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「一問目です。
あたしが闇医者をやりますんで、おめえさんたちは駆けこんできてくだせえ。
あたしが『おい、大丈夫か』って言いますんで、そこでひとこと。
はいオーウェンさん早かった」
「すまねえドクター、腹を撃たれちまった」
「おい、大丈夫か」
「さっさとこいつを塞いでくんねぇと、俺が腹黒いのがみんなにバレちまうぜ」
△▼△▼
「オーウェン先生、お疲れ様で……」
「ようお疲れ、ノラさんや。面白かったかい?」
「正直、私には笑いは全く分からねえんで」
楽屋裏で待機していた、ゴジラをちょっとだけメンズモデル風にしたような御面相の巨漢に、商売道具のド派手な柄の高純度チタン扇子と形状記憶手ぬぐいをぽんと手渡し、ホバーに乗り込む。ゴツい手でつまむようにそっと車のドアを閉め、ノラと呼ばれた巨漢は運転席へ。
そこへ駆け込む人影がひとつ。熱線銃を両手で構え、ターゲットは後部座席に座るオーウェンだ。
「死ねや、スリーディー亭!」
「伏せろオーウェン先生!」
「スリーディメンジョン亭なんですけどね……」
ZGWWOOOM!
跡形もなく消し飛ぶ、背後の闇寄席小屋。
スペースグレーに塗られた熱線銃は闇夜を舞い、くるくるくる、と回って路面に叩きつけられ、乾いた音を立てる。
それを成したのは、いつの間にかホバーの窓から突き出されていた、チタンの扇子だ。
「ブラスターが地面を転がるとかけまして」
ガチャ、と後部座席のドアが開く。
「鉄砲玉の命、と解きます。そのココロは」
バタン、と荒々しく運転席のドアが開き、ノラの屈強な体が武器を失った刺客を地面に組み伏せる。
舞台用の派手な扇子とは対照的に、剣呑に黒く光る扇子で命知らずの顎をくいっと引き上げて、オーウェンはつぶやくように謎を解く。
「意外とね、」
それが、これまで笑顔とは無縁の人生を歩んできた鉄砲玉、トミー・リーが聞いた最後の言葉。
△▼△▼
「危険です、先生」
「大丈夫だよ、ノラさんや」
夜の闇を漆黒のホバーが滑る。
「今回はシロウトでしたが、いつもそうではありません。例えオーウェン先生がいくら面白い方でも、笑いで銃弾は弾くことはできません。荒事は我々、ボディーガードにお任せください」
「笑いで銃弾を弾く! いいねそれ。ノラさん、あんた面白いことを言う」
「面白くはありません。ただの真実です」
「そうとは限らない、俺はこれまで何度も死にかけて、その度笑いに救われて来た。そう、あれは、まだ俺が『ペンは剣よりも強し』って言葉をバカ正直に信じてた頃の話だ……」