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激レアさん

 教室に飛び込むと、クラス中の視線が体に刺さる。教卓に立つ人物が俺の方へ体を向けた。

「夏休み明け早々遅刻ですか、亮太君」

 タイトな黒スーツに身を包んだ深恋は、眼鏡の向こうから冷たい視線をこっちに投げる。


「ごめん、寝坊して……というかその格好」

「すみません、でしょう? ()()に対してそんな砕けた口の聞き方をするなんて、夏休み中にすっかりボケてしまったようですね」

「え、教師?」

「言い訳は後で聞きますから、早く席に着くように」


 その時、扉の開く音がして後ろを振り向いた。


「あーすいません、遅れましたぁ」

 全くすまなそうじゃない様子で入ってきたのは、金髪にルーズソックスのギャル。だけどその小さな顔にクリっとした丸い瞳は、

「皇、だよな?」

「なぁに、忘れちゃったの? それならアタシのこと、ちゃんと思い出してもらわないと」


 そう言うと俺の方へゆっくり近づいてきて、耳元に顔を寄せた。


「カラダでね」


「は……っ!?」

「2人とも早く席につきなさい」

「はぁい」

 皇は短すぎるスカートを翻して、自分の席へと歩いて行った。


「どういうことだよ……」

 席に着くと、俺は頭を抱えた。深恋が教師で、皇がギャル? 教師とギャル……

「亮太」

 その声に振り向くと、後ろの席にはいつも通りの姫野が座っていた。


「よかった、姫野は普通なんだな!」

「茉由の……」

「ん?」

「茉由の下着の色、ピンクだった」

「姫野ぉっ!?」



「うわぁぁっ!?」

 飛び起きると、フィギュアや漫画が並ぶいつもの部屋の景色があった。

「なんだ、夢か……」

 ほっと胸を撫で下ろす。というか、なんだ今の夢は。深恋と皇はさておき、姫野は……まあいい、忘れよう。


 変な夢を見たせいか二度寝をする気も起きず、ちょっと早いけど家を出ることにした。




 学校へと向かう人の流れに沿って歩く。周りの表情が暗いのは、夏休みが終わって今日からいつもの日常に戻ってしまうからだろう。


「亮太」


 そんな声が後ろからして、ビクッと心臓が跳ねた。あんな夢を見たせいで、振り向くのが無駄に緊張する。

「お、おう姫野! って、え?」

 そこには「王子」としての姿ではなく、学年の三大美少女・キラが立っていた。


「どうして、急にその格好……」

 動揺する俺を見て、姫野は長い黒髪を軽くかき上げる。

「まあちょっとした心変わりだよ」

 その表情が何だかすっきりしていて、いい心境の変化なんだろうと思った。


「そうか。よく似合ってるよ」

「ふふっ、ありがとう」

 その時、なぜかぞわっと悪寒が走った。恐る恐る振り向く。


『キラ様がっ、実在していたなんて……っ!』

『神様仏様キラ様万歳!』

『>?¥~!#’*キラしゃまぁぁぁ……!!』


 涙を流す者、両手を突き上げる者、身体を地面に投げ伏す者……

 そうだ、キラの存在は激レアだったんだ。


『キラ様と話してるあの男、誰だ』

『万死に値する』


 あ、まずい。


「ひ、姫野、俺はひとまず先に行くから……」

「一緒に行こ」

 ぱっと俺の手を取ると、そのまま学校へ駆け出していく。背中に刺さる殺気が濃度を増すのが分かる。ああ、これは本格的にヤバい。


「あははっ!」

 楽しそうに笑う横顔。


 まあ、後のことは分からないけど、そんな顔をするなら今はこのままでもいいかと思った。

最新話までお読みいただきありがとうございます。

最終章になりますが、最後までどうぞお付き合いください。

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