕の女性のものだった。


「……ビックリさせないで下さいよ」

「ン、あんまり驚いている様には見えないが。というか、真夜中に道の真ん中に突っ立ってる方がよっぽど心臓に悪いぞ」

「スイマセン。ちょっと追い込まれてて……って、あれ。その左腕」


 ふと、廻世は昨日と同じ様に片腕の女性の異変に気付く。

 しかし今度は逆。彼女の左腕がちゃんと有るのだ。


「ン、ああコレか。あたしの友人が“こういうの”を造るのが趣味でね。新作の実験も兼ねて着けているんだよ。雨も止んだ事だしな」

「へぇ、そうなんスか」


 それにしても奇妙だ。否、絶妙だ。

 義手というからにはもっとぎこちない動きをするものかと廻世は思い込んでいたが、その常識は軽々とひっくり返された。

 彼女の義手は“本物”となんら変わりない代物だった。

 指先まで滑らかに動く其れは、優秀な義手というより異常な義手だ。

 こんな物を造り上げる友人は一体どんな人間なのか、その義手はどういう仕組みなのか、色々訊きたい事はあるが、今の喜志廻世は戯れ(ゲーム)の参加者だ。無駄な時間は過ごしていられない。


「スイマセン、ちょっと行かなきゃならないトコあるんで」

「ン、そうか。夜遊びは程々にしておけよ」

「理解ってるっスよ」


 廻世は振り返らず闇へと疾走っていく。


「ン、ちゃんと帰って来いよ、廻世」


 声は届かない。

 ただ闇に飲み込まれるだけ。


 ◆◆


 六月二九日、午前〇時四〇分。

 喜志廻世は綾華市の中心へ向かっていた。

 綾華市の中心は二四時間営業みたいなもので、静かな時間帯は無い程だ。

 そこなら安全と思い、廻世は街の中心へと只管疾走る。


(そろそろ絶希の野郎は電車に乗った頃か)


 携帯電話を取り出し、リダイヤルから糸杉絶希に連絡を取る廻世。

 流石にこの数十分で捕まる事は無いだろう。

 予想は的中、コール音は長く続く事は無かった。


『よォ廻世。本当に定期的に連絡してきたなぁ』

「うるせぇよ。それより現状を伝えろ」

『現状か。只今綾華駅にて布端市行きの電車待ちって感じだな。次通過で、その次に来るみたいだな』

「そうか、良かった」

『うわ、何か廻世が良かった、とか言ったら気持ち悪いよォ』

「……次会ったら覚悟しとけよ」

『ハハッ、そう言うなよォ。今度ファミチキ好きなだけ奢ってやるからよォ』

「ま、まぁファミチキなら仕方無ェな」


 誘惑に負ける廻世。

 なんだかんだ言って、彼も理解り易い性格である。


『ハハッ、正直だな。お、通過電車が来た』


 絶希がそう言うと、電話の向こうから確かに電車らしき騒音が聞こえてきた。


「とりあえず、もう直ぐ逃げれそうならいい。切るぞ」

『おうよォ。じゃあ……うわッ、何だオマエ! やめろッ、く、うあッ……ぃぎァアッッッ!!』


 電話の向こうから、聞き慣れない音が聞こえてきた。

 ぐしゃあ、と硬いものが砕ける様な、鈍い音。

 多分、何かが何かにぶつかった様な、重い音。

 今の状況だと後者は恐らく電車。通過なので勢いは恐ろしいものになっている筈だ。

 そして前者は、


「絶希……?」


 痛、痛、痛、痛、と。電話の向こうから規則的に聞こえてくる機械音。

 戦慄する。

 今、電話の向こうで――糸杉絶希が何者かに殺された。

 いや、断定は出来ないが、断定せざるを得ない。

 音声だけだったが、惨劇は大体予想できる。

 後ろから何者かに背中を押され、線路上に落ちそうになった絶希はなんとか抵抗したが、抵抗虚しく、丁度ホームに入ってきた特急に轢かれて――即死。

 実にあっけない。人の命など、背中を一押しするだけで弾け飛ぶのだ。


「おいおい。おいおいおいおい! 何だよそりゃあ! 鬼さんは容赦無しかよクソッタレ!」


 珍しく大声を出す廻世。

 動揺と焦燥がドロドロと溶け合う。

 瞬間、彼の手に握られていた携帯電話が景気良く鳴り響く。

 電話番号は、“みーちゃん”のものだ。

 だが恐らく電話に出れば“みーちゃん”ではなく、この戯れ(ゲーム)の主催者が出るだろう。

 廻世は通話ボタンを押す。


『はいはーい、お知らせだよー! なんとなんと! 参加者の一人、糸杉絶希が脱落しましたー! 早いねー♪ 最高記録なんじゃね? 油断するからだよねー♪』


 案の定、嫌悪感でしかない声が聞こえてきた。

 廻世は返事を返す気にもならなかった。


『あれあれ? どうしたのかなァ? もしかしてムカついてるみたいな? ご立腹みたいな? 私、堪忍袋の緒が切れましたみたいな? そう熱くなるなって。たかがゲームだろ?』

「うるせぇよ」

『あ? 何? 聞こえないンですけどー。もっと大きな声で言ってくれるー?』

「うるせぇっつってんだよクソ野郎! 俺はお前を絶対許さねェ。今直ぐ俺を捕まえに来てみろ。戯れ(ゲーム)なんざ関係無ェ、俺はお前を死ぬまで殴ってやる」

『……ふうん。じゃあお言葉に甘えて』


 刹那、気配。

 背中に突き刺さる、理解り易い殺気。

 首が軋む。

 けど、振り返れば其処に答えがある気がした。

 廻世は、気配がする方を向く。


「な、なんだ雨崎じゃねえか。驚かすなよ」

「アはは♪ アタシってサプライズ大好きなんだよねー。テイクよりギブ派っていうかー♪」


 素敵で不敵な女友達、雨崎事実はいつもの調子で廻世に近づいてきた。

 恐らく彼女にも絶希脱落の報せがあったと思われるが、


「……お前、絶希の事」


 訊くべきかどうか悩んだが、廻世は訊いた。

 恋人の死に、事実はどう思っているのか。

 傷を抉る様な真似だという事は理解っている。承知の上で、訊いた。

 だが事実は見た感じ、いつもと変わらない。通常運転に見えた。


「んー? 知ってるよー。それより喜志君喜志君」


 ぽん、と廻世の肩に手を添える事実。



「アンタもゲームオーバーだから♪」



 口元が美しく裂ける。

 こいつは何を言い出すんだ、と廻世は混乱する。


「あれェ? 何か理解が追いつかないって顔だね♪ 一から十まで説明させるつもりー?」

「お前、まさか」

「そのまさか♪ この戯れ(ゲーム)を考えたのは他でもないこのアタシって訳! どうだった? 楽しかったー? アはは!」


 廻世はまだ全てを飲み込めた訳ではない。

 だがこれだけは理解る。

 目の前に居る女友達が、幼馴染を危険に巻き込み、悪友を死に追いやった張本人だという事ぐらいは。


「……ああ。最高に最悪だったぜ。一体どういうつもりだよ雨崎」

「あれ? てっきり正体バラしたら殴りかかってくると思ったけど冷静だね」ケラケラと笑う事実は、そうだねと続けて、「暇潰しかな」

「は?」

「聞こえなかった? 暇潰しだよ暇潰し♪ アタシって退屈が大嫌いでさ、今まで色んなテレビゲームとかしてきたけど、どれもアタシを満足させてくれなかった。そこで思いついたのがこの戯れ(ゲーム)って訳」


 本当に楽しそうに語り出す事実。

 しかし楽しいのは当の本人だけで、言動や行動は全て壊れたものだった。


「キッカケは些細な事でさァ。人間が極限状態まで追い込まれた時、どんな行動を取るのかなーって気になったんだよね。で、今までは全く関係無い人間を集めてこの戯れ(ゲーム)をやってきたんだけど、それじゃあつまらないと思ってさ、今回から色々繋がりがある連中を参加者に選んだ訳。人間関係がどう影響してくるか楽しみでさァ、夜も眠れなかったよ♪」

「……いつからだ」

「あ?」

「いつから俺達をこんなクソッタレな戯れ(ゲーム)に参加させようと思ってたんだ」

「高校に入学してからかな? アンタの“みーちゃん”への思いは人十倍強いから前々から気になってたんだよねー♪ で、アタシはアタシでこの戯れ(ゲーム)を面白くする為だけに絶希と付き合ってた訳よ」

「それだけの為に……はは、どうかしてるぜお前」


 目の前に居るのは本当に同じ人間なのか疑う廻世。

 外じゃなく、中身を。

 彼は今まで色んな人間を見てきたが、雨崎事実の様な異端は初めて見た。


「自覚はあるよ♪ それにしても、人間関係を絡めた所で退屈に変わりは無かったね。全く時間の無駄だったよ」

「電話の声も、お前だったのか」

「そだよー♪ 声だけならいくらでも偽装できるからねー。アタシって結構良い役者でしょ? ま、どっちかと言うと監督気質なんだけどさァ。アははははははははは!」


 真夜中だというのに、構わず心の底から狂笑する事実。

 それを途切れさせたのは廻世の気の抜けた声。


「あいつは」

「あいつゥ?」

「あいつは無事なのか」

「あァ、“みーちゃん”の事か。あの子なら廻世廻世ーってあんまりにも五月蝿かったから殺しちゃった♪」


 さも当然の様に、事実は言った。

 空耳だと信じたかった。

 嘘だと言って欲しかった。

 廻世は、自分の内にある全てが音を立てて崩れていく錯覚を覚えた。


「あ、写メ見るー? 一応記念にと思って撮っておいたんだけど」


 そう言いながら、慣れた手つきで携帯を操作する事実。

 あったあった、と楽しそうにしながら廻世に画面を向ける。

 それを見た瞬間、


「――ッッ! おふッ、ぐげ、ェ、おごォアあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


 廻世の胃の中に有るもの全てが逆流した。

 あまりにも画像が衝撃的だったからだ。廻世にとってはその衝撃は尚更強かった。

 事実の携帯にはまるで常識の様に、随分と小さくなった“みーちゃん”の画像が映し出されていた。

 だが小さくなった、という言い方では語弊がある。正しくは首だけになった“みーちゃん”の画像だ。

 首だけになっても尚、美しさを維持する“みーちゃん”の顔は逆に恐ろしい。

 奇しくも彼女の目からは涙の代わりに紅い血が流れていた。


「ホント可哀想だよねー“みーちゃん”。この子、ホントは喜志君に助けて欲しかったんだよ? なのに喜志君はそれに全く気付かなかった。愚鈍だよ、マジで」

「な……に……?」


 口の中に広がる不快感と嫌悪感を堪えながら、廻世は聞く事しか出来なかった。


「昨日さァ、喜志君“みーちゃん”の家に行ったよね。まァそうなるようにアタシが仕組んだんだけど。その前に喜志君寄り道したよね」

「ああ、した」

「その時間が無駄だったんだよねー♪ 喜志君が寄り道せず“みーちゃん”の家に向かってれば、こうはならなかったかもしれないのにさァ!」

「どういう、事だ」

「簡単だよ。喜志君が寄り道してる間に、アタシは“みーちゃん”に電話をしていたんだよ。人質になってくれなきゃアンタの大切な人は爆発しまーす! ってね♪」

「何だよそれ。それじゃあまるで、寄り道した俺が悪いみたいじゃねぇか!」

「そうだろ実際」事実は急に声を低くして、「大切な人なんでしょう? だったら何もせずその人の事だけ考えてりゃ良いんじゃねぇの? ま、アンタの愛ってのは所詮その程度だったって訳だねー♪」

「ち、違う……俺は……!」

「何? まだ何かあんの? もう良いじゃん、“みーちゃん”死んだんだし。懺悔も後悔も遅いよ」


 事実は携帯を流れる様に折りたたみ、ポケットに仕舞いながら言った。

 もう、喜志廻世という人間は完膚無きまでに破壊し尽された。

 彼は地に膝を屈して、生きながらにして地獄を味わいながら、果て無き絶望を感じていた。

 正しく其処が、闇の底だった。


「さて、もう最後だし何か言いたい事ある?」

「………………………………………………………………無ェよ」


 最期の言葉は、あまりにも素っ気の無いものだった。


「そッ♪ じゃあこれにてゲームセットって事で♪」


 暗転。

 今宵もまた、この街の闇に飲み込まれた人間が一人、二人、三人。

 それでも綾華市に陽はまた昇る。そしてまた沈む。

 たかが人間が何人、何十人、何百人、何千人、何万人、何億人死のうが、世界は変わらない。

 それ程までに世界は非情で――退屈だ。


 ◆◇


 数ヵ月後。

 “ワールドアパート”の前には引越会社のトラックが一台停まっていた。

 誰かがこのボロアパートに越してくるのだろう。

 その様子を、何故か寂しげに見詰める者が一人。

 “ワールドアパート”二〇二号室の住人である片腕の女性である。今日は雨は降っていないが、義手は着けていない。

 口元には火の着いた煙草が一本。


「ン、結局廻世の奴、帰ってこなかったなぁ」


 風、と煙草の白煙を気だるそうに吐き出す。

 今日の綾華市の空は雲一つ無い晴天。白煙がどこか薄い雲に見える。

 引越会社のトラックから降ろされていく荷物を見た片腕の女性は察する。


「ン、新しく越してくるのは……また学生か」


 やれやれ、と言わんばかりに右手で頭を掻く片腕の女性。

 彼女はまだ引越しの済んでいない二〇四号室の前にふらりと足を運ぶ。

 以前の二〇四号室の表札は“喜志 廻世”と綺麗な字で書かれていたが、今はもう違う名前に上書きされていた。


「ン、園咲未来か。良い名前だ」


 一人呟く片腕の女性。

 起死回生――その先に在るのは未だ見ぬ明日みらいという事か、と彼女は自分の中だけで納得する。

 今日も世界は循環する。

 残酷なまでに。


 /ROLLING・END.

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