不幸中の不幸
〜〜ここは……何処だ?〜〜
目を覚ますとそこには、天然の透き通った水が流れる滝。所々に苔が含まれている木々の数々。人工物の面影は一切ない。
〜〜もしや、明晰夢か?〜〜
一瞬そうも思ったが、こんな集中BGMの背景のような夢を見る訳がない。
〜〜うっ、!〜〜
突然、頭部に激痛が疾る。手で押さえるても血を触っている感触はない。
〜〜大丈夫。精神的な問題だ。〜〜
そう自分に言い聞かせ、今は痛みを和らげる事に集中する。
体の所々が痛む。山の傾斜にうつ伏せの状態。そして背後には大きな樹木があり、目の前には山の頂上から見るような絶景が広がっている。
「ダメだ。立てない。」
頭痛は次第に止み、立ちあがろうとするも腹筋に力が入らない。喉も渇き、空腹も限界を超え、最早何も感じない。
そこで不幸中の幸いか、人の声が近くで聞こえた。男声だ。何を云っているのか、声が小さくてあまり聞き取れない。
「気合いで立て!行けるだろ……!」
やっとの事で上半身だけは動かす事が出来た。周りを見渡す。左の奥。小さい崖を超えた山道に沿って右に向かっている。「ちょっと待ってくれ。」という掠れた声も届かず、ただただ何も出来ずにじっと見つめた。
そこで、ある違和感に気づいた。"肩を押さえている"そうすると木々越しに見ていた彼の状態が一気に浮き彫りとなる。
左脚を引きずり、右足を軸に歩いている。
右腕は既に脱力し、左腕で右手を掴む。
そして、力を入れるのもおぼつかない右手で右脚の太腿をナフキンのような物で押さえている。
そして、僕の視線は彼の口元に移った。ろくに口を動かせていない雰囲気はあったが、彼の口パクにある言葉が浮かび上がった。
「早く、、逃げないと。来る。来ちゃう。」
次第に彼の小さい声は、恐怖に苛まれた震えで止まらないように見える。
「何があったんだ。」
僕自身も驚愕と恐怖で掠れた声も出せず、入れ歯を抜いた老人の様に言葉の形を保てなかった。
〜〜速く、逃げないと〜〜
本能はもう既に脚を動かそうとしているが、動かない。この状況に僕は涙目になっていた。平常心を保てなかったのだ。
"するとそこで服を誰かに掴まれた感触"がした。
振り返る事もできなかった。ただここで思ったのは、彼の姿を見るのなら"ここが最適だ"というネガティブな考え。つまり、今僕を掴んでいるのは……
"彼をあんな目にした犯人"
である可能性が高いという事。
しかし、彼は僕にこんな言葉をかけた。優しい声だった。
「君を助けに来たよ。」
すると僕は、傾斜を登っているとは思えない速さで上に引きずられた。




