克服、それは魔法への道1/2
これは、ついさっき起こった話だ。
俺は、今日も仕方なく訓練に参加していた。
いつも通り、訓練場に続く道を歩いていくと、廊下の途中で道を塞ぐ程の人だかりが出来ていた。
人の中心地には、"成績表"とデカデカと書かれた看板が見えた。
どうやら、この二日間無闇矢鱈に訓練をさせられた訳ではなく、俺たちの才能を見極めていたらしい。
Bが一番低く、Aが中間、SAが最上位級。そして、年に100人しか入れないSSAという物があるらしい。
そこに自分達の成績を当てはめて、今からやる訓練が決まる。
俺はAと書かれた所に名前があった。中間だ。
仕方なく、俺はAの集合場所に行く。訓練では少なくとも1桁程の結果を出したと思ったのだが、世の中甘くないらしい。
ただ初回の二日間でAに行くのは珍しいらしく、大抵はBからのスタート。
そのせいか、集合場所とその周りには5、6年の熟練ムキムキマッチョしかいない。
これから、一時間後に訓練がスタートする。その準備に、各自で個性的な準備運動をしている。
その光景に見惚れていると、突然、背後に気配を感じた。
「あの、ここは初めて?」
「!!?」
背後から、突然声をかけられる。背後にはムキムキマッチョメン。
驚きすぎて裸で南極に行った時みたいに全身が震えた俺は、平常心をなんとか保ち、相対する。
「は、初めてっす。ちょっと緊張しちゃってて………」
(怖い、怖過ぎる。圧が桁違いだ。ずっと見つめてくるじゃん、その鋭利な視線で、やばい、言葉を失うくらい恐い。)
相手は、よく見ると細マッチョくらいの体型で、目も穏やかな人特有の形をしている。
しかし、今の僕には見えていない。自分の目には、まだ金剛力士像のような威圧感と、ずっと見つめてくるタイプの幽霊のような不気味さしか写らない。
(やばい、何とか、何とかしよう。こんな時、どうしてた?………ジャガイモ、そうだ!緊張した時は、全員ジャガイモだと思えば良いんだ!!)
恐怖で頭が混乱し、結局変な所に着地した俺は、何とかあのムキムキを"克服"しようとする。
すると、本当に見えた。
ほんの一瞬、全員が本当にジャガイモに見えたのだ。
そして、少しノイズが入る。金剛力士像とジャガイモの情景を往復運動した後、"綺麗にノイズが消える。"
そこには、細マッチョで温厚な顔をした人が立っていた。衝撃だった。
こんなにすらっと印象が変わるなんて思ってもいなかったからだ。
少し、頭が痛い。
「あの、大丈夫?」
彼はこうして、気遣ってくれている。そこで、俺は思いついてしまった。
「大丈夫っす。気遣いありがとうございます。」
彼は、少しの会釈を済ませた後、俺と目があった。彼が見た眼差しには、希望で溢れかえっていただろう。
「……名前聴いていいですか?」
彼は少し迷った後、少しばかり口を開いた。
「小幡 真司って言います。」
「小幡さん、少し後輩の戯言として聴いてくれませんか?今、俺史上で一番、成長の予感がするんです。」
彼は、俺の言葉に少し違和感を覚えた感じだったが、その後素早く快諾してくれた。
俺たちは近くにある椅子に座り、隣り合った状態で、話した。
「実は………」
ここで、俺は今あったことを嘘偽りなく話したのだ。小幡さんもその話に聴き入った様子で、途中、少し閃いた顔をしていた。
「それは、多分………」
小幡さんが云う。その時、俺は少し疑問だった。(こんな情報で何が分かるのだろう。)その不安は、今は漏れなく払拭される。
「それは多分、魔力が"相殺"されたんじゃないかな。」