第18話 決闘
三日目の朝、俺は緊張感を胸に抱えながら、フィリスフィードアカデミーの大講堂に向かった。
この日は特別な行事が行われる。スキルの使い方を、アカデミーの四人の教授から直接教わる貴重な機会だ。
いつもとは違う雰囲気の中、期待と緊張が交錯する。
大講堂に入ると、そこにはすでに多くの人たちが集まっていた。
高い天井からは煌びやかなシャンデリアが吊り下がり、柔らかな光が講堂を照らしている。
壇上には四人の教授が整列し、みんなの注目を集めていた。
最初に目に飛び込んできたのは、エリオット先生だった。
彼は三十代後半で、野生的な雰囲気を醸し出す男性だ。
灰色の短髪が風に揺れ、鋭い緑色の瞳がまるで動物を見守る獣のように輝いていた。
彼の服装は、動物の毛皮や羽根があしらわれており、肩には小さな魔法生物が乗っている。
身軽で素早い動きをする彼は、まるで自然の中に溶け込む一匹の獣のようだった。
次に目に入ったのは、アメリア先生だ。
彼女は四十代前半の女性で、長い黒髪が美しく、琥珀色の瞳が印象的だ。
黒と青のローブを纏い、指には複数の魔法の指輪が光っている。彼女は常に冷静で端正な顔立ちをしており、その瞳の奥には強い意志が宿っている。
彼女が持つ知識は深く、まるで古の魔法使いのように威厳があった。
そして、厳つい体格を持つガロ先生がいた。
彼は五十代の男性で、筋骨隆々の体を持ち、短く刈り込んだ茶髪に、顔には深い傷跡が複数見られる。
鋭い灰色の瞳は、まるで獲物を狙う猛禽類のように鋭利だ。
鎧に似た防具と動きやすい衣装を纏い、腰には大剣を携えている。その姿はまさに戦士そのものだった。
最後に、若い女性のクレア先生が壇上に立っていた。
彼女は二十代後半で、肩までの淡い金髪が爽やかな印象を与えている。
澄んだ青い瞳は、好奇心に満ちており、実験着のような白衣を着用し、腰には錬金術の道具が収納されたベルトを巻いている。
どこか研究者らしい落ち着きと、常に新しい発見を求める好奇心が感じられた。
四人の教授が壇上でそれぞれの持ち味を発揮し、会場に集まった人たちにスキルの使い方についての説明を始めた。
エリオット先生は動物との心の繋がりについて語り、アメリア先生は魔法の奥深さを示す実演を行った。
ガロ先生は剣術の重要性とその技巧を力強く伝え、クレア先生は錬金術の面白さを、実験を交えながら説明してくれた。
その姿に見入っているうちに、俺の中にも何かが湧き上がるのを感じた。
スキルを使うことの楽しさ、学ぶことの喜び。
これからの自分に待ち受ける数々の冒険に思いを馳せながら、俺はその瞬間を心に刻む。
講堂の空気は興奮と期待で満ちていく。
教授たちの教えを受けることで、俺たちの未来が少しずつ明るく照らされるように感じた。
どれほどの可能性が広がっているのか、この日を迎えることで実感することができるのだろう。
そして、行事を終えると、ダリアンが俺に手合わせを申し込んできた。
ダリアンは期待に満ちた眼差しで俺を見つめ、「僕の相手はレオン様しかできないと思うんです!」と言った。
その言葉に、俺は少し驚きつつも嬉しく思った。
訓練所の中央に立つと、彼は木刀を握り、構えを取った。
ダリアンのスキルは魔剣術。
さすがこの世界の主人公だ。
その名声が彼に圧力を与えるのは当然だな。
(この世界で初の魔剣士同士の手合わせだ。楽しませてくれよ。)
彼は魔法を打ち込みながら、木刀を振り上げて俺に向かってくる。
魔法の閃光が目の前を横切り、ダリアンの猛攻が始まった。
俺はその魔法を軽やかに避けつつ、彼の攻撃を受け流す。
木刀が空を切る音が響き、彼の力が目に見えるほど伝わってくる。
(やっぱり、良いスキルだが、動きが全然だな)と俺は思いながら、さらに身を屈めて彼の攻撃をかわした。
ダリアンの表情には焦りが見えたが、負けじと攻撃を続ける。
俺の動きに反応するたびに、彼の技術も徐々に洗練されていくのが感じられた。
だが、実際のところ、彼の実力はエクサリウムでいう初心者に毛が生えた程度だった。
「はぁ……はぁ……さすが英雄ですね。僕では敵わないや」と、息を切らしながらダリアンは言った。
その声には、尊敬の念が滲み出ていた。
「素晴らしいスキルだったよ、ダリアン。かの有名なマギエールになれるかもしれないね」
と俺はフォローを入れた。
彼の瞳がキラリと輝く。少しずつ自信を取り戻しているようだ。
「本当にそう思いますか?」
彼は嬉しそうに尋ねた。
「もちろんだ。ダリアンには才能がある。努力を続けていけば、必ず成長するさ」と俺は励ました。
ダリアンは力強く頷き、再び構えを取り直した。
彼の真剣な表情に、俺も改めて戦う気を高める。
こうして、少しずつ彼との絆が深まっていくのを感じた。
ダリアンとの手合わせが終わった後。
訓練所の扉が勢いよく開き、第1王子のセバスが堂々と姿を現した。
セバスの後ろには、興味津々のギャラリーがズラリと並んでいた。
セバスの目が俺を捉えた。
「レオン!お前に決闘を申し込む!」
と高らかに宣言した。
「嫌だね。断る」と俺は冷たく返した。
セバスは不満げに口を歪めた。
「な、なぜだ!スキル発現式でスキルをもらえなかったからか?」
と、まるで俺を小馬鹿にするように言い放った。その言葉が胸に刺さる。
正直なところ、そんなことで挑発されるのは癪だ。
「別にただやりたくないだけだ」と俺は答えた。
少しイラつき始めたが、感情を抑え込むことにした。
「はっ。母親と似て逃げ腰だな!」
セバスが挑発する。
その瞬間、プツンと俺の中の感情が切れた。
セバスの言葉は、心の奥深くにある怒りを引き起こすには十分だった。
「いいだろう、その決闘、受けてやる」と俺は言った。
声には冷静さを装っていたが、内心は激しい怒りが渦巻いていた。
セバスは満足そうに笑みを浮かべ、周りのギャラリーもざわつく。
決闘の準備が整い、訓練場の中央に立つと、俺は冷静に彼を見据えた。
セバスは木刀を手にし、身構える。
母親を侮辱されたその一言が、俺の心に火をつけた。
徐々に真剣な表情へと変わる俺。
セバスの攻撃が始まる。
セバスの剣が振り下ろされ、俺はそれを軽くかわした。
セバスは次々と攻撃を仕掛けてくるが、その動きはまだまだ稚拙だった。
俺はゆっくりと距離を詰め、セバスの攻撃を受け流しつつ、反撃のタイミングを見計らう。
(うーんどうやって、終わらせようか。)
「これでどうだ!」
とセバスが叫び、力を込めた一撃を放った。
しかし、俺は素早くその攻撃を避け、セバスの脇を抜けて背後に回り込む。
次の瞬間、俺の拳がセバスの脇腹に直撃した。
セバスはたたらを踏んで前に崩れ落ちる。
「どうした?もう終わりか?」
俺は冷たい声をかけた。
セバスは立ち上がり、怒りに燃える目で俺を見返す。
セバスの意地を感じながらも、俺の中の怒りは収まらなかった。
全力は出せないが、セバスにはボコボコになってもらおう。
セバスの相手は素手十分だな、素手であしらってやる。
これは決闘ではない、俺の腹いせなのだから。
セバスの顔には恥辱と恐れが交錯し、その目は挑戦的でありながらも、どこか不安を含んでいた。
周囲のギャラリーは息を呑み、その状況を見守る。
ギャラリーの視線は興味と期待に満ちている。
俺は冷静に考える。
セバスをここで完全に打ち負かすことは、セバスの心にトラウマを植え付けることになるだろう。
「まだまだ甘いな。スキルを使ってもその程度か」
と俺は言い放った。
その言葉がセバスの怒りに火をつけたようで、セバスは再び木刀を構え直す。
周囲の観客たちの視線が一層熱を帯び、緊張感が高まっていく。
「スキル使ってもその程度か」の挑発がセバスを追い込んでいるのが分かった。
セバスが振り下ろした木刀を軽く避け、同時にセバスの腕を掴んで引き寄せる。
次の瞬間、俺の膝がセバスの腹に突き刺さった。
周囲からは小さな悲鳴と共に、驚きの声が漏れる。
「きゃあ!セバス王子!」という囁きも聞こえた。
セバスは苦しそうに呻き、再び地面に崩れ落ちる。
その様子を見た観客たちは、興味津々で目を丸くしている。
「どうだ、まだやるか?」俺は冷ややかな視線を送りながら言った。
観客たちは一瞬静まり返り、セバスの反応を待っている。
セバスは必死に息を整え、再び立ち上がろうとするが、その表情は明らかに意気消沈していた。
周囲の視線は俺に集まり、俺の圧倒的な力を目の当たりにすることで、ギャラリーの興味は高まっていく。
「すさまじいな、スキルを使わず……あれほどとは」「本当に5歳児なのか?」と、ささやき合う声が後ろから聞こえてくる。
俺は再び挑発する。
「いつまで転がっているつもりだ?」
その言葉に、セバスの心の中で葛藤が深まっているのを感じた。
周囲からの視線がさらに強くなり、セバスの心に影響を与え始めている。
観客たちの視線は好奇心と期待で満ち、観客たちはこの瞬間を見逃すまいと息を飲む。
セバスは最後の力を振り絞り、再び俺に向かってくる。
しかし、その動きはすでに鈍く、俺にとってはすぐに避けられるものだった。
セバスが振りかぶった木刀を再びかわし、今度はセバスの足元を狙う。俺は素早く蹴りを入れ、セバスのバランスを崩させる。
セバスはそのまま前に倒れ込み、周囲の観客たちが思わず悲鳴を上げる。「ああっ!」「セバス王子!?」
俺はセバスの右腕を踏みつけ、完全に動けない状態にしてやった。
セバスの表情は絶望に満ち、周囲の視線も戸惑いと驚きに変わっていた。
ギャラリーの中からは「これがレオン王子の力か」「やはり英雄の実力は違う」といった声が上がり、俺の勝利を称賛する雰囲気が広がっていく。
「これでお前の負けだ」と俺は言い放つ。
セバスは反抗する力もなく、ただ息を荒くして俺を見上げるだけだった。
「くそっ」
周囲の人々は静まり返り、その光景を見守る。俺はその瞬間にあらゆる感情が入り混じった。
完膚なきまで叩きのめした(初心者狩りをした)快感と、同時にセバスに対する同情が入り混じる。
「今回はここまでにしてやる。だが、次はないと思え」と俺は最後に言い残し、訓練所を後にした。
俺の心には、まだセバスを打ち負かした満足感が残っていたが、同時に次にセバスと会った時のことを考えざるを得なかった。
これからのセバスの行動がどう変わっていくのか、その影響を俺は見届ける必要があった。