俺のスキルって…
異世界に飛ばされた俺が、まさかカジノで運命を試すことになるなんて誰が想像しただろうか。
まず、入口からして次元が違う。
金色に輝く巨大な門、赤い絨毯が敷かれた階段、そして立ち並ぶガードマンたち――完全にVIP空間だ。
「いやいや、これ異世界っていうより現代の高級リゾートじゃないか!? 何なら俺の世界より豪華じゃん! 行った事ないけどさ」
広々異世界に飛ばされた俺が、まさかカジノで運命を試すことになるなんて誰が想像しただろうか。
「よし、ここで俺のSランクギャンブラーの力を証明してやる……!」と意気込んでホールに入ると、さらに度肝を抜かれた。
天井にはシャンデリアがきらめき、壁は黄金と銀の彫刻で彩られている。
カジノ特有のチンチン、カランカランという音が響き渡り、際どい格好をしたバニーガールがドリンクを運んでいる。どこを見ても贅沢の極みだ。
いや、この国絶対なんか悪い事してるだろ!
学生服姿の俺は、場違いだと自覚しながらも、金貨10枚を握りしめて歩き出す。
「まあ、10枚でもなんとかなるだろ……たぶん。てか、未成年入店禁止みたいに補導されたりしないのか?」
周りの目を気にしながら、場内をぐるぐる歩き回るものの、どのゲームもやり方が分からない。
ポーカー?ルールが複雑そうだ。スロット?完全に運任せだろ。
「いや、やるぞ……俺はSランクギャンブラーなんだから、どんなゲームでも勝てるはずだ!」
そう自分に言い聞かせながら、まず目についたのはルーレット。円盤がくるくる回って玉がどこかに止まるアレだ。ルールも簡単そうだし、初心者の俺にはピッタリだろう。
「よし、『赤』に10枚賭けてみるか! ここで負けたらそれまでだぜ!」
ディーラーが円盤を回し、白い玉がカタカタと音を立てながら回る。俺の心臓はバクバクしていたが――。
「赤に止まりました! 勝者!」
「やったあああ!!」
手元の金貨が倍の20枚になった瞬間、俺は興奮で拳を突き上げた。
「これは……俺のSランクスキル、どんなギャンブルでも絶対勝てるとか?! めちゃくちゃ強いんじゃないか?」
勝利の余韻に浸りながら、俺はさらに調子に乗ることにした。
「ルーレットなんて楽勝じゃん! だったら次はもっと高額を狙ってやる!」
2択の「赤か黒か」ではなく、今回は「1~10」の数字に賭けることにした。選ぶ数字はもちろん「7」――ラッキーセブンだからだ。
「15枚を7に賭けるぜ!」
金貨の価値よくわかんないけど、周りがどよめいているとこ見ると高額なんだろう。
「素人だな。一点掛けなんてくるわけないだろ。しかも金貨を賭けるなんて貴族かよ」
周囲のギャンブラーたちが馬鹿にした目で見る中、俺はディーラーを見つめた。円盤が回り始め、玉が跳ねながら回転していく。
「7だ……7に止まれ……!」
だが――。
「結果は……『4』です!」
「……は?」
耳を疑った。いやいや、これは何かの間違いだろう。
「おい、話が違うだろ! 俺のスキルって、どんなギャンブルでも勝てるんじゃないのか!?」
15枚を失ったショックで、俺はテーブルに突っ伏した。残る金貨は5枚――早くもピンチだ。
「いや、待てよ。数字は難しいけど、最初の『赤か黒か』は勝ったんだよな……。」
そう考えた俺は、初心に帰ることにした。もう一度「赤か黒か」の2択に挑む。
「今度も『赤』に賭ける……頼むぞ!」
円盤が回り、白い玉がまたカタカタと音を立てる。心臓が止まりそうなほど緊張したが――。
「赤に止まりました! 勝者!」
「おおおおおっ!!」
金貨が再び少しだけ増え、俺は安堵した。
「やっぱり俺のスキルは強いんだ……!」
調子に乗った俺は再び数字に挑戦。今度も「7」に賭ける。
「今度こそ頼む……!」
結果は――「2」。
「いやいやいや、何でだよ!?『7』ってそんなに嫌われる数字か!?」
数字で負けた後、俺は再び「赤か黒か」に挑み、またしても勝利。次も数字に挑むが負け――。
この流れを何度か繰り返した後、俺はようやく気づいた。
「待てよ……これ、どういうことだ?」
勝つのは「赤か黒か」などの2択だけ。数字やその他の賭けでは勝てない。俺は頭を抱えながら、自分のスキルの本質を考え始めた。
「もしや……俺のSランクギャンブラーのスキルって、2択限定なのか?」
赤か黒、偶数か奇数――こういう正確な2択なら勝てるけど、それ以外は無理。数字や特定の条件が絡むものでは発動しない。
「なるほど……そういうことか。」
俺は金貨を見つめながら、ひとつの確信を得た。
「2択なら絶対に勝てる――これが俺のスキルなんだ!」
喜ぶべきか、嘆くべきか分からないこのスキル。でも、どうやらこれを使いこなすしかなさそうだ。
「よし……ルーレットも飽きてきたし、そろそろ別のゲームに挑戦するか!」
カジノの熱気に包まれながら、俺は金貨20枚を握りしめ、次なる挑戦を探して場内を歩き回った。
「どうせ俺のスキルならどんなゲームでも勝てるだろ! Sランクギャンブラーだぞ、俺は!」
……この時の俺は、まだ現実を分かっていなかった。
場内を歩いていると、「ハイ&ロー」という看板が目に留まった。
テーブルに座ったギャンブラーたちが、ディーラーの前に並べられたカードを見つめている。
「なるほど、これってカードの数字が『高い』か『低い』かを当てるゲームか。完全に2択じゃん!」
俺はニヤリと笑いながら席に着いた。ここでも俺のスキルが発動すれば、楽勝だろう。
ディーラーが最初のカードをめくる。「6」だ。
「うーん……これなら次は『ハイ(高い)』でしょ!」
金貨を1枚賭け、ディーラーに宣言する。周囲のギャンブラーたちがニヤニヤしながら俺を見ている気がするけど、気にしない。
ディーラーが次のカードをめくる――「8」。
「やった!ほら、やっぱり勝った!」
金貨が1枚増え、俺は調子に乗り始める。
次も「ハイ」で勝利。その次も勝利。俺はスキルの効果を確信しつつあった。
「これ、やっぱり2択なら俺のスキルで絶対勝てるんだな!」
だが、調子に乗りすぎた俺は次のラウンドで不意打ちを食らうことになる。
次のカードは「5」。少し迷ったが、「ハイ」に賭けることにした。
「ハイでお願いします!」
ディーラーが次のカードをめくる――「5」。
「え?」
ディーラーが冷静に告げる。「引き分け扱いですので、賭け金は没収されます。」
「ええっ!? ちょっと待て、引き分けって負け扱いなのかよ!? 引き分けなのに?」
金貨が減り、俺は思わず頭を抱えた。
「おかしい……俺のスキルは2択なら勝てるはずなのに、なんで負けたんだ?」
頭の中に嫌な予感がよぎる。
「もしかして……俺のスキル、実は『絶対勝てる』わけじゃないのか?」
ディーラーが次々とカードを配る中、俺は完全に疑心暗鬼に陥った。
「これって本当に2択なのか?いや、引き分けがあるなら3択になるんじゃないか……?」
周囲のギャンブラーたちが楽しそうにゲームを続けている中、俺だけが深刻な表情で考え込む。
「いや、落ち着け。俺のスキルが負けるわけないんだ……たぶん。」
引き分けのせいで動揺してしまったが、冷静に考えれば、そもそも引き分けが発生しないゲームなら問題ないはずだ。
「次はもっとシンプルな2択のゲームを探そう。」
気分を切り替えるため、次に挑んだのはダイスゲーム。「奇数」か「偶数」かを当てるシンプルなルールだ。
「今度こそ……絶対に勝つ!」
俺は自信満々で「偶数」に賭けた。ディーラーが3つのサイコロを振ると、テーブル上を跳ねる音が場を盛り上げる。
結果は――偶数!
「よっしゃ!ほら、やっぱり俺のスキルが発動してるんだ!」
金貨が再び20枚に戻り、俺はニヤリと笑った。
「これなら簡単だな。次もいける!」
次も「偶数」に賭け、見事に勝利。俺は勝利の波に乗り始めた――と、思ったのだが……。
ディーラーがこんな提案をしてきた。
「サイコロの出目3回投げて『3』が出るか出ないか、という賭けもありますよ。」
「なるほど、これも2択か。いいだろうやるぜ!」
そう思い込み、俺は5枚を「3が出る」に賭けた。ディーラーがサイコロを振る。
テーブルを跳ねる音が止まり、出目が告げられる――「5」「2」「6」。
「残念ながら『3』は出ませんでした。」
「ちょっと待て! なんで負けるんだよ!?」
混乱しつつ、俺は考え込んだ。確かに「3が出るか否か」という形では2択だ。でも、冷静に考えると……。
「『3が出る』確率って1/6じゃないか……!?」
顎を手に乗せて考える。
「これ……厳密には2択じゃないってことか!?」
勝つのは、完全に均等な2択のゲームだけ。偏りがあるものでは、スキルが発動しない。
「なるほど……俺のスキルは『完璧な2択』にしか効かないってわけか」
少しずつ確信を深めた俺は、金貨を握りしめながら拳を固めた。
「よし……これで次からはちゃんと勝負できる!」
金貨はなんとか20枚に戻ったものの、俺の目標は1000枚だ。道のりはまだまだ遠い。
「このスキルさえあれば、なんとかなる……いや、なるよな?」
疑心暗鬼を振り払い、俺は次のテーブルへ向かう。