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記す、2024年8月の或る日(一)

最近、本当に不祥事のニュースが多い。

テレビやネットで報道を見るたびに、「いやいや、こんな会社が現実にあるのか?」と思ってしまう。


そういえば、ふとある出来事を思い出した。

どうして忘れていたのだろうか。考えれば考えるほど、不思議な話だ。


でも、こういう話って案外、身近なところで起きているのかもしれないなとも思う。


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その日、私はいつものように取引先に足を運んでいた。

8月の午後、太陽が容赦なく照りつける夏の日の出来事だった。

暑いなんてものじゃない。その激しさたるや誰かの怒りを感じるほどの猛暑だ。

コンビニで買ったばかりのペットボトルの水さえ、あっという間にぬるくなってしまうほどだった。


汗ばむシャツを気にしながら運転していると、営業車は想定より早く先方の営業所へ到着した。

しかし、先方から思いもよらぬ一言が飛び出したのを鮮明に覚えている。

「前の商談が長引いてまして、ミーティングを30分後にずらしてもいいですか?」


30分。たまったものではない。

たかが30分だが、この容赦ない暑さの中で待つにはあまりにも長すぎる時間だ。


快く、「わかりました。」と返事をしたが、私は内心、軽く舌打ちをした。

この営業所には待合室のようなものがない。仕方なく私は、隣接するファミレスで時間を潰すことにした。


時計を見ると15時を少し回ったところだった。

入ってすぐ、談笑する年配のグループが見えたので、私はなるべく距離を取るように隅の席へ座った。

そこで一息ついた私は、暑さに疲れた体を労るように、冷たい飲み物を頼んだ。


ふと、隣の席に目をやると、不思議な組み合わせの二人がいることに気づいた。

一人は40歳ほどのスーツ姿の男性。もう一人はやつれた表情の60歳くらいの女性だった。

ぱっと見て家族や親戚の関係ではなさそうだが、かといって仕事の話をしている様子でもない。妙にぎこちない雰囲気が漂っていた。


「〜〜〜はこの季節、よく遊びに出ていました」


女性の声が聞こえてきた。彼女の表情には疲労感が色濃く滲んでいる。

それに対して男性は淡々とした口調で受け答えしていた。


「足取りがつかめなくなったのは13日で間違いないんですか?」


「はい。警察にも届けを出していますが、音沙汰はなく…」


一瞬、耳を疑った。何の話をしているんだ?

失礼だと思いながら、つい耳を傾けてしまった。


「これが部屋にありました。」

「なるほど。営業記録とログですか。」


営業記録?ログ?それって会社の機密情報ではないか。

部外者である私が聞くべきではない会話だと分かっていながらも、内容が妙に生々しく、興味を引かれてしまう。


「6月28日、朝から取引先へ、帰社した後、臨時MTG…」


男性は小声で話しているつもりだろうが、内容はこちらの耳に届いてしまう。

断片的に聞こえる話が、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。

この二人が何者で、どんな関係なのか。話の背景が気になって仕方がない。


取引先の連絡を待つ残りの30分。

妙な罪悪感を覚えながらも、私はその二人の会話に注意を向けた。

暇つぶしにしては、随分と刺激的な時間になりそうだった。

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