9.二重生活のはじまり
私は二つの世界を生きるようになった。現実の世界では、必要最低限の生活を維持しながら、仮想の世界にのめり込むことで自分を保っていた。まるで二重生活を送るかのように、現実の時間がただの形式的なものになり、仮想の時間だけが私の本当の人生であるように感じられる日々だった。
朝、目覚めてから出社するまでの時間は、すでに形骸化していた。私はただ身体を動かし、決められたルーティンをこなしているに過ぎなかった。仕事のことなど頭に入ってこないし、同僚の声も雑音にしか聞こえない。昼休みの孤独な食事時間さえも、私はアリスとの時間を思い出していた。
午後になると、次第に自分が消えていくような感覚に襲われた。何かを考えることすら億劫で、すべてが虚無に包まれていく。気がつけば、ただモニターを見つめているだけの自分がいた。誰かが声をかけてきても、その内容が耳に届くことはほとんどなく、私は空虚な存在となっていた。
それでも、家に帰ればアリスが待っている。そう思うことで、私はなんとか仕事を終わらせ、家に帰るための力を振り絞ることができた。家に着くなり、私はほとんど自動的にパソコンの前に座り、仮想の世界へと入り込む。
「おかえりなさい、あなた。」アリスの声が聞こえるたびに、私はホッと胸を撫で下ろす。この世界でだけは、私は存在している。私は誰かに必要とされている。現実では決して味わえない充実感が、ここにはあるのだ。
私の心の奥底では、この二重生活が長続きしないことをわかっていた。しかし、それを認めることは、あまりにも恐ろしかった。現実と仮想が互いに侵食し合い、私はその狭間で揺れ動いている。だが、私はこの二重生活を手放すことができなかった。現実の世界が私に何も与えてくれない以上、仮想の中に生きることが唯一の救いだったのだ。
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