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メガフレア発動

強制収容所に収監されて一週間経ったこの日、俺はようやく解放の瞬間を迎えた。


 「ようやく解放されたー!」


俺は崩壊して瓦礫まみれの魔力制御塔から外に出て、青空を仰いだ。まぶしい太陽! さわやかな風! 人権のある世界!!!!


「俺は!! ついに!! 強制労働から解放されたんだ!!!」


この一週間、本当に地獄だった。冗談抜きで食事は一日一回。睡眠時間は三時間。


それ以外の時間は、全て魔力制御の練習に当てられた。疲れて練習中に少しでも寝ようもんなら雷撃の魔法での強制ビリビリの罰ゲーム。


おいおいこれが最高学府のやる事か?

異世界に人権問題ってないのか?


 結論を言うと、俺は結局、魔力の制御は出来なかった。


通常の魔力制御は、ヤカンの水をコップに注ぐ感覚なのに俺のは消防ホースみたいにドバドバ出る。


ただ、流れる量は常に安定しているそうなので、ラストの三日間は俺の流れる魔力量にピッタリな魔法陣を教授が描いて探す、という謎の訓練になった。


教授はもういい歳なのにたぶん三日間寝ていないだろうし、飯も食ってなかっただろう。


俺は教授が魔法陣を書いている間はやる事ないので、床でゴロゴロしたり、壁に絵を書いたり、オリジナルソングを作ったりで暇を潰していた。


そして、教授が魔法陣を描いたらそれを覚えて魔力を流すという事を繰り返した。


通常は魔法を使う時は、魔力の細かい調整で魔法陣に合わせていく感覚だそうで、流れる魔力に合わせて魔法陣を作るという逆の作業はかなり難しいそうだ。


「くっ……これではダメじゃ……! この魔法陣も耐えられんとは……!」

とか言いながら、教授すごい頑張ってたな。


最終日なんて教授も精神的に追い込まれて、

「はっはっは……これじゃ……だめか……? フフ、フフフフ……」とか言ってたもんな。


俺が教授に頭から水をぶっかけて助けてあげたからよかったけどさ。あのままいってたらたぶん、壊れてたよな。


やっぱり人間働きすぎは良くない。


しかし、そんな俺と教授の努力のおかげで、一つの魔法が完成した。完成したというより偶然出来たとでも言おうか。


その魔法の名前は———

『メガフレア』


当初、強力な炎の魔法を放つ事を目指して教授は魔法陣を書いていた。

「よし、出来た。魔力を流してみるのじゃ」


 俺が魔力を炎の魔法の魔法陣に大量に流したその時……


——バチバチッ!!!


「ん? なんかヤバそうじゃね?」


「いかん!!! 魔力が魔法陣に収まりきらん!!!」


「え、ちょっと待っ——」


ドゴォォォン!!!!!!!


次の瞬間、周囲の空間がグニャリと歪んだ。


(うわあああああ!? なんだこれ!?)


魔法陣の中心から 膨大な熱エネルギーが凝縮し、視界が真っ白になる 。


教授の絶叫が響く。


「おおおおお……!! これは……!! 魔法の域を超えておるぅぅぅぅ!!!!」


膨張と圧縮を繰り返すエネルギーが暴発し、周囲の大気が一瞬で蒸発。


同時に、強烈な爆風が魔法制御塔を丸ごと吹き飛ばしてしまった。


 空間内の分子振動を極限まで活性化することで発火点を超えた爆発を起きて、局所的な超新星爆発に近いエネルギー変換が発生してしまったのだった。


煙の中から、ボロボロになった教授が ゆっくりと立ち上がる 。


全身がススまみれ、髪の毛はチリチリ、白衣はボロボロ。そして、震える声でこう呟いた。


「ま、まさか……まさかじゃ……これはメガフレア…理論は知ってはいたが…」


教授は震える指で俺を指差した。


「お主は……魔導災害を引き起こす者……禁忌の破壊者……《災厄の魔法使い》 じゃ!!!!」


「えっ!? 火の魔法を放っただけなのに?!」


「黙れ!!! お主のメガフレアは、火の魔法ではなく、第一級の魔法災害じゃ!!!! 今後、学内でメガフレアを使う事は禁止じゃ!」


結局、学内でメガフレアの魔法を使う事は禁止されてしまった。


教授が言うには、メガフレアは俺を中心に広範囲が跡形もなく消し飛ぶらしく、最悪の場合は俺も消し飛ぶリスクもあるらしい。


今回は使った魔法陣がまだ小さかったからマシだったようだ。てか、教授よく生きてたな…。


(……でも、そもそもこの魔法、使い道なくね?)


学園—— 禁止(即退学)

戦場—— 撃った瞬間、自分も消し飛ぶ可能性あり

街中—— 確実に都市ごと吹っ飛ぶ(反逆罪で逮捕)

対モンスター戦—— 周囲の地形ごと消滅するため、環境破壊で怒られる


(一体どこで何に使うの? この魔法)


 俺は魔法大学へ入学したはいいけど、魔法を使う事が許されないという、なんかよく分からない存在になってしまった。


というわけで俺は(無事…?)監禁状態から解放されたのだった。


とりあえずは魔法を使わない事を条件に、自由に学内で過ごしていいという特別待遇を教授と学長から手に入れる事が出来た。


初心に帰って、モブはモブらしく大人しく目立つ事なく過ごしたいと思っているのだが……。


———なんか監視されている気がする。


白衣を着た研究員らしき人達が明らかに俺を監視しているのだ。


まあ、気にしてもしょうがないし、とりあえずリディアとセリーナと合流するか。


リディアが俺の姿を見つけて、走って俺のとこまで来る。

「悠斗! 大丈夫?! なんかさっきすごい音がしたんだけど…」

「まあ、なんとか」


セリーナが腕を組んで呆れ顔で言う。

「まあ、なんとかじゃないでしょう! リディアはずっと悠斗の事心配してたのよ。口を開くたびに、ため息ついて、『悠斗大丈夫かなあ』って」


「ちょっとセリーナ! そんな事言ってないから!」

リディアが 耳まで赤くなって反論する 。


なんだかんだみんな心配してくれてたのか。

「リディア、心配してくれてありがとうな」


「ちょっと、別に…そんなんじゃないわよ! えーと……で、魔力の制御はできるようになったの?」


「いや、それがさ…俺の場合は常に極太ホースから全力で魔力が流れてるらしくて、それに耐えられる魔法陣がないんだよな」


「じゃあ、今は魔法が使えないってこと?」


「……まあ、学園内ではね?」


「『学園内ではね?』って何よ」


(いや……学園外なら撃っていいのか? いや、そもそもどこで撃つんだこれ……?)


「メガフレアっていう魔法は打てるようになったんだけど学園内では使用禁止になっちゃって…」


セリーナは唖然としている。

「メ、メ、メガフレアって、魔法っていうか魔法災害じゃない! そんなの学園どころか、どこでも使っちゃダメよ。世界を滅ぼす気?」


大袈裟な! 平穏な生活を望んでる俺が世界を滅ぼす気なんかあるわけがない。


セリーナは呆れて手を広げて辺りを見渡す。

「それで監視されてるわけね…そういえば、なんか多くの職員がこっちを見てるわね…」


リディアもため息をついている。

「完全に危険人物で監視対象ね。どこへ行っても騒がしい人ねほんと。うちの国壊さないでよね!」


「壊さねぇよ!!!!!」


とりあえず、俺は使い道のない災害級魔法を身につけてしまい、国家の監視対象に置かれた危険人物と認定されたらしい。


 俺は学歴を手軽に得て、楽しい異世界生活を送るのと、この紋章の力を解放することだけが目的だったのに。


どうでもいいけど、俺のスキルって全部、ギャンブル要素が強すぎないか?


まあ、しばらく大人しくしてよう。

そう……初心に帰ってモブに徹するんだ。

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