三つ巴
※注意
当作品には主人公が2人登場します。本当なら、章ごとに入れ替えるのが筋ですが、この作品ではそれぞれの視点をep2を区切りにして投稿しています。
(例) 主人公No1視点 ep1.ep2.ep5.ep6
主人公No2 視点 ep3.ep4.ep7.ep8
時には両者の視点が交わったりしますので、多少混乱するでしょうが、「それも一興!!」
と受け入れてもらえると幸いです。
2023年4月
継浦市にて2名の焼死体が見つかった。1人は0:00公園の男子トイレにある向かいから二番目の個室。1人は2:00山頂付近の獣道。
この二つにはこれといった関連性がなく、捜査は別事件として進められた。
〜〜???〜〜
「こんな鎖、蹴り千切ってやる。」
両足に繋がれた二つの鎖は栗崎庄司の蹴りを諸共せず、洞窟に虚しい打撃音を響かせながらランプの光を揺らした。
辺りの壁には凹凸に群がる無数の苔や腐った木の腐敗臭が漂っている。
かつて人がいた痕跡もなく、鎖とその留め具以外は
洞窟の様相を保っている。
「くそっ……!」
俺は床に座り込み、ふと自分を見た。手も足も今は豆やあざだらけ。
目を覚まして五時間程は経つ。どれだけ大声で助けを呼んでも、帰ってくるのは冷たい氷雪の風だけである。
空腹も睡魔も限界に達し、今倒れてもおかしくない状況。
そこで天は俺に味方してくれたのだ。人の足音と微かだが光の指す方向に人影がある。
「おーい!!ここだ!助けてくれ!!」
掠れた激しい声に、相手も反応したのか、足音が少しずつ早まる。一歩一歩、暗闇をランプの光が照らし、10秒も経たぬうちに相手の姿は見えた。
「驚いた、まさか本当にいたとは……」
中年のヒゲが生えた少しオシャレな彼は、息を切らしながら上半身の重装備を揺らした。
「良かった!早く鎖を解いてく……れ…‥」
彼は跪いた俺の頭に銃口らしき物を向け、そっと呟く。
「これで五人目だ。跡形もなく消し去ってやる!」
驚きを写す顔は怒りを纏った形相へと変わり、引き金を引いた。
バン!!
銃口は少し左にずれ、左耳の上部を掠る。銃弾を喰らったと云うより、耳ごと吹き飛ぶ火傷を負うような痛みが僕を襲う。
「誰だ!」
彼は洞窟の入り口に顔を向ける。その瞬間、もう1人の人影が現れ、彼の右胸を切り裂いた。彼はそのまま絶命してしまった。
「あんた、名前は何だ?」
俺の顔を前傾姿勢で見つめる。タバコを咥えた盗賊のような見た目の彼は若々しく、胸に筆記体らしき文字が書かれている。
「く……栗崎と……云います。」
それを聴いて納得したのか再び立って俺を見下ろし、視線を洞窟に向けた。
バリン!!!
ガラスの割れた鈍い音が鼓膜を直接刺激するように洞窟を駆け巡る。
音の震源地に目線を向けると、足を繋いだ鎖が粉々に砕け散っていた。
「お、お前!……お前がやったのか…?」
驚愕で腰が空くんだ俺に、彼は一言こう言った。
「そうだ。お前の為にな。」
そう云い終わると彼は右手を俺の前に差し出す。恐怖で立たないが、助けてもらった恩義もある。
未だ正常に動く筋肉を何とか動かして彼の右手を掴んだ。
彼の手は温かく、そして俺より一回り大きかった。力強いその手は、見た目とは裏腹に敦厚な優しさが俺の手のひらを包み込んだ。