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王の間

重厚な扉が静かに開かれると、壮麗な王の間が視界に広がった。


赤い絨毯がまっすぐに敷かれ、その先には壮麗な玉座が鎮座している。

高い天井には豪奢なシャンデリアが輝き、大理石の柱が威圧的にそびえ立っていた。


そして、奥の中央に座する一人の男。


歳は四十にも満たないと見えるが、ただ座っているだけで感じる圧倒的な存在感。


鋭い眼光と落ち着いた佇まいからして、このおじさんこそがエルシア王国の王であることは疑いようがなかった。


「リディアのお父さん若いな…」

俺の住む世界の少子高齢化問題とは違って、結婚が早いのだろう。俺の時の小学校の授業参観なんか同級生の親が五十歳を超えているとか普通だった。


「お父様、ただいま戻りました」


リディアは玉座の前で恭しく膝をつき、静かに頭を下げる。


王は穏やかな眼差しを向けながらも、その威厳に満ちた声で答えた。


「リディア、よく戻ったな。無事で何よりだ」


ふと、王の視線が俺とセリーナへと移る。


「で、そちらの二人は?」


「悠斗とセリーナ。私の冒険仲間よ」


セリーナが一歩前に出て王に札なく挨拶をする。

「イルシュタイン王国で、A級の冒険者をしていますセリーナと申します。で、こちらがS級冒険者の悠斗です」


俺はどうすればいいのかわからず、あたふたしながら、とりあえず挨拶する。


「ゆ、ゆ、ゆ、悠斗で…ふっ……!」


いってぇー!!!豪快に舌噛んだ。これでは面接に来てくれたカルモじゃないか。今ならカルモの気持ちが少し分かる。


『もう何してるの』とでも言いたそうな顔でリディアがこっちを見ているが気にしない。


「ふむ…ユウト か」


王は俺をじっと見つめ、わずかに目を細める。


「……タクヤと似た響きだな。つまり、異界の住人か。良ければお主の話を聞かせてはくれぬか?」


「は、はい。何から話しましょうか…そうですね」


 俺は王様に俺のクラスまとめて召喚されたことと、平穏な異世界生活を送る為に後方支援職のBランクの僧侶あたりが良かったのに、なぜかS級ランクのギャンブラーだと判明したこと、でもそのおかげでギャンブルでめちゃめちゃ勝って、今はお金に困っていないことを話した。


「……というわけで、おかげさまで今はお金に困っていません! 贅沢しなければ一生食べていけると思います」


王は少しリアクションに困った様子で一言だけ絞り出した。

「ふむ……なるほど…随分と異色の召喚者だな…。ところで私は一体何の話を聞いてるのだ…?」


ん、なんか間違ったこと言ったか俺? 空気が微妙だぞ。


「悠斗、その話はどうでもいい側の話だわ」

セリーナがため息をつきながら吐き捨てる。


 セリーナは、イルスフィア王国が異世界から召喚した勇者の力を一人の勇者に継承させているという話と、この世界のバランスを変えるために、その力で魔王を倒そうとしていることをまず話した。


そして、その過去の勇者の力をなぜか悠斗が継承したこと、そのことにイルスフィア王国はまだ気付いていないことを、王に丁寧に話した。


「…このことをまだイルスフィア王国は気づいていません。悠斗のこの力はイルスフィア王国の野望を打ち砕く鍵になるでしょう」


聞くと確かに、俺の話よりセリーナの話の方がこの世界にとっては重要な気もする。


「そうか…イルスフィア王国が…そんな事を企んでいたか。でも、金儲けしかできないお主がなぜ、勇者の力を継承できたのだ?」


おいおい。金儲けしかできないって……誤解だ。誤解は解かなければ!


「俺のスキルにマニーショットというスキルがあって、金貨を敵に投げて敵を倒せるんです」


セリーナは微妙な表情をまたもや俺に向ける。

「無駄使いスキルね。でも悠斗、そっちのスキルじゃないわ重要なのは。…悠斗には二択なら絶対に成功を引くスキルがあるんです。それで、過去の勇者を倒す事ができました」


王はそれを聞き考えを深める。

「なるほど…二択なら絶対に成功を引くスキルか…。勇者の力は、ただの戦闘力ではなく、世界の選択を担う者に宿るものだったのかもしれんな…」


ちょっと待て飛躍しているぞ。重い。重いぞ。世界を背負わせてくれるな俺に!!この六芒星の紋章の解放の仕方も分からないんだぞ!


「まあ…継承したのは確かっぽいんですけど…この力の使い方もよくわからなくて…」


「継承した力の使い方がわからぬということか? それでは宝の持ち腐れではないか。なんで悠斗、其方が継承したのだ!」


知らんわ!俺が聞きたいぞ。


セリーナは考えて王に伝える。


「もう一つ気になる事があるのです。魔物ですが、イルスフィアの周りに多く生息して、エルシア王国に来る時には魔物の数が少なくなっていました。魔物もイルスフィア王国が異界から召喚している可能性はないでしょうか?」


王は顎を手に乗せて一考する。

「確かに、ここ数年でイルスフィア周辺の魔物の発生率が異常に高まっているという報告がある……。もし異界から召喚しているのだとすれば、それは何のためか? 悠斗、其方の世界にはイルスフィア王国で発生するような魔物はいるのか?」


俺の世界に魔物はいないぞ。いるわけがない。

「いや…いませんが…」


「となると、また別の異界から魔物を召喚しているという事か…。イルスフィアめ…何を企んでいるのだ…」


「セリーナ、そして悠斗。お主らの力をこの世界の平和のために貸して欲しい。悠斗は魔法大学に通い、魔法大学研究所でその紋章の力の解放方法を見つけるのだ」


えっ…学校行くの? なんで? 嫌だ。絶対に嫌だ。意味がわからない。イルスフィアといい、この王といいマジで自己中すぎるぞ。


「えっ? 嫌ですけど…。俺は自分の意思で考えて行動するんで」


俺の返答に周りの空気が凍りつく中、リディアが『いい事思いついた』って感じで俺に伝える。

「そ、そうだ! 悠斗、一人で行くのが嫌なら私もセリーナも一緒に通ってあげるわ。それなら文句ないでしょ?」


は? 全然良くない。なんでリディアとセリーナが一緒に通ったら大丈夫だと思ってるんだこいつは。マジでズレてるんだよなリディアの価値観。


お前らが一緒に通うことに俺になんのメリットがあるんだよ? 本当に疑問である。


その様子を見ていた王が少し慌てて口を開く。

「…悠斗、今すぐ決める必要はない。しかし、紋章の力の解明はお主自身のためにもなる。よく考えておくのだ」


なんかこれも強制イベントっぽいんだよな…。


「はあ…少し考えさせてください」

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