茎立菜をゴリ押ししたい話
突然だが皆さんは、春に食べる葉物野菜として何を思い浮かべるだろうか?
全国区としては、花のつぼみを共に食べる菜の花がやはり旬のイメージだろうか。東海地方のからし菜を食べたこともあるし、水菜なんかも今は実に美味しいものが手に入るが、こと、私の身の回りでは、茎立菜と呼ばれるアブラナの親戚の野菜が欠かせない。
茎立菜は所によっても呼び名がいろいろあって楽しい。ちりめん菜、冬菜、薹菜、などなど。未だに種採りまで丁寧にやって地域固有の品種があちこちに残っているのが茎立菜のよいところだ。変わり種で驚いたのは宮城県の「白菜の薹」である。収穫しないで数個のハクサイを畑に植わったままにしておくと、春に薹が立つ。それを手でポキポキ摘んでさっと茹でて食べるのだ。私もやったことがあるが、癖のない食べやすい素晴らしい葉物野菜だった。
そんなこんなで日本各地にある茎立菜。出前味噌で地元の品種を持ち上げるなら、暇庭の街にある茎立菜はおそらく日本で最も栄養価にすぐれる茎立菜だ。
食品の成分検査に出した生産者さんいわく、100グラムあたり80mgものビタミンCを含むそうで。あまりぐずぐずゆでないでさっと熱湯の中をくぐらせる形で食べれば冬の間の野菜不足などあっという間にどこかへ行ってしまう。高齢者に聞くと歯ぐきの血止めとして有名だそうで、すなわち新鮮な野菜を手に入れにくい冬、どうしてもビタミンCが足りなくなり壊血病の前段階にまで追い込まれた私たちの身体を、茎立菜のビタミンCが急速に補修してくれるのである。
そしてもう一つ、味の面でも素晴らしいことを述べておこうと思う。あらゆる葉野菜の中でも突出して甘みとうまみが強く、茎の太い部分を適当に刻んで食べる直前の味噌汁にいれると実にきれいな緑色が美しい。細切りの油揚げを和風だしのもとで味付けし、フライパンのなかで茎立菜と一分くらい強火で炒め合わせるのもこれまたおいしい。
とまあ、ここまで茎立菜をヨイショしてきたのだが、その理由は今までの経験だけではない。
ごく単純な話、茎立菜は美味い野菜なので、叶うことなら全国区にしてしまいたいのだ。
別にふざけてはいない。大真面目だ。確かに菜の花のおひたしはおいしいし、群馬の冬菜も美味い。だが、春の野菜として茎立菜が確立している地域は悲しいほどに少ない。
いろいろ理由はあるのかもしれない。そのポジションにはすでにほかの野菜がいてレギュラーメンバーに空きがないのかもしれないし、ほうれん草と小松菜のローテーションに入り込む隙がないのかもしれない。
いや、だが。
それでも私は茎立菜をゴリ押しさせていただく。先も述べた通りほんとうに美味しい野菜だし、そも作るのが簡単だ。畑に種を直蒔きして、花芽をもつ枝が伸び始めたら素手でポキポキ折って収穫していい。茎立菜の生命力はずば抜けていて、折られたら別の場所から茎を伸ばすことができる。葉物野菜なのに、シーズン中は収穫しては食べ、食べては収穫し……という感じで5度ほど繰り返して食べられる。こんなに素敵な野菜があるだろうか。
というわけで、エッセイの形で紹介するのはここまででよいかと思う。皆様、ぜひ、インターネットで、「茎立菜」または「くきたち」と検索してみてほしい。種の扱いもあり、興味があれば始められるはずだ。
さあ、作りやすくてたっぷり食べられる美味しい旬のお野菜、茎立菜。ご興味があれば、是非買ったり、余裕があれば栽培してみてほしい。
全国区だと信じていたくきたちがローカルな食材だったことに衝撃を受け、ならいっそ、全国区に押し上げてしまおうと画策して書いたもの。
ゴリ押しついでに一番おすすめの品種は、荒久田くきたちという茎立菜だ。茎が太くオータムポエムにも似ているが、甘みと味の濃さが全然違う。さっと湯がいて辛子醤油でどうぞ。あえて辛子醤油なのは酒のアテとしても合うと信じているからだ。目指せくきたち全国デビュー。




