フレームの中の君
小説を読もうでは、はじめまして。旭日千冬と申します。
読者様の軽い息抜きになって頂ければ幸いです。
彼女が僕に向かって笑っている。
一目見たときから僕の心は躍りっぱなし。
頭の中は彼女でいっぱい。他のものが入る余地さえない。
いや、予知はあるのか。僕の顔は今どんな風になっているのだろうか。変な笑みを浮かべてはいないだろうか。そんなことも頭には浮かんでいる。
でもやることはしなければいけない。浮かれてばかりもいられないのだ。
「端の人寄ってください。あと前の人はもう少しかがんでくれると…」
ディジタルカメラのシャッターを押さえる自分の指が震えているのが自覚できた。
カメラの画面の中には小さな彼女、ついついズームボタンを押して大きく彼女だけを捉えてしまう。やっぱり笑顔が可愛過ぎる。
あぁ、彼女だけの写真が欲しいなぁ。
そして少し小洒落た写真立てに飾るのだ。きっと朝昼晩眺めていても飽きないだろう。
あ、今の自分の顔。人様に見せられる顔だろうか。
また画面に視線を戻すと、彼女はにこにこ笑っていた。その微笑みだけで僕はしあわせだ。
欲望を抑え、ズームからアウトへと操作を切り替える。彼女の顔が小さくなり、その周り全員のディジタルカメラの画面に収まったところで。
僕はシャッターを押したのだった。
「何で撮らなかったんだよ。意気地がないなぁ」
後にこの事を話した男友達の第一声だ。
自分でもそう思う。
でも……。
「だって僕のカメラじゃないもの。撮っていたら後でどう思われるやら」
所詮、彼女にとって僕はただの心優しい通行人にすぎないのだ。
普段は二次創作ばかり(特に銀魂)書いています。今回は記念すべき10作目ということでオリジナルを投稿させていただきました。
これで旭日千冬に興味を持って頂けた方は、他作品も覗いてくれると嬉しいです。