山岳探索三日。人影一つない景色に、絶望を覚えた。
「ここを……右か!」
僕の旅は順調に進んだ。野を超え、山を超え、遂にはバツ印を遮る山の頂上に行き着いた。
ここまで三日。長い旅路である。
「はぁ……はぁ……ここが、バツ印!!」
山から見下ろすと、そこには少し栄えた村があった。
二階か三階建ての家屋に、所々5、6階の高層住宅が聳え立つ。
舗装された十字路を枝分かれした都市は、まるで四葉のクローバーの様な模様を連想させた。
「そこの兄さん。観光に来たのかい?」
突然右肩を掴まれ、耳に囁かれる少し掠れた声が鮮明に聴こえた。
「うわっ!?」
思わず一歩、彼を遠ざけるように進む。顔を見ると、物凄いドヤ顔でこっちを見ている。
「そんな驚かないでくれよ、、傷つくだろ!?」
「じゃあ元から話かけるなよ。」
(咄嗟に云ってしまった。初対面だが、少し冷たかっただろうか?)そんな悩みは直ぐに消え去った。僕の一言に、彼は引き笑いをしていたのだ。
「なんだ、お前面白いな!」
彼の顔はキメ顔から笑みに変わり、颯爽と距離を詰める。
「名前はなんで云うんだ?」
「……」
その問に、一瞬躊躇した。某推理マンガの少年のように、僕は偽名を即座には云えない。
「どうした?」
彼がそう云うと、僕は決意を固めて、口を開いた。
「実は……」
僕は今までの経緯を全て話した。
名前を忘れる、一種の記憶喪失である事。
気づいたら、この森林にいた事。
誰かの"落とし物"の地図を拾ってここに行き着いた事。(流石に盗んだ事は云えない。)
今までは、全て自分1人背負っていた。不安も恐怖も感じていた。
〜〜本当に、この選択で合っているのか?〜〜
そう思う事も、何度かあった。
まだ初対面で何の関わりもない、僕の拙い苦労話を彼は、真剣に聴いてくれた。
気づけば僕らは向かい合う出っ張った岩に座り、僕だけは俯いていた。
少し間を空けて、彼も迷うように口を開けた。
「俺も、実はさ、ここにいきなり飛ばされたんだ。」
そう云った彼の顔は、少し涙ぐんでいた。彼はその過去を、ゆっくりと話し出す。
僕は俯いていた顔を上げ、そっと耳を傾ける。
「深夜の森林で、ずっと1人。彷徨い続けた。木の実とか、山草で食い繋いで、気づいたらこの村に着いて、無職で金もないまま、同じ境遇の人を探してた。」
「出会えて、本当に良かったぜ!!」
その言葉は、僕の胸を沸き立てるように感動させた。少し涙も流した。
「俺、源二って云うんだ!これから宜しく!!」
彼は、僕に右手を差し出した。僕は、それを思いっきり掴んだ。
思えば三日誰とも話さず、会わずの日々。
そんな極限状態の僕は今、最高の親友を手に入れた。
最高の出会い、今はただそれを噛み締めていた。