俺の場所どこ?
「これより、勇者の訓練を開始する!」
訓練場に響き渡る王国の司会官の声。
広間でのジョブ発表が終わり、俺たちは王城の訓練場に集められた。ジョブごとに3つのグループに分かれ、王国のエキスパートが担当するとのことだ。
なんでも、「物理職」「魔法職」「サポート職」の3カテゴリに分かれるらしい。
訓練場の中央では、3人の講師がそれぞれのグループを指導する準備をしている。
まあ、テンプレだな。ギャンブラーはどこに呼ばれるんだ?
まず最初に紹介されたのは物理職グループの講師――。
「私はレオン・ヴァルハルト。王国最強の騎士だ。」
は? 王国最強とか自分で言うか?!
現れたのは、身長2メートル近い巨漢の騎士。銀色の鎧に身を包み、剣を肩に担いでいる。その迫力たるや、周囲の空気が一瞬で引き締まった。
「このグループには、宮下真琴、篠崎亮、高橋龍之介、井上慎太郎、そしてそのBランク以下の物理職に来てもらう。」
「まずは剣術の基礎から始める。全員、私に続け!」
レオンの号令とともに、物理職のメンバーが集まっていく。
当然、俺は呼ばれない。
「まあギャンブラーは物理ではないからな。それに、そもそもやりたくない。あの脳筋っぷりを見ていると辛いに決まってるし」
次に紹介されたのは魔法職グループだ。
「こちらはリリス・スフィアが担当する。」
その瞬間、訓練場が一気に華やかになった。現れたのは、美しいローブを身にまとった女性。
柔らかな微笑みと、指先から漂う魔力のオーラがいかにも「魔法エキスパート」という雰囲気を醸し出している。
「魔法職には、鈴村千夏さん、田中葵さん、そしてその他のBランク以下の魔法職が所属します。」
リリスが手をかざすと、空中に魔法陣が浮かび上がり、クラスメイトたちは感嘆の声を上げた。
俺は少し距離を置きながら、それを眺めていた。
魔法職、楽しそうだな……でも俺、魔法使えないし。
でも、あの先生だったら俺も魔法教えてもらいたかも。
「千夏さん、よろしくお願いします!」
「田中さん、魔導士の心得を教えますね。」
リリスがクラスメイト一人一人に優しく声をかけていく中、やっぱり俺には声はかからない。俺はぼーっと立ち尽くしていた。
「ま、まあ、俺ギャンブラーだし」
最後に紹介されたのはサポート職グループ。
「こちらはルクスシア・シルフォードが担当する。」
訓練場に静謐な空気が流れた。現れたのは、聖女として名高いルクスシア。清らかな微笑みをたたえ、純白のローブを身にまとっている。その姿はまさに神聖そのもの。
「サポート職には、星野結衣さん、小野寺香織さん、佐藤大輝さん、そしてその他のジョブの人が所属します」
サポート職、間口広いな。ガバガバだな。
「よろしくお願いします!」
「はい、まずは回復魔法の基礎から始めますね」
ルクスシアの優しい声に、サポート職のメンバーは期待に胸を膨らませているようだった。
俺は目を輝かせながら、グループの様子を眺めた。
ここだよ、俺が目指してたのは! 後方支援で戦場に出なくて済むサポート職!
そうか! ギャンブラーはサポート職に分類されるのか!
だが――
俺だけ、取り残されていた。
「……あれ?俺はどこ?」
周囲を見渡しても、ギャンブラー専用のグループなんてどこにもない。物理職にも、魔法職にも、サポート職にも名前は呼ばれなかった。
俺は訓練場の端で指揮を取っていた司会官に声をかけた。
「すみません、俺ってどのグループに入るんですか?」
司会官は一瞬、困ったような顔をした後――。
「ああ……佐倉君、君は……えっと……ギャンブラーは…うーん、そうだな、どうしようかな…えーと」
おいおい、そんなに悩むか!? 俺だけ適当すぎないか!?
「とりあえず……まあ…何するにしても体力が基本だから物理職あたりに混ざってみては?」
「えっ! 健康第一的な!?」
結局、物理職に押し込まれることになった俺だったが、そこに平穏なんてあるはずもなかった――。
物理職の訓練エリアにたどり着いた俺は、一瞬で後悔した。
目の前には、全身筋肉でできてるんじゃないかってくらいの巨漢――王国最強の騎士、レオン・ヴァルハルトが立ちはだかっていた。
その迫力は、近くにいるだけで息が詰まりそうになるほどだ。
「よし、全員揃ったな!これより、物理職の訓練を開始する!」
その声の低さと迫力たるや、響き渡るだけで体が震える。
訓練生が次々に集まり始める中、俺は端っこで目立たないようにしていた。
だが、そんな俺にレオンの鋭い視線が突き刺さる。
その瞬間、レオンがズカズカと俺の目の前まで歩いてきた。
訓練場全体の視線が俺に集中する。
「来たか! Sランク勇者! 俺が直々に見てやろう!」
え、何このプレッシャー!?
レオンの声は自信と期待に満ちていた。
「Sランクというだけでお前は特別だ! その力を見せてみろ! まずはこの剣を握れ!」
そう言って渡されたのは、明らかに人を選ぶ重そうな大剣。
「いや、これ絶対持てないやつでしょ!? 普通の剣とかないんですか!?」
「何を言っている! お前はSランクだぞ! 勇者とはこういう武器を扱うものだ!」
仕方なく大剣を握ってみるが――。
「ぐっ……重ッ……!」
地面に叩きつけられる音が響く。剣を持ち上げようとするだけで腕がプルプル震え、足元も不安定になる。
「……何をしている! それでもSランクか!」
レオンの怒声が飛ぶ中、俺は必死に言い訳を考えた。
「いや、俺ギャンブラーなんで……剣使うより運に任せる感じでして……。」
その言葉に、レオンが困惑した表情を浮かべた。
「運? そんなものに頼る奴がいるか! 戦場では筋力が命だ! よし、次は腕立て伏せだ!」
「腕立て伏せ100回だ!全員、気合を入れろ!」
レオンの号令で訓練生たちが一斉に腕立てを開始する。
高橋は涼しい顔で軽々とこなしているし、井上はまるで呼吸のリズムを整えるかのように余裕たっぷり。
俺? もちろん――10回で限界を迎えた。
「ぐっ……ぜぇっ……!」
地面に伏せたまま動けなくなる俺に、レオンの怒声が飛ぶ。
「何をしている! たった10回で根を上げるとは、それでもSランクか!」
「いや……筋力にランクは関係ないんじゃないですかね……」
「甘えるな! 根性がなければ戦場で生き残れん!」
俺の腕はすでに悲鳴を上げている。
隣で腕立て伏せをこなしている篠崎(忍者)が、横目で俺を見て呟く。
「おいおい、悠斗。お前、それでもSランクかよ」
「うるさい! 忍者は体軽いんだから得意だろ!」
井上も呆れたように首を振る。
「悠斗、これじゃ本当にSランクが泣くぞ。もっと鍛えろよ」
「タンクは筋肉の塊だからな! 俺にそんなの無理だ!」
俺の惨状に、クラスメイトたちは失笑を漏らしている。
そして、俺の平穏計画はさらに遠のいていく――。
1時間後、俺は体中の筋肉が悲鳴を上げ、まともに立つこともできなくなっていた。
レオンは呆れたように俺を見下ろし、一言。
「……ふむ、お前は…いや、ギャンブラーは物理職ではないな」
いや、最初から分かってたわ!
「次、魔法職に行け。そちらで訓練を受けるのだ。」
こうして俺は物理職を追い出され、次なる魔法職へと向かう羽目になった――。