婚約破棄されちゃったけど、案外簡単に復讐できちゃいました
「君との婚約を破棄する」
「はぁ?」
私、ミラベル・リリスは婚約者から突然の婚約破棄を言い渡されました。言葉こそ丁寧でしたが、お相手の公爵家の次男坊は特に悪びれた様子もありません。
「お姉様お許しください。わたしが全ていけないのです。だからリチャード様を責めないで」
「はぁ??」
それもそのはず、この次男坊が次に婚約したのは私よりも若く、器量も良く、そして何よりも性格が悪い私の妹だったのです。詳しい理由は知らないし聞く気もおきない。性格最悪な妹のことだから、公爵家という極上の家柄にでも惹かれたのだろう。
公爵家の立場からしてみれば、地方貴族のミラベル家から一人貰うのに、姉も妹も些細な違いでしかなく。次男坊が望むのならどちらでも構わない。そんな考えが見え透いていました。
私の両親も呆れたもので、公爵家の提案を突っぱねるどころか快諾する始末。両親は過程はどうあれ公爵家とのパイプができればそれでいいのだ。
結局、私の元婚約者さまは妹に寝取られてしまった。
こんな裏切りにあった以上、ミラベルの家に私の居場所はない。どうしたらいいのかも分からず、私は持てるだけの金品を持って家出することにしました。
「あ、ちなみにリチャードというのは次男坊の名前です………て、聞いてますか?マスター」
「はいはい、聞いてるよ嬢ちゃん」
ここはどこにでもある普通の酒場、婚約破棄の一件以来、私はここで酒に溺れる日々を過ごしていました。今日も今日とて、酒場のマスターにウザがられるほど愚痴を吐いては、ビールの入ったジョッキを傾けている。
初めの頃は親身になって聞いてくれていたマスターも、今では片手間でしか耳を貸してくれない。いつも同じ内容だから当然といえば当然だけど、私としては少しだけ寂しかったりする。
「もっと私を構え!じゃないと今日も大泣きしてやる」
「と言われてもな。その話は耳にタコができるくらい聞かせてもらったし、、、妹さんの顔の方のが、次男坊の好みだったんだろ?」
「そうよ!あの次男坊に最後なんて言われたと思います!?妹のほうが少しだけ顔が整ってる、ですって!ありえる?姉妹なんだから、私とそんなに違いがあるわけでもないのに」
容姿に特別自信があったわけではないけど、この捨て台詞は流石の私も傷ついた。確かに、幼少の頃から妹の方が愛でられていた気もしていたけど、まさかあんな奴に分からされるなんて、、、
許せない。絶対にあいつらを地獄の底に突き落としてやる。
「とはいえ今更どうしようもないんだから」
「どうしようもできないからこそ、話を聞いて欲しいんじゃない!」
「俺はその事はさっさと忘れて、次の相手を見つけたほうがいいと思うけどね」
「それができたら苦労しねーんだよ」
ドンッ!
あまりの正論に頭にきた私は、空になったジョッキをカウンターに叩きつける。酒が、酒が足りない。世の中の理不尽に打ち勝つためにはもっと酒がいる。
「はい、おかわり」
「ありがと………なら、マスターが私のこと貰ってよ」
「それは無理。こう見えても俺は妻子持ちなの」
「この際、愛人でもいいから。ね、ちょっとだけ、先っちょだけでもいいから」
「ブフぅ、」
突然、隣に座っていた男が吹き出した。恰幅はいいけど顔はイマイチ、歯に衣着せぬ言い方をすればブサイクな男だ。
「何か面白かった?」
普段ならこんなどうでもいい男に構ったりしない。でも今日のマスターはいつも以上に塩対応で、全然気持ちよくない。この際、代わりに愚痴を聞いてくれるなら誰だってよかった。
「いや、淑女の言うことではないなと思ってな」
「醜男のくせに言うじゃない。私の苦しみなんて1ミリも分からないくせに」
「確かにそうかもしれないな。だが、ある条件をのむなら、俺がその苦しみを取り除いてやるぞ」
「はぁ?」
一瞬、自分の耳を疑った。でも、酒を飲んでも呑まれるな、をモットーにしている私にそんなことはありえない。今日も結構な量の酒を飲み干していたけど、思考能力は全くもって絶好調だった。
「私の苦しみを取り除くですって?」
「いかにも」
「ふ、ふふふふ、お酒の飲み過ぎで頭がどうかしたのではなくて?」
「今日はミルクしか飲んでいない」
「その図体で子供か!」
いけない、いけない、ついツッコミが出てしまった。
でも確かに、男の手にすっぱり収まったグラスにはミルクが入っていた形跡がある。酒場でなんてものを飲んでいるのだ。それは子供の飲み物でしょう。
「はっはっは、それでどうする。俺の話を信じるつもりはあるか」
「信じるもなにも………」
この男に信用できる要素は何一つない。だけど男の提案はあまりに甘美で私を惑わせる。いっそのこと、男の口車に乗るのもいいかもしれない。
これが悪魔の取引だとしても、私はきっと後悔しないから………金、身体、命、どんな代償を要求されたとしても、私を裏切った奴らに報いを与えることができるのなら安いものだ。
「いいわ。その話乗ってあげる。早く条件を言いなさい」
そう、だから答えは初めから決まっていた。たとえこいつが悪魔の類であろうと関係ない。あいつらを地獄に落とせるのなら、私はどんな仕打ちを受けたとしても耐えることができる。
「簡単なことだ。俺と結婚しろ」
「結婚すればいいのね。そんなの簡単、、、って、けっこん!?」
結婚といえば、ついこないだ私が一方的に破棄された婚約のさらに先にあるものだ。つまりこれは実質的なプロポーズであり、私は復讐の代償はこのブサイクさんと夫婦になること、、、正直、かなりイヤだ。
せめてもう少し良い見た目で、家がらもまともな男でないと結婚なんて………いや、それだと私を裏切ったあいつらと同じになる。
顔で私との婚約を破棄した公爵家の次男坊と、そんな男の家柄に惹かれた我が妹と、そんなことは断じて許せない。
「受けるのか?それともやめるのか?」
「もちろん、そのお話受けさせてもらいます。そのかわり、私の苦しみが無くならなかったらあなたのことを、」
「煮るなり焼くなり好きにするがいい」
「二言は無いわね」
「神に誓って」
言質は取った。これが保険になる保証はないけど、ないよりかはいくらかマシだろう。
「双方合意したところで、夫婦になる証として接吻をしてもらおう」
「うっ………それも条件ってわけね」
「ああ、それでお前の苦しみを消してやる」
「………チュ、」
とりあえず目を瞑ってキスをした。瞼の裏にもブサイクな顔面が焼き付いていたけど、それでも幾分かマシになる。そうして形式だけのキスを終えた私は、しばらく目を開けることができなかった。
だってちょっとでも気持ちを整理しておかないと、醜悪な男の顔を見た瞬間、おそらく私は大泣きしてしまう。
「あの………そろそろ目を開けてくれないかな?」
「断固として拒否します」
「はぁ、それでは先にグリフィン・リチャードとミラベル・アリスの処遇はこちらで決めますね」
「ん???」
男があまりに突拍子もないことを言うので、私は思わず目を開けてしまった。いけない、このままブサイクを見てしまったら、周囲にみっともない姿を晒してしまう。
「あ、あれ?」
そう身構えていたのだけど………さっきまでいたブサイクは目の前からいなくっていた。代わりに椅子に座っていたのは、年端もいかない美少年だ。金髪に碧眼、まるで絵本から出てきた王子様のようだ。
「君は誰かな」
酒の飲み過ぎで頭がやられたのかとも思ったけど、目の前に美少年はちゃんといる。触って確かめたから間違いない。
あたりを見回しても、マスターが店仕舞いをしていだけだ。他に誰もいないし、あのブサイクが魔法のように消えていた。
「くるしい」
「ご、ごめんなさい」
「ふぅ、、、ミラベル・リリス。いや、今日から同じ性になるから、ソムニア・リリスと呼ぶべきか。とにかく君のおかげで僕の呪いは解けた。礼を言うよ」
「同じ性?呪い?」
「分からないか?では改めて言おう。僕の名前はソムニア・ケルヴィン、この国の王子であり、ついさっきまで姿が醜くなる呪いをかけられていた。だが君の口づけのおかげで、その呪いが解けたわけだ」
「え、えぇ!!!!」
こうして、私はひょんなことから王太子妃となった。
その権力は凄まじく、私を裏切った二人はもちろんのこと、グリフィン家とミラベル家は共に領土を剥奪され今では没落貴族となっている。
いい気味だ。おかげで酒を飲む量も減り、夜もぐっすり眠れるようになった。
それと詳しくは聞かなったけど、ケルヴィンは酒場に通う私のことを、ずっと狙っていたそうな。呪いを解くのに、酒に溺れる私は利用しやすかったのかもしれない。
でもそれは過ぎたことだ。今ではそれなりに良好な関係を築き、互いに支え合って幸せに暮らせている。
私の復讐は簡単に終わってしまったけど、結果は大満足といえた。恨みは晴らせたし、新しい夫も出来たのだ。これ以上を望んでしまえば神様からバチが当たってしまうだろう。




