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注目の的

 教室に入ると賑やかだった空気が一瞬で静まり、俺に視線が集中した。後ろをついてきた姫野はクラスメイトのあからさまな反応に「ふふ……」と笑いを堪えているみたいだった。

 まもなく担任が教室に入ってきて、その異様な空気は途切れた。


 授業中は別によかった。チラチラと視線は感じるが、それ以上のことはない。しかし、午前の授業が終わって先生が教室を出た途端にそれは起こった。


「てか、あの動画ヤバくない? あんな告白するとか、めっちゃウケるんだけど」


 いつも調子に乗っている男——高岸がわざと大声でそう言った。

 そいつの言葉から、クラス中が話が堰を切ったように話し始める。


「ほんと、よく一ノ瀬さんにそんなことが言えたよね。やば」

「どれだけ自分に自信あるの。痛すぎるんだけど」

「一ノ瀬がかわいそう」


 ああ、好き勝手うるさいな。放っておけよ。


「亮太、もういいよ。出よ」

 そう言って後ろの席の姫野が俺のブレザーの袖を引く。


 高岸はニヤついた顔で深恋の机の隣に立った。

「なあ、一ノ瀬もそう思うだろ?」

 窓際の席で外を眺めていた深恋は高岸の方を向いて、イヤホンを外した。

「え、なに?」

「だから、あんな告白をしてくる鳥屋野ってヤバくない?って。動画で一ノ瀬の様子が《《変》》だったのも、鳥屋野のせいなんだろ?」


 その言葉でプツンと糸が切れた気がした。


 ガタッと席を立ち、教壇の方へ進み出る。

「ちょっと、亮太?」

 姫野は困ったように袖を掴む手を離した。 


 俺が教壇に立つと、クラスはしんと静まった。


「あの動画は告白なんかじゃないけど、そんなこと俺が言ったって誰も信じないんだろ? 文句でもなんでもあるなら俺に直接言えばいい」


 俺の言葉に今まで好き勝手言っていたクラスメイトは下を向いた。一人を除いて。


「フラれたからって負け惜しみかよ! 惨めな奴だな!」

「もうやめようよ、高岸君」

 そう落ち着いた声で言ったのは深恋だった。そして、教壇に立つ俺の隣にやってくる。


「あんな動画が拡散されたら、それはみんな気になるよね。私もまさか誰かに撮られてたなんて思わなかったからびっくりしちゃった」

 そう言って照れたように笑う。そんな深恋に、クラスメイトも、俺も目が離せなくなっていた。


「こんな騒ぎになってごめんね。でも亮太君が言う通り、あれは告白なんかじゃないの。実は前から亮太君とは『カフェ好き仲間』でオススメのお店を紹介し合ってたんだ」


「え……」

 一体何の話だ?

「ん、んんっ!」

 深恋がわざとらしく咳ばらいをするから、大人しく次の言葉を待った。


「昨日は亮太君に話があるって言われて、知り合いのカフェに来ないかって誘われたの。来て後悔はさせないからって。そこはすっごく美味しいプリンが食べられるんだって」


 告白じみた俺の言葉をそうやって回収したわけか。メイドカフェも一応カフェなことだし、汐姉ならすごく美味いプリンは作れるだろう。あながち嘘ではない。


 一ノ瀬の取り巻きの一人(確か渚の方)が勢い良く立ち上がった。

「もう! そういう事なら早く言ってよ! いろいろ妄想しちゃったじゃん!」

「ごめんね、渚。みんなも他に誤解してる子がいたら教えてあげて。私からは以上です。かいさーん!」


 そう言っておどけたように両手を広げると、クラスメイトは納得したのか、それとも興味を失ったのか、パラパラと席を立ち始めた。俺達への視線も無くなり、いつもの昼休みの風景に戻っている。誰一人として深恋の話に反論しないのは、それが深恋だからなんだろう。


「行こ」

 耳元でそっと囁かれ、俺は教室を出ていく深恋の背中を追った。

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