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初めてのバイト面接

しばらくして、タクヤから二つの貴族に絞り込んだと連絡があった。


 一つは、エルシア王国の名家として名高いローエンベルク家。エルシア王国の王族の血を引く名家で、代々王に仕えてきた名門中の名門だ。


しかし、最近は国王を批判する急先鋒となり、保守派の代表格として政治的な影響力を持っている。


表向きは王家に忠誠を誓っているが、一部の貴族の間では「いずれ王家を乗っ取るつもりでは?」と囁かれているらしい。


もう一つは、中流貴族のバルフォード家だ。国王の民主化政策の影響を最も受けているのが、このバルフォード家のような中流貴族らしい。


今まで、中流貴族は大して努力をしなくても、それなりのポジションと特権を与えられていた。


しかし、国王が改革を進めたことで、その特権が次々と廃止され、貴族の間での不満が高まっている。


バルフォード家はかつてそれなりの影響力を持っていたが、最近は没落気味で、資金繰りにも困っているらしい。


まあ、どちらもスパイである可能性は十分にある。


タクヤが俺に尋ねた。


「さあ、この二択、お前はどっちに行く?」


「ちょっと待て、すぐに決められるか! 判断材料が足りないだろ!」


俺は思わず両手を挙げた。


「お前な、こういうのはじっくり慎重に決めるもんだろ! なんで即決前提なんだよ!」


「お前、普段ギャンブルは二択なら強いとか言ってるくせに、こういう時は慎重派なのか? ギャンブルには思い切りと勢いが大切だと思うぞ」


タクヤはギャンブラーの矜持ってものを何もわかっていない。

「お前にギャンブルの何がわかるんだ!『慎重さ』それが一流のギャンブラーなんだよ!」


タクヤは肩をすくめながら苦笑する。


「お前、モブなのかギャンブラーなのか一体どっちなんだよ。まあいい。お前は潜入するんだから、慎重に選ばないとな」


「そうそう、モブの美学としても、下手に目立つわけにはいかないし……」


俺は考えながら、二つの貴族家について整理した。


「正直、どっちも怪しいよなあ……」

俺は腕を組んで考え込む。


「ローエンベルク家の方に行けば、警備も厳しいだろうし、経験者以外雇わないって事も考えられる。バルフォード家なら、未経験のバイトを雇う可能性もあるだろう。人件費も安く済ませたいだろうし、シフトの融通も聞いてくれそうだ。さすがにテスト前は休みたいし」


「お前、まさか単純にバイト探しの視点で考えてないか?」


「待遇、超重要だろ! 俺だって異世界の学歴は取っておきたいんだよ! せっかく最難関大学に裏口入学できたのに!」


俺は再び考え込む。


バルフォード家は没落している分、警備が緩く、バイトとして入り込める可能性が高い。


対してローエンベルク家は警備が厳しく、使用人の身元も細かく調査されるだろう。


「……よし、俺はバルフォード家に行く!」


タクヤは頷いた。


「なるほどな。確かにバルフォード家の方が、未経験バイトの採用率は高い分、入り込みやすいかもしれない」


「そういうこと! 名家に入るよりリスクも低いし、何より俺はモブだ。違和感なく潜入するなら、こっちしかない」


タクヤは腕を組みながら少し考え込み、「悪くない選択だ」と呟いた。


「じゃあ、お前は使用人のふりをして屋敷に入り、決定的な証拠を掴め」


「……やっぱ俺の仕事、モブじゃなくてスパイじゃね? そういえば、俺この前、王様に会ったじゃん? 顔バレとか大丈夫なのか?」


「それは心配ない。あの場は王様の側近しかいなかった。お前はただの『モブとしての仕事』をこなすだけだ」


「……ほんとかよ……」


俺は深いため息をつきながら、初めてのバイト(スパイ活動)に向けて準備を始めるのだった。


俺は、冒険者ギルドに行って、求人情報を確認しに行った。冒険者ギルドはクエストの受注のほか、職業斡旋もしているのだ。


「S級冒険者のユッティー様がなぜこんな使用人なんかのバイトをするんですか?」

ギルドの受付嬢が当然の疑問を俺にぶつける。


「いや、エルシア王国に来たばかりでお金がなくて…すぐに働きたいんです…」


「なら! いい依頼がありますよ!」


「いや、依頼とかいらないから! ……バイトしたいんです! 社会勉強の為にも!」


そんなやり取りをしていると運良く、バルフォード家が新しい使用人を探しているとの事で、ギルド経由で面接の約束を取り付ける事ができた。



そして面接当日——



どっからどうみても完璧だ。セリーナを面接する時に仕立てたネイビーのスーツに伊達メガネ、七三にピッチリと分けたモブヘア。これぞ一流の候補者だ。



合格間違い無し! いざ面接へ! 



「失礼します!! 今日、面接のお約束をしていますユッティーです!」

決まった。好印象を与える最高の挨拶!


そしていくつかの質問に、モブの姿勢を崩さず、俺は自分をアピールする。



「僕は、使用人として、決して目立たず、黒子に徹して、時には背景になりきって、役に立って見せます!」



……そう、俺はモブ魂で役に立ってみせる!



そして……

——面接の結果は



……不採用だった。



「くそっ!! なんで不採用なんだよ! あいつら見る目なさすぎだろ!」


ギルドの受付嬢のリリカさんに、不採用の理由を一応確認しにいく。


「あっ……ユッティーさん…。この度は残念でした」


「すいません、俺の不採用の理由ってなんか聞いてたりしますか?」


リリカさんは少し伝えづらそうに…言葉を選びながら俺に伝える。


「はい…なんかですね……その、言いづらいんですけど…『使えなさそう』との事でした…」


「えっそれだけですか? 一言ですか?」


「はい…『使えなさそう』の一言でした…」



いや、合ってるけど!!!!!

そりゃ、否定できないけど!!!!



俺は、バルフォード家の面接を終えて、意気消沈して帰ってきた。


「タクヤ…俺…面接に落ちた…」

タクヤの屋敷のソファに沈み込みながら、俺は呆然とつぶやいた。


「バイトの面接だぞ!? 俺、普通に愛想よくして、履歴書も適当にそれっぽく仕上げたし、礼儀作法もそれなりにこなしたのに! 俺の完璧なモブ潜入計画が、まさかの第一関門で崩れ去るとは……」


タクヤは俺の話を聞きながら、クッキーを口に運び、ぼそっと言った。


「で、落とされた理由は?」


「それが……なんか『使えなさそう』だってさ……」


タクヤのやつ吹き出しそうになってやがるな。分かるんだからな! 笑い事じゃないんだからな! 俺、傷ついてるんだぞ。


「なんだよ、結局この世界はモブには厳しいのか!? 主人公かヒロインじゃないと生きづらい世界なのか!? くそ、クソッ……!」


タクヤはコーヒーを一口飲み、俺に絶望の一言を突きつける。

「いや、悠斗、バイト不採用になるモブなんていなくないか? モブになる前に弾かれてるだろそれ。モブにすらなれてないじゃん?」


———正論は傷つくからやめてください。


「くそ! こうなったらローエンベルク家だ! 次はバイトの面接に通って見せる!」


「ローエンベルク家は上級貴族だぞ。ベルフォード家で落ちたお前が受かるのか?」


「俺は成長するモブだ。同じ轍は踏まないさ。まあ、見ておけ!」


俺は冒険者ギルドに行ってリリカさんにローエンベルク家の求人について聞く。


「ああいう上級貴族は普通は公募しないんです。ほとんどが紹介か、下級貴族の次男とかを採用しているんですよ」


「そこをなんとか! リリカさん! お願いします」


「わかりました。ユッティーさんはS級冒険者なので、ギルドからの推薦という形で当ててみましょう。先方から返事がありましたらお伝えしますね」


冒険者ギルドの受付嬢、どこにいっても有能だな。

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


「いいんですよ! でも今度、うちのギルドの依頼も受けてくださいね!」


リリカさんは可愛い笑顔を俺に向け、俺はそれに撃ち抜かれた。

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