第一の分岐点
「遅いな、あの人。」
待ち時間が45分を過ぎた頃、僕は遂に動き出そうとした。彼女は「30分を過ぎれば此処に来い。」などと云ったが、正直今の状況で1人になりたくない。
彼女の云う、"漂流者"と云う単語、それに彼女は"正規の手続きを踏んでいない"とまで云った。
もしその"漂流者"が現実世界の移民のような扱いであったら、僕はより原価の安い社畜としてこの世界で暮らす事になる。
「それだけは嫌だな。」
僕は、透き通るような空と果てしない地平線を見た。これは、生涯で一位二位を争う絶景だろう。
「この先に、村があるのか。」
正面からやや右奥に住居のような人工物が見える。目的地はもう定まっている。
ちゃんと正規の手続きを踏んで、戸籍を得て、此処で自由に暮らす。そう云う未来がもう直ぐそばで、手を振りながら待っている。
そんなの、僕は御免だ。これまでの半生16年、必死に勉強してあらゆる知識を得た。
しかし、この世界でそれは無用の長物。何の役にも立たない。
それはまるで、今までの努力が否定されたようでならない。
僕は暫く、その場で右往左往。迷い続けた。多分あの人の云っている事に嘘はない。僕を騙して悪巧みする様子も、している意図も見えない。
現在の選択肢で、命令に従うのが一番だ。
ただ………
「僕は、現実に戻りたい。」
この先、僕の未来はどうなっているのだろう。大学受験を終え、普通のサラリーマンになって、上司に対して唯々諾々の人生を送っているかもしれない。
だが、この世界ではまだ、何の可能性も"見えない"。
そう思った僕は、必死に山道を下った。始めに転生した地点。そこに現実へと戻る手がかりがあるかもしれない。
そんな一縷の望みに賭け、僕は走り出した。