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勇者や魔王のアレやコレ

勇者と魔王のプロローグ

作者: 真川塁

 執務室から外に目をやれば、空を覆う雲は暗く、ゴロゴロと雷が牙を研ぐ音が聞こえてくる。

 そんな陰鬱な空を見上げ、私は過去の出来事を思い出す。



 私はかつて勇者と呼ばれていた。

 偶然か必然か伝説の剣アイオーンに選ばれた私は国王や姫、宰相閣下に騎士隊長、両親や友人知人、その他多くの民の期待を背負い、魔王討伐へと旅立った日のことは今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 行く先々には魔王の手下が待ち受け、大きな街ともなると魔王の側近が千人を超す兵を従えて、私の到着と同時に襲撃してきたりもした。

 捕まることもあったし、命からがら撤退、などということもあった。そんな中でも上手く切り抜けることができたのは信頼できる仲間を得ることができたからだろう。

 魔王の部下を倒すことで、街を魔王軍から解放したことで支持してくれる人々も増えていった。そんな仲間や民の思いに応えるようと、どのような逆境も乗り越えてきた。


 そして、辿り着いた魔王の居城。最終決戦。

 闘いは三日三晩続いた。大事な仲間も一人失った。

 しかし、それでも辛くも魔王を倒すことが出来た。

 そして、世界に光が指した。


 私は仲間と共に世界から賛辞喝采をうけた。

 死んでいった者達を悼み、生きていることを皆で感謝しその幸せを分かち合った。世界中のあらゆる国では盛大な催しが行われ、その日は記念日にもなった。

 そして、多くの民と多くの国の同意を得て、私は魔王の代わりに魔王の支配していた国を治めるようになった。




 善政を布いてきたつもりだ。

 私自身は政治には疎く、右も左もわからないような状態だったが共に旅をしてきた者の中には博識なエルフもいたし、旅の途中で出会った商人や各国の為政者に意見を求めたりして、出来る限りのことはした。

 最初のうちは国民も皆、どんなものでも喜んで賛同してくれた。「あの勇者の言うことに間違いはない」と。

 

 けれど、時代も変われば人の心もたやすく変わる。


 私と旅を共にした仲間たちは、過酷な訓練とエルフの加護によって、老いるスピードが極めて遅く、寿命も人の倍以上ある。

 そのため、私は約一世紀に渡り、王として君臨し続けた。

 勇者としての私を知る者は仲間以外にはほとんどいなくなった。

 そして、私が全く老いないのは悪魔に魂を売ったからだと噂されるようになった。

 かつて私を支持してくれた者の子孫で、今なお支持をしてくれている者達は悪の手先と罵られる。

 勇者といえど聖人君子ではない。自分のことを嫌う人間を好きになることは難しいし、思いやり続けることは出来ない。

 私のことを忌み嫌う民衆よりも自分を助けてくれる者たちを助けたいと商人や貴族に有利な法律を出してしまったのも仕方がないことだと、あの時は思った。しかし、それは当然の如く民衆には理解されない。「特権階級のことしか考えていない」などと陰口を叩かれる始末だ。

 ならば、農民たちのための法を定めようにも、「先の法律に文句を言わせないための飴」だなどと揶揄されて結局は悪くとられる。

 どうすればいいと言うのだ?

 そうして、すっかりと病んでしまった私が提案した法律が最後の引き金となった。


『逆らう者は皆殺し』

 

 その法律は私に対する根も葉もないデマ・誹謗中傷を規制する目的で策定したのだが、民衆の目にはそう映ったようだった。

 そうして民衆の怒りと恐れは頂点に達した。

そうなると、勇者としての私の活躍を覚えていない他国の者達も好機とばかりに我が国に攻め込んで来た。

 暴動が起き、戦火は拡がっていく。

 領土が侵犯されるも、国内では暴動が起き、兵士が集まらない。常設軍だけでは限界があるというものだ。

 だから、私はかつて魔王の使っていた武器を使用することにした。

 魔物を操れるというその武器を。




 執務室のドアを叩く音が聞こえる。


「入れ」


「陛下、ただいま城内への襲撃がありました」


 部下が私に説明してくる。


「そうか」


 私は短く首肯する。

 もう、この城に残っているのは私を「様」付けで呼ぶ部下ばかりだ。

共に旅をした気の許せる仲間は皆、階下に来た襲撃者に殺されてしまった。


「陛下、お逃げください!」


 そう言った兵の声は扉を破壊する轟音にかき消された。

 見ると、頑丈な扉は粉砕され砂煙がまっていた。

 そこから襲撃者が入ってきた。


 そして、私は目を見開く。

 ――ああ。

 そこにいたのはかつての自分。

 私と瓜二つの存在。

 仲間を引き連れ民を苦しめる私を退治しに来た民意の象徴。

 私は彼の名前は知らないが彼のなんと呼ばれる存在なのかは知っている。


「ついにここまで来た……っ!?」


 男は血に染まった外套を脱ぎ去り、美しい装飾を施された青銅の鎧を露わにする。

 それはかつて私の着用していたモノ。私が「かつての勇者が愛用していたモノ」として国王から譲り受け、魔王を倒し国に帰った際に国王へと返還した鎧といつの間にか私の元から消えていたかつて私が命を預けた聖剣アイオーンだった。


 きっと、目の前の彼も同じことを言われたのだろう。

 私が依然云われたようなことを。


 それを見て、私は最近抱いていた懸念が見事に的中していたのだと確信した。

 つまり、私の倒した魔王も同じだったのではないか、と。

 彼もかつては勇者と呼ばれ、魔王を打倒し、多くの人に慕われて王となり、やがてその者達に糾弾され、あげくの果てには敵と見なされ――そして私に打ち取られた。

 あの時倒した魔王は今の私とそっくりなのだ。

 ――ああ、だからあの時、あの男は複雑な表情をしていたのか。

 全てを諦めたような、なのに安堵したような、そんな表情。

 この瞬間、きっと私も同じ顔をしているのだろう。

 仲間は死に、友はおらず、いるのはわずかな家臣のみ。その彼らだって、本当に私の考えに賛同してれているのかわからない。

 正直な話、もう全てを終わりにしたかった。

 けれど、ただ打ち取られては私のために闘ってくれた仲間たちに顔向けが出来ない。

それに私を倒せないようでは、この国を変えていけるはずがない。

 私は臓の底から声を出す。


「良く来たな、“勇者”。我が“魔王”なり」

 


シリアスちっくなのは苦手です……。


もうちょっと丁寧に仕上げたかった気もしますが、目的が「気分転換」だったであまり根を詰め過ぎてもな……と短めに。

まぁ、書きたいことは書けたと思うので良かったです。


ちょっとでも「やりきれない」ような気分になって頂ければ幸いです。


読んでいただきありがとうございました!

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