「好きではありません」――そう言った彼の嘘だけは嬉しかった
「なんでこんなことに……」
伯爵令嬢のエミリーは、小ぶりの馬車の中でひとりため息をついた。
先ほど、婚約者のフィリップから「気持ち悪い」と言い放たれたことを思い出していた。
思わず目頭が熱くなるが、手をぎゅっと握って懸命に堪えた。
これから両親が待つ家に戻ることを考えると、泣き顔は見せたくない、そう思った。
すでに日は落ちており、馬車の個室は薄暗かった。
王都の通りは夜であるにもかかわらず人通りが多い。
馬車は商業エリアを通っているため往来には平民が多く、簡素な服装の者が目立った。
しかし、落ち込んだエミリーにとっては、笑顔で歩く人たちがとても華々しく感じられた。
カーテンの隙間から街の明かりが差し込んでくる。
目をぎゅっと瞑ってカーテンを閉めると、馬車の中が暗闇に包まれた。
暗闇の中で目を閉じていると、思い出したくない先ほどのやりとりが、より鮮明に頭に浮かんできてしまう。
エミリーは顔にきゅっと力を入れて泣くのを必死に我慢する。どうにか頭の中を空っぽにしようとするが、うまくいかない。
――――――――――――――
「前から思っていたが、きみは気持ち悪い」
伯爵令息のフィリップは、ためらいがちに、しかし言葉を選ばずに言い放った。
「嘘が見抜ける女だなんて、一緒にいたら落ち着けない」
エミリーは「それはあなたが隠し事が多いからでは」という言葉を、すんでのところで呑み込んだ。
「わたしは婚約者として、あなたの浮気が本気か確かめたかっただけだよ」
「浮気なんてしてない。あの子とはただ食事をしただけで」
エミリーはフィリップの言葉を遮るように小さく首を振った。
「見透かすなよ! 俺のことを!」
フィリップはテーブルを強く叩いた。
エミリーはびくっと身体を震わせ、下を向いた。
しばらく部屋を沈黙が包んだ。
「認めるよ……俺は浮気をした」
フィリップが諦めたように淡々と言葉を吐いた。
エミリーは下を向きながら、目を閉じた。
「それに、もう、浮気じゃなくなる」
「え?」
エミリーは驚きを浮かべて顔を上げた。
勝ち誇ったような顔のフィリップと目が合った。
「きみがそんな顔を見せるのは初めてだな。やっぱり可愛げがないよ」
フィリップは立ち上がった。
「きみとの婚約を解消する」
エミリーは薄く口を開いたまま、しばらく固まっていた。
しかし、フィリップの言葉はどこまでも真実だということを、エミリーも理解できてしまっていた。
「別に衝動的な決断じゃない。両親が決めた相手が、なんでこんな女なんだってずっと思ってた」
次々と真実の言葉が、エミリーの心を突き刺す。
「ご両親とは、話をしているの?」エミリーは動揺して、言葉に詰まりながらも、なんとか言葉を絞り出した。
「どうでもいいだろう。俺の人生だ。さあ、この書類を持って消えてくれ」
エミリーはフィリップの署名が入った書類を受け取ると、肩を落とし、とぼとぼと歩いてフィリップの王都別邸を後にした。
別邸を出る際に、フィリップの執事は謝罪を口にして深々と頭を下げた。
エミリーも頭を下げると「今までありがとうございました」と小さく言って、自身の護衛が待つ馬車に歩き出した。
――――――――――――――
王都には地方貴族たちの別邸が点在している。
やがて馬車はスピードを緩めると、エミリーの別邸から少し離れた場所に停車した。
カーテンの隙間から外を見たエミリーが不思議に思っていると、反対側の窓がノックされた。
エミリーがカーテンを開くと、御者と護衛の顔が見えた。
ふたりはエミリーと目が合うと、にかっと爽やかな笑顔を見せた。思わずエミリーも微笑みながら、窓を開いた。
「どうしたの? 家はすぐそこのようだけど」
「その……」体格のいい護衛の男は、がしがしと頭をかいた。街灯に照らされた顔は、赤面しているようにも見えた。
護衛の男は口をぱくぱくさせると、たまりかねた様子で御者の方に視線をやった。
御者は苦笑しながらエミリーに顔を近づけた。
「お嬢様、もう少し時間が必要なら、そのあたりをぐるりと一回りしましょうか?」
「あ……」
エミリーはふたりの優しさに気づき、堪えきれずに目に涙を浮かべた。頬を一筋の涙が伝う。
「もう」
エミリーは泣きながら、無理やり笑顔を作った。
「我慢できてたのに、ふたりのせいで台無しよ」
「あ、すみません! お嬢様!」
護衛の男は狼狽し、手をばたばたと顔の前で上下させた。
御者も困ったように頭を下げた。
「ううん、あなたたちが近くにいてくれて、本当に幸せよ。大丈夫だから、家に戻ってちょうだい」
「は!」
護衛の男は深々と頭を下げた。
馬車は再び走り出した。
エミリーはカーテンや窓を開いたままにして、夜風を顔に受けた。
風は気持ちよく、ほんの少しだけ元気が湧いた気がした。
――――――――――――――
馬車が停車すると、今度こそ別邸の前だった。
少しすると、馬車の扉が外側から開かれた。
エミリーは小さく頷いて気合を入れると、馬車から足を踏み出した。
「あら?」
別邸の前に見慣れた馬車が止まっているのを見て、思わず微笑んだ。
「ハミルトン家の馬車だわ。商売の話かしら」
エミリーが家に入ると、使用人たちに迎えられた。
「ただいま」
エミリーは努めて明るく振る舞ったが、使用人たちはエミリーの顔を見ると一様に心配そうな表情をした。
年が近く仲の良いメイドは「あの男、エミリー様を泣かせるなんて」と口にして、悔しそうに唇を噛んだ。
「大丈夫よ」
エミリーは一度自分の部屋に戻り化粧を直した。
メイドが持ってきてくれた濡れた布巾を顔に当てて、目のあたりを冷やした。
家族だけならともかく、客人がきているときに情けない姿は見せられない。できるだけ泣いた跡を隠す努力をした。
――――――――――――――
少し前のこと、エミリーの別邸にはハミルトン侯爵が訪れていた。
「リック」
侯爵家の当主であるセオドア・ハミルトンは、エミリーの父であるリチャードに親しげに呼びかけた。
「セオ、悪いな、侯爵様なのに出向いてもらって」大柄なリチャードも相貌を崩した。
「俺たちの仲だろ? それにウィルがエミリーちゃんに会いたがっていたしな」
セオドアの後ろにいたウィリアムが無表情のまま頭を下げた。淡々とリチャードに挨拶する。
ウィリアムの様子に、セオドアとリチャードは肩をすくめた。
「ウィリアムくん、私たちはタバコを吸っていくから、先に部屋に行ってくれるか?」
「わかりました。失礼します」
「親父に後継者教育を任せたのは間違いだったかもな」
セオドアがタバコの煙と共にため息を吐いた。
「ただ、貴族令息としての能力は凄まじいだろう。他の貴族からもよく噂を聞くぞ」
「文武両道の氷の貴公子様ってか? 絶対に人に本心を見せるなって、毎日親父から言われてたらしいからな……呪いみたいなもんらしくて、感情を表に出そうとすると、身体にも変調をきたしてしまう」
「深刻だよな」
「ただ、エミリーちゃんの前でだけは、少しだけ自然体でいられるみたいだ」
「うちの娘は嘘が全部わかっちゃうからな。感情を隠しても意味がない」
リチャードは苦笑した。
「ああ、エミリーちゃんの前だけは安心して過ごせるって言ってたぞ。なあ、今からでも婚約は」
セオドアの縋るような言葉を、リチャードは遮った。
「ダメだ。ウチから持ちかけた話だからな。ウチからは破談にできない。最近の彼の立ち振る舞いが目に余ったとしてもな」
セオドアはリチャードの言葉に、舌打ちをしてから、深くため息をついた。
――――――――――――――
エミリーがリチャードの執務室に入ったのは、商談も終盤に差し掛かった頃だった。
部屋にはエミリーの両親であるリチャードとマーガレット、共同で商売を行っているセオドアとウィリアムがいた。
「失礼します」
エミリーは使用人が開いた扉を通り抜けた。
立ち止まり、淑女の挨拶を行う。
「何があった」
リチャードとセオドアは勢いよく立ち上がった。
「おまえを出迎えた使用人に軽く話を聞いてる。大丈夫か?」
リチャードは大柄な身体を揺すりながら歩み出すが、マーガレットに耳を引っ張られて仰け反った。
「何をするんだ」
マーガレットはため息をつくと、黙ってエミリーに歩み寄って抱きしめた。
「あ、お母様」
「おかえりなさい」
「あ、ああ……」
エミリーはたちまち泣き出してしまった。
リチャードとセオドアはおろおろとして身体を揺すった。
部屋にはしばらくエミリーのすすり泣く声だけが響いていたが、やがてエミリーがゆっくりと話し出した。
浮気を問いただしたら、気持ち悪いと言われたこと。
エミリーといると落ち着けないと言われたこと。
そして、婚約を破棄されたこと。
エミリーは母に抱きしめられたまま、フィリップのサインが書かれた書類をリチャードに手渡した。
話を聞いていたリチャードは、先ほどまでのおろおろしていた姿から一転し、肩を怒らせて震えていた。
「あなた?」マーガレットは横目でリチャードを見た。「その紙は大事に扱わなきゃダメよ」
セオドアは複雑な表情を浮かべながらも、ちらちらとリチャードの顔と書類を交互に見ている。
エミリーは優しく抱きしめてくれる母に身を預けていると、目の前にハンカチが差し出された。
「あの、これを」
ウィリアムが顔を赤らめながら、おずおずと手を出している。
視線を彷徨わせ、少し震えているようだった。
「ありがとう」
エミリーは母から身体を離すと、ウィリアムに向き合ってハンカチを受け取り、俯いて目を押さえた。
やがてエミリーが顔を上げると、目を腫らしながら微笑んだ。
「ウィルはいつも優しいね」
ウィリアムは口を開きかけるが、下を向いて小さく「別に心配しているわけでは」と言った。
「ふふ、嘘つきだね」
エミリーは小さく笑った。
ウィリアムも表情を崩す。「あなたには敵いませんね」そう言って微笑んだ。
リチャードとマーガレットは顔を見合わせて微笑んだ。
セオドアは大柄なリチャードの影に隠れ、皆から見えないようにガッツポーズした。
セオドアは「リック」と声をかけた。
「いつも通り商談終わりに、少し飲むよな?」
「ん、ああ、そのつもりだったが」
リチャードは答えながらも、先ほどまで泣いていた娘を心配そうに見た。
「マーガレットも飲もう。うちのキャシーがマーガレットに会いたがっていてな。今日は来れなかったから、話を聞いてこいって言われていて。ちょっと話さないか」
マーガレットは見透かすような目でセオドアを一瞥した。
セオドアは軽く仰け反り、小さく息を吐いた。
その後マーガレットはエミリーとウィリアムの様子を見て、小さくため息をついた。
「まあ、いいでしょう」
セオドアは胸を撫で下ろし、息子の後ろ姿に向かって強く頷いた。
「使用人を呼んで化粧を直しましょうか」
マーガレットの言葉に、エミリーは首を振った。
「いいよお母様。待たせちゃうし、もう今更じゃない?」
「あなたねえ……そんなはしたないのは今晩だけよ」
エミリーは頷くと、ウィリアムを連れて部屋を出た。
――――――――――――――
客間に入ると、使用人たちがお茶の準備をしていく。
ウィリアムは微笑んで「ありがとう」と言うと、メイドは顔を赤らめた。
「氷の貴公子様は、メイドさんには優しいんだね」
エミリーはできるだけ明るく振る舞おうとしていたが、表情はぎこちなかった。
エミリーの言葉にウィリアムは苦笑した。
「そのあだ名は好きじゃないけど」
ウィリアムは座り直すとエミリーの目を見つめた。
「確かに、貴族社会では、僕はあまりお礼は言いません。政治的な思惑が絡みますからね。それに日常でも、自分の本心をさらけ出すことができない……」
「小さいころはあんなに無邪気だったのに」
「祖父の元に送られて、何年も厳しい教育を受けました。人が変わるには十分な期間でしょう」
「大変だったんだね」
「口に出そうとすると、胸が苦しくなってどうしても身体が動かなくなってしまう。だから、氷の貴公子なんて柄じゃないんですよ」
ふたりはしばらく黙り、それぞれカップを口につけた。
「愛していたんですか?」
ウィリアムは視線を下に落としながら、小さく呟いた。
「え?」
エミリーはカップを持ったまま、口を開いて固まった。
「泣いていたから……」ウィリアムはうつむいたまま、言葉を絞り出すようにした。
エミリーは一瞬だけ表情を歪めたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「ううん、わからない」
「わからない?」
「うん。わからないよ」
エミリーは苦しそうに顔を歪める。
「わたし、ちゃんと婚約者としてしっかりしようって思ってたの。だから……わからない。でも……」
エミリーは言葉を切って、俯いた。
「でも、気持ち悪いって言われたのは、すごく悲しかった」
「気持ち悪くなんてない」
ウィリアムがはっきりと言葉を放った。今夜、エミリーの前で口にした言葉の中で、初めて力強い声色だった。
「あなたは、素晴らしい女性だ」
「ありがとう……」
エミリーは驚いた表情をしたが、弱々しく微笑んだ。
「僕は」
ウィリアムはそう言ったまま、身体を固めた。顔から脂汗を流し、呼吸が荒くなっていく。
「どうしたの? 大丈夫」
「僕は、あなたが好きではない」
エミリーははっと息を呑んだ。
しばらく身動きが取れないでいたが、やがて小さく微笑む。
「嘘つき」
「え」
「わたし、わかるもの」
ウィリアムもつられて微笑んだ。
「そうですよね」
「うん、びっくりしたけど……嬉しかった」
ふたりは恥ずかしそうにうつむいた。
「……わたしの初恋の人ってウィルなんだよ」
「え」
「でも、きみがおじいさんのところ行ってから会えなくなってしまって……」
「僕も」
ウィリアムは先ほどと同じように険しい表情に変わると、重々しく口を開いた。
全身に汗を浮かべて、視線を少し上に彷徨わせている。
「あの、もう伝わってるよ。無理しなくても」
エミリーは顔を赤らめながら、手のひらを見せた。
ウィリアムは目をぎゅっとつぶって首を振った。
先ほどまで上の方に逃がしていた視線をエミリーの顔に向けると、エミリーの目をじっと見つめた。
「僕も……ずっと昔から、あなたが、好きです」
そう言うと、ウィリアムは全身から力を抜いて、ソファに身体を預けた。胸を手で押さえて、震えるように、ゆっくりと息を吐いた。
「ありがとう、嬉しい」
エミリーは再び涙を流していたが、表情は晴れやかだった。
――――――――――――――
翌日、エミリーの別邸には、再びハミルトン家の面々が揃っていた。
エミリーとウィリアムから話を聞いた両家は、婚約も含めた今後のことを話し合うために集まっている。
今日はウィリアムの母親であるキャサリンも同行しており、馬車を降りるとすぐにエミリーを抱きしめた。
「エミリーちゃんこんにちは」
「おばさま、こんにちは」
「大変だったわね! でもあんなのエミリーちゃんには相応しくないと思っていたのよ! その点うちの息子は難しいけど素直ではあるから、好きに教育しちゃって」
キャサリンの勢いに、エミリーは苦笑したままお礼を言った。
セオドアもキャサリンの言葉に楽しそうに笑い声を上げた。
ウィリアムは「祖父の鬼気迫るあの教育は、この両親の人柄のせいでは」という言葉が頭をよぎったが、首を振って言葉を呑み込んだ。
一行は客間に向かい、食事のために席についた。
「あの」
執事長がリチャードに耳打ちする。
「何!?」
リチャードが鬼の形相で立ち上がった。
「あなた、騒々しいわね」
「あのガキが……」リチャードは息を荒げながら言葉を絞り出した。「フィリップが訪ねてきてるらしい」
リチャードの言葉に、マーガレットは「へえ」と言って目を細めた。
エミリーはぶるっと身体を震わせた。大柄な父より、目を細めた母の方が何倍も怖かった。
「さっそくぶん殴ってこようか」
リチャードの言葉をウィリアムが遮った。
「僕に任せてください。学院では、武道の成績で誰にも負けませんでしたから」
マーガレットがため息をついて立ち上がった。
「あなたたち、不利になるようなことをしてはダメよ。ここはわたしが行って、二度とここに来る気が起きないように徹底的に言い負かしてきます」
みんなの剣幕にたじろぎながら、エミリーは小さく手を上げた。
「わたし、自分で会ってくるよ。心配しないで」
――――――――――――――
「エミリー!」
エミリーが客間に入ると、フィリップが顔を上げて立ち上がった。
エミリーは視線を合わせずにソファまで歩くと、向かいの席に座った。
「なんですか? もうわたしたちは関係のない他人のはずですけど」
エミリーの冷たい言葉にフィリップは表情を歪めるが、すぐに笑顔を作った。
「婚約破棄は取り消したい。昨日のあれは気の迷いで……俺はきみを愛してるんだ! やり直させてくれ」
フィリップの必死の言葉に、しかしエミリーは小さく首を振った。
「嘘つき」
「え」
「だから、わたしはわかるんですよ」
フィリップは口を開けて固まっている。
エミリーは構わず言葉を続ける。
「あなた、昨日言いましたよね、わたしが気持ち悪いって、落ち着けないって」
「あれは……」
「本心でしたよね」
フィリップは下を向いて口を閉ざした。
「あなたのご両親は、わたしの能力をよく褒めてくれていました。ご両親に言われてきたんでしょう」
「いや、言われてきたわけじゃ」
フィリップは言葉を返そうとするが、エミリーは再び首を振った。
少しの沈黙のあと、エミリーは微笑んだ。
今日、初めてフィリップに見せる笑顔だった。
「わたしは、昨日の夜、あなたの気持ちを知りたかった」
エミリーの言葉に、フィリップは顔を上げた。
「でも、今は違うの。もうあなたの言葉が本当か嘘かなんてどっちでもいい」
フィリップは肩を落とした。
エミリーは再び顔から表情を消した。
手を扉の方に向ける。
「どうかお帰りください」
フィリップはしばらくうつむいていたが、諦めたように席を立つと、別邸を後にした。
エミリーはしばらく椅子に座って、ぼうっと窓の外を眺めていた。
ふとノックの音が聞こえる。
「どうぞ」
そう言うと、ウィリアムが心配そうな顔をして、部屋に入ってきた。
ウィリアムはエミリーに歩み寄る。
「大丈夫ですか」
エミリーは微笑む。
「うん、大丈夫だよ」
「僕は、あなたが好きではありません」
「ふふ、嘘つき」
エミリーは小さく笑った。
「僕は、あなたなしではダメな男だ」
「今度は本心ね。そういうのは言えるんだ」エミリーは嬉しそうに微笑む。
ウィリアムもつられて微笑みを浮かべた。
「なんででしょうか。客観的に観察した事実だからかな。単純に気持ちを言うよりは楽だな」
ウィリアムは胸に手を当てながら、首を傾げた。
「ふふ、無理せず、少しずつ伝えてくれればいいよ」
「僕は、これからはあなたのそばにいる……なんだかコツが掴めてきました」
ウィリアムの真面目な表情に、エミリーは笑い声を上げた。




