選択死
「暗闇だからこそ、分かる?」
僕は少し困惑する。これは彼の素っ頓狂なミスではなく、計画的な物だったとは……考えもしなかった。
「……人は住んでいないよな。」
僕は思考の途中でそう呟いた。すると、その言葉に彼は反応する。
「そう思うだろ?」
彼は顔をこちらに向けず、隣に立って何もない景色を眺める。
「実はな、ここはカンノーンという土地で、この国で三番目に栄えている都市らしいんだ。」
「え!?」
思わず声が出てしまった。失礼なのは分かっているが、そうは思えない。照明一つないこの土地が、首都なんだと……
「……いや、じゃあなんでこんなに暗いんだ。」
この情景に相当合致したツッコミだと思うが、一瞬躊躇した。彼にとっては、故郷かもしれない。
彼の切ない表情をしていて、まるで触れてはいけない何かを触れているような感覚になったからだ。
「栗崎、お前は北朝鮮をGoogle Earthで見た事はあるか?」
「見た事はある………ってちょっと待って。」
彼はちょっと待たずに話を続ける。
「多分、その映像にはユーラシア大陸の夜景で光が全くない画像があっただろう。じゃあなんで、そんなに夜景が暗いんだ?」
僕の”ちょっと待って”に反応しないのにはムッとなったが、通過儀礼らしいのでそのまま続ける事にする。
「それは、貧乏だからじゃないか?貧乏だから、照明がない。」
「いや、もっと原因を具体的に、なんで貧乏なんだ?」
「それは、独裁政治だから……じゃないのか?位の高い人に物資が偏って、照明すら庶民の手からなくなる。」
彼は僕の答えに納得したのか、僕の方を向いてこう云った。
「じゃあもし、その独裁政治を壊したいと云ったら、君はどうする?賛同するか?今起こった事も、君がいい返答をしたら懇切丁寧に答えてやろう。」
僕は、少し悩んだ。この夜景の話、物資が偏っているとはいえ、松明の光くらいはあってもおかしくない。
(もしかしたら、この話はまるまる嘘かもしれない。)
ただ、ここで嘘をついてなんの意味があるのかも分からない。(ただの革命運動なら、詐欺のように現金や個人情報を抜き出せない。というか、転生者には個人情報すら無い。)
〜〜こいつといたら、何か情報が手に入るかも。〜〜
「……分かった、賛同するよ。」
そう僕が云った瞬間、彼の口角が上がったような気がした。