リリカさんの面接対策特訓
リリカさんから連絡があり、見事にローエンベルク家の面接を受けさせてもらえることになった。
「やった! 俺の実力がついに認められたか!」
「違いますよ! ギルドの推薦があったからです! それに、ギルドの推薦だからといって採用されるとは限りません」
「ぐっ……まあ、そうだよな……」
「なので、ユッティーさんには私の面接対策を受けていただきます」
リリカさんがピシャリと言い切った。俺の意見はなかった。
こうして俺は面接前にリリカさんの手解きを受けることになり、ギルドの会議室で《地獄の面接特訓》が始まった。
「ユッティーさん、全然ダメです! いいですか? 面接では『自分を採用しなければ損だ!』と思わせないといけません」
「でも、どうやって……?」
「そのために私がいるんです。安心してください。無事ユッティーさんを採用に導いてあげます」
リリカさんはキリッとした表情で言い切る。
なんだろう、妙に頼もしい。
「まず、姿勢を正して、相手の目を見て挨拶してください」
俺は思わず身を縮こませる。
「え、目を合わせると敵対していると思うんでは……?」
「それは相手が猫の場合です!!! 面接官の目をしっかり見るんです!」
そう言われ、俺はリリカさんの目をジッと見つめる。
(う……かわいい……)
「あっ! また目を逸らしましたね! ダメですよ!」
「違います! これは本能と言いますか…」
「もう! 真面目にやってください! ……先に進まないので、次に行きます。本番ではしっかり相手の目を見て頑張ってください」
「では、次は志望動機です。なぜローエンベルク家で働きたいのか、説得力のある理由が必要です」
「なるほどな……」
俺は腕を組んで考える。
正直言うと、働きたい理由は 無い。全く無い。
「えっと……時給が良さそうだから……?」
「落ちます」
即答だった。
「じゃあ……食事つきの職場だから……?」
「大幅減点です」
「えええええ!?」
リリカさんはため息をつきながら、お手本を見せてくれた。
「『私は、貴族社会において礼節を重んじ、忠実にお仕えする覚悟があります。この国の未来のために、貴族のあるべき姿を学ぶため歴史と由緒あるローエンベルク家に仕える他ないと考えました』……こうです」
「長っっっ!! こんなの暗記無理だろ!!」
「いいえ、暗記してください」
「鬼か!? ギルドの受付嬢ってこんなに厳しかったっけ!?」
「ユッティーさんが適当なことばっかり言うからですよ!!」
この人、結構容赦ないな……?
「では、実際に言ってください」
俺は震えながら、なんとか言ってみる。
「……私は、貴族社会において礼節を重んじ、忠実にお仕えする……覚悟があります!」
リリカさんの顔が渋い。
「言わされている感がすごいです。もっと自然に、心から言ってください」
「だって実際言わされてるし!!!」
「ダメです! 本番でそんな言い訳できませんよ!」
くそっ……!! 正論すぎる!!
「まあ、いいでしょう。次は自己PRです」
「えっ、まだあるんですか……!?」
「当たり前です! 今日はみっちりやりますから覚悟してくださいね」
「リリカ先生怖すぎる……」
リリカさんは笑顔で言う。
「さあ、ユッティーさん、あなたの長所は?」
「……えっと……」
「はい、ダメです!! すぐに答えられないのは準備不足の証拠です!!」
「そ、そんなぁぁぁぁ!!」
俺の無個性(悠斗基準)は面接という場において 圧倒的に不利 だということを、俺は今さらながら痛感した。
リリカさんはため息をつきながら、静かに告げた。
「ユッティーさん、いいですか? 使用人は『家の顔』なんですよ」
「……えっ……?」
「主人の品格を映す存在。それが貴族の使用人です。つまり、堂々としていなければ、逆に貴族の評価を下げるんです」
「お、おおお……」
(なんか……納得しそうになってる俺がいる!?)
「じゃあ自己PRから再度練習しましょう」
「はい……お願いします」
俺は何度も厳しい指摘を受けながら練習した。
「…まあいいでしょう。本番は明日ですからね。遅刻は絶対ダメですよ!」
リリカさんは指を一本立てて、ウィンクしながら俺に言ってきた。
俺は動揺した。
いやいやいや!? なんですかその『小悪魔スキルは』!?
俺みたいなモブにそんな上位スキル使わないでください!!!
繰り出された上位スキルに俺の警戒心はマックスになっていた。リリカさんの小悪魔スキルはモブの俺には少し刺激が強すぎる。
(女の人ちょっと怖いです……)
「じゃあ期待してますからねっ!!」
俺はガチのモテる女性を目の当たりにして、意気消沈して自分の部屋に帰る。
その途中、学校から帰る途中のリディアとセリーナに会った。
「悠斗! あなた学校サボって今日一日何してたの!」
うん。丁度いい。リディアとセリーナくらいが俺には丁度いい。ガチのヒロインは俺には荷が重いという事を思い知った。
(まあ……リディアも一応は王女なんだけど……)
「いや、俺、明日バイトの面接なんだ。ギルドで面接練習してきたんだよ」
リディアとセリーナが目を見合わせる。
「えっ? 何? バイトの面接ってどういう事?! ちょっと意味わかんないんだけど…」
「悠斗が真面目に働く姿……想像できないわね」
こいつらめ……俺がモブとして影でどんなに努力してるかも知らずに!
リディアが俺に不思議そうに尋ねる。
「ねえ、バイトって何するのよ」
「貴族の家の使用人だ!ローエンベルク家だったかな?」
二人は再び目を見合わせ、同時に叫ぶ。
「はぁぁぁぁ?! 貴族の使用人!!!???」
「また…… 一番想像できないやつ持ってきたわね」
おい、セリーナ。一番想像できないってどういう意味だ?
「何?! どういう事?!」
リディアなんてパニクってやがる。
「まあ、見てろって。俺が真のモブだってところを見せてやるから」
俺は明日の面接に向けて、決意を新たにした。
帰ったら少し練習するかな。




