ランク分けスタート
広間の静けさを破るように、魔術師が声を張り上げた。
「これより、ランクとジョブを発表する!」
悠斗は最後列で腕を組みながら息をつく。
僧侶の枠は3人……たぶんだけどクラスは30人だから同じジョブは10%くらいに違いない、きっとそうだ。俺の平穏な異世界生活はここで決まる。頼む、絶対に僧侶を引かせてくれ!
「最初の一人、宮下真琴!」
壇上に上がったのはクラスの優等生、宮下。冷静沈着な彼女が水晶に手をかざすと、瞬間的に光が広がる。
「Bランク! ジョブは剣士!」
拍手が広間に響く。宮下は一礼し、壇上を降りていく。悠斗はホッと胸をなでおろした。
よし、剣士なら問題ない。僧侶じゃない、僧侶じゃない……!
ふっ宮下よ! 異世界人生ハードモード引いたな。
「次、篠崎亮!」
問題児の篠崎が壇上に立つと、クラス全体が少しざわついた。あいつの態度はいつも通り気だるげで、やる気の欠片も感じられない。
「Aランク! ジョブは忍者!」
篠崎はニヤリと笑い、壇上を降りる。
「ふっ天職だな」
まあ、篠崎っぽいけど、忍者なんて絶対疲れるだろ。俺なら即パスだ。僧侶だけでいいんだ、僧侶だけで……!
「次、高橋龍之介!」
リーダー格の高橋が壇上に上がると、クラスメイトたちの期待が膨らむ。悠斗は腕を組みながら冷静に見つめていた。
どうせSランクだろうけど、パラディンとか引いちゃったら大変そうだな。責任と期待の地獄コース確定だし。
「Sランク! ジョブはパラディン!」
歓声が広間を満たす。高橋は誇らしげに拳を突き上げ、壇上を降りていく。
「俺がみんなを守ってやるからな!」
クラス中が「頼れるエース!」と褒め称える中、俺は軽く鼻で笑った。
プー(笑)!! お疲れ様。これからが本番だな。俺はそんなプレッシャー背負う気ゼロだけど。
「次、星野結衣!」
ムードメーカーの結衣が壇上に上がり、無邪気に手を振る。その明るさに広間の緊張感が少し緩む中、悠斗はまたしても心の中で祈った。
頼む、僧侶だけはやめてくれ……!
「Aランク! ジョブは学者!」
「やったー!」結衣が明るい声で叫ぶと、クラスメイトたちも拍手を送る。
俺はその様子を眺めながら、内心では思い切り地団駄を踏んでいた。
学者だと!? いやいや、これ最高じゃん!
前線に出なくてもいいし、知識を披露してれば済むなんて、安全で楽な天職だろ。僧侶もいいけど、学者のほうが絶対いい……!くそ、羨ましい……!
「次、鈴村千夏!」
千夏は俺の幼馴染だ。千夏が壇上に上がると、広間に静寂が戻る。その整った顔立ちと落ち着いた態度に、誰もが注目する。
「Sランク! ジョブは賢者!」
歓声が巻き起こる中、千夏は静かに一礼し、壇上を降りた。その時、俺の方をチラッと見て自慢気に目線を送ってきやがった。
その冷静かつ傲慢な態度を見て、悠斗は再び考え込んだ。
千夏は賢者か……まあ一見すると優等生だしな。僧侶もいいけど、賢者はさらに上位っぽいし、戦闘も安全そうだな。でも、Sランクってだけでプレッシャーが重そうだし、やっぱり俺には僧侶が一番だな。
「次、小野寺香織!」
香織が壇上に向かう。その柔らかな微笑みと雰囲気は、僧侶のイメージそのものだ。悠斗はゴクリと息を呑む。
いや、ここで僧侶を取られたら……
「Bランク! ジョブは僧侶!」
場内がまたしても拍手に包まれる。香織は少し恥ずかしそうに頷いて壇上を降りていった。悠斗は顔を覆いたくなる衝動に駆られた。
くそーーーーー! 小野寺め! 俺が狙ってるの、それなんだよ僧侶! なんで先に取られるんだよ!
「次、清水翔!」
クラスのいじめっ子である清水が、堂々とした態度で壇上に向かう。自信満々の表情が広間にいる全員をイラつかせる中、悠斗は腕を組んで冷静に見ていた。
まあ、どうせBランクかCランクだろ。それくらいなら僧侶枠には関係ないし、どうでもいいけど――
「Eランク! ジョブは小悪党!」
水晶が赤黒く輝いた瞬間、広間が静まり返った。その後、クラスメイトたちの失笑が漏れ始める。
「えっ、Eランクってマジであるんだ……」「しかも小悪党って……どんなジョブだよ!」
「小悪党!?」「お似合いじゃん!」
清水は拳を握りしめて顔を真っ赤にしている。その姿を見ながら、俺は心の中で満面の笑みを浮かべた。
(プハァァッ!! 小悪党! すげーウケる! ざまぁみろ。これ以上ない天罰じゃん)
でも、すぐに俺は冷静に思い直した。
待てよ。このまま追放されたら、よくある復讐フラグが立つやつだ。
強くなって帰ってきて、俺まで巻き込まれる未来が見える……少しだけ庇って、俺を復讐リストから外させておこう。
その時、王様が怒声を上げた。
「Eランク!? 小悪党だと?! この国には必要ない! ただちに国外追放とする!」
(あーあ…やっぱり…つーか勝手に呼び出しておいて追放ってこいつら鬼畜だな…)
清水は怒りに震えて王様を睨みつけたが、何も言い返せない様子だ。
俺は勇気を振り絞り、復讐回避ムーブを始める。
「待ってください! 清水だって何かしら役に立つかもしれないですよ……ほら、小悪党って……敵の懐に潜り込んで情報を盗むとか! 実は便利なジョブかも……?」
(いや、自分で言ってて何言ってんだ俺!)
王様は冷たい眼差しでこちらを見て聞く耳を持たない。
「異論は認めない…追放は決定である」
「いや…でも…」
うん、ここでストップだ。これ以上やるとやりすぎだからな。
清水は一瞬、悠斗の方をチラリと見た。その表情には怒りが残っていたが、困惑も混じっているようだった。
よし、これでいい。これで俺は復讐対象リストから外れただろう。面倒は極力回避だ。
清水が追放され、広間の空気が落ち着きを取り戻す中、残り人数はついに3人。悠斗は心の中で僧侶枠の数を再確認する。
僧侶の枠はあと一つ残ってる(たぶん…)。これを引ければ平穏そのものだ。
だけど……待てよ、Aランクナイトなんかが残ってる可能性があるんじゃないか? 前線に立たされるあのナイトとか……それだけは絶対に避けたい!
「次、佐倉悠斗!」
壇上に向かう足が重い。水晶が光り始める中、悠斗は祈るような気持ちで呟いた。
頼む……Bランク僧侶でありますように……!平穏、それだけが俺の願いなんだ……!