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文化祭当日

 そして、ついに文化祭当日を迎えた。


「いよいよ本番か」

「はぁ……俺もう緊張してきた」

「お前台詞ないだろ」


 教室の空気は祭りの前のように浮ついている。そんな中で、1人が教卓の前に立った。


「ねえみんな、少し時間いいかな」

「深恋どうしたの?」

「クラスのみんなに、どうしても聞いて欲しいことがあるの」

 そう言って、髪を縛っているリボンを(ほど)いた。


 何もしなくていいからねと念を押されていたから、机に入っていたラノベを取り出してパラパラと眺める。動揺、困惑、失望……教室中で様々な声が上がった。

 深恋はクラスメイトから投げかけられる質問に丁寧に答えた。そのうち、今の深恋の行動を肯定的に捉える意見が多くなっていった。


「ありのままの私を舞台で見せるので、どうか見ていてください」

 その言葉に拍手が湧いて、俺は席を立った。




 もうこれで深恋は大丈夫だろう。あと今日は本番の舞台を客席から観るだけだ。自販機にコーラを買いに行くと、近くを通る男子の話が耳に入った。


「なあなあ! さっき廊下通った時に聞いちゃったんだけど、1組の一ノ瀬ってなんか猫被ってたらしいよ! クラスの前で謝ってたし!」

「何それ、ずっと騙してたってこと?」

「えーショック。俺、一ノ瀬さんのこと結構気に入ってたのに」


 何も知らないくせに勝手なことを。腹の底が熱くなるのが分かる。

 深恋には手を出すなと念を押されていたけど、このくらいは許されるよな? 俺が声を掛けようとしたその時だった。


「勝手なこと言わないでくれる?」

「え……」

 急な人物の登場に男達は目を見合わせた。

「深恋が騙してた? ショックだ? ふん、笑わせるわね。深恋のこと、少しでも理解したいと思うのなら13時に体育館に来なさい。ステージに立つ彼女が教えてくれるわ」

「えっと……茉由ちゃん、だよね? なんかいつもと()()違くない……?」 

 その言葉に皇はふんと笑った。

「女の子には秘密の顔の1つや2つあるものよ。それじゃあ」

 言いたいことだけ言って去っていく皇の後ろ姿を男達はただ茫然を見つめていた。



「皇」

 後ろ姿に声をかけると、皇は驚いた様子で振り返った。

「あっ、久しぶり……」

「さっき男子と話してるところ見たけど、よかったのか? いつも俺達と話してる時の感じは隠してただろ」

「見てたの? うん、もういいの。不本意ながら猫被る意味を失っちゃったのよね」

 そう言ってなぜか少し嬉しそうに笑った。


「ん、どういうこと?」

「ごめん、なんでもない」

「そうだ、深恋の舞台観に行くだろ? 12:30に体育館前でいいか?」

「そうね。晶には連絡しておくわ」

「いや、姫野は舞台袖に入るから、座席で観るのは俺達だけ」

「あっ、そう……」

 皇は不満なのか口を尖らせた。

「もしかして、俺と2人で待ち合わせるのがまずいってことか? それなら他の……」

「べっ、別にいいけどっ! 遅刻したら許さないから!」

 そう言って背を向けると、早足で歩いて行ってしまった。




 約束の場所で待っていると、皇が走ってくるのが見えた。

「ごめん、待った?」

 そう言って申し訳なさそうに眉を下げる。文化祭当日に出番のない大道具は暇すぎて早めに着いてしまっただけで、まだ待ち合わせの5分前だ。

「さっき来たところ。行こうか」

 体育館に入ると、まだ開演の30分以上前だというのに前の方の席はかなり埋まっている。「一ノ瀬深恋が主役をやる」という話題性は大きかったみたいだ。


「どうしてですか!」

 そんな声がしてステージの最前列に目を向けると、女子2人と先生が何やら言い争っている。


「深恋先輩を合法的に撮影できる機会なんて滅多にないんですよ! それ以上に優先されることなんてありえません!」

「一番前の席で三脚なんて立てたら、他のお客さんの妨げになるでしょう。学校側でも記録用のビデオは後方から撮影して……あっ、ちょっとそこのあなた! こんな場所で横断幕を広げないでください!」

「みーちゃんの晴れ舞台だって聞いてきたんだから、これくらいは当然じゃないですか? これでもかなり控えめにしたんですけど」


「ねえ亮太、あそこにいるのって確かリーリャちゃんと莉子ちゃんじゃない?」

「あんまり見るな。知り合いだってバレる」


 しばらく様子を気にしていたが、2人は最終的に観念したのか大人しく最前席に座ったみたいだ。深恋のファンは過激派ばかりで困る。

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