過去
「叶が誘ってきてくれたから、、、かな、、、」
舞さんは少しうつむいた。眼鏡をかけていたから分からなかったけど、なんだかとても悲しい表情をしているようにみえた。
「何かあったの?」って聞きたかった。けど、なんだか聞いてはいけないような気がして。
「なにか聞きたそうだね、修司くん。」
また内心を読まれたようだ。舞さんが、軽く笑いながらこっちを見てくる。明るく振舞おうとしてるんだろうけど、目は笑ってなくて、やはり、悲しい感じは伝わってきた。
「過去に何かあったのかって聞きたいんだろう?」
「いっ、いやそんなことは、、、」
「別に、うそなんかつかなくていいよ。」
「うそなんかじゃないよ。」
「顔に、『知りたいです。』って書いてあるぞ。」
「えっ!」
思わず、顔をこすってしまった。
「ハハハ、君は面白いな。素直で。君はとても分かりやすい。」
しばらく、舞さんが笑う。恥ずかしくて軽く、頬が熱い。
「今度は、うそつかないで、正直に答えてくれよ。」
舞さんが仕切りなおす。
「ボクの過去に何があったのか、聞きたいんだろ?」
「う、うん。」
仕方なく正直に答える。
「実はね、、、」
それは、僕がいじめられっ子じゃなかったら、受け止められないくらい悲しい話だった。
もともと、舞さんは、3人姉妹の次女だった。
舞さんの父親は、ずいぶん昔に、アルコール中毒になって、お金がなくなった家を出てどこか遠くで暮らしていて、母親がパートをして家計を保っていた。
3人姉妹だったから、母親は死ぬ気で、朝から晩まで仕事をして、必死で家計を切り盛りしていた。
そんなんだったから、母親は過労倒れて病院に運ばれた。それが舞さんが小学校3年生のときだったそうだ。
とても、心配したけど、命に別状はなかったらしく、数日で、退院した。
それからは、長女がアルバイトをするようになり、母方の祖母からもたすけてもらえるようになって、母の負担は減った。
そして、舞さんが小学5年生のときまでは、その状態が続いたそうだ。
そのときは、すごく幸せだったといっていた。
しかし、小学6年生のとき、事件はおこった。父が帰ってきたのだ。
父は、毎日のように、暴力を振るい、金を奪い、そして、でていって、日が暮れるまで酒を飲み、賭博にうちこんでいたんだそうだ。
そうなってからは、地獄だったとか。
父は、金を出さなかった母にかっとなっていろんなものを投げつけ、そのせいで母が仕事をできない身体になったり、三女がノイローゼになったり、そのせいで、舞さんがいじめにあったり、とにかく大変だったんだそうだ。
そんなとき、叶が舞さんの家庭が父親のせいでめちゃくちゃになっていることに気づき、学校の先生に相談したんだとか。
舞さんは、そのことを話す途中で、軽く泣き出しそうになっていた。
つらそうだった。
やはり聞いたのは間違っていたんだろうか。
そんな、後悔が後引く。
僕はただ、「大変だったね」としかいえなかった。
街頭の明かりが、照らす、、、。
その後、しばらく歩いたところで、舞さんは、赤い屋根の、「スミレ壮」と書いてある建物に入っていった。多分そこが家なんだろう。ってあれ?ここ僕の家の隣だ。
そういえば、おかしいと思った。話の内容によると、叶は、小学校のころから、舞さんのことを知っていたことになる。だって、叶は僕と同じ小学校だったんだから、もし叶が小学校のころから舞さんのことを知っていたのなら、僕と舞さんは同じ小学校に通っていたはずだろう。舞さんだけ、違う小学校にいて、たまたま、叶と知り合いだったなんておかしいだろ。
えっ、もしかして、舞さんも同じ小学校出身だったの!?
しかも、お隣さん!?
それなのに、まったく面識がないだと!?
僕は帰って、卒業アルバムを速攻で見返した。確かにキレイに舞さんが写っていた。まさか小学校のころからの幼馴染だったとは、、、
驚きのあまり、その日は卒業アルバムを見たらそのまま寝てしまった。