美少女とナンパ
「わぁ、気持ちいいです!」
深恋が楽しそうに波打ち際を跳ねる。確かに、海水の冷たさが熱った身体に心地いい。
「けっこう綺麗なところなのね……ぴぎゃっ!?」
皇が奇妙な声を上げる。見ると顔がびしょ濡れになっていた。
「油断したね?」
したり顔の姫野。そしてその手には水鉄砲。
「アンタねぇ! 顔は濡らさないつもりだったのに!」
「海水も滴るいい女、ってこと」
「嬉しくないわっ!」
その瞬間、姫野は俺たちの方へ狙いを定めた。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
あっという間に俺達3人はびしょ濡れにされてしまった。
「姫野サン、1人だけそれはないんじゃないか? ん?」
「そーですよ! ズルイです!」
「ふふっ、そう言うと思って」
姫野は背中に手を回し、何かを取り出した。
「全員分、用意してあるよ」
それから俺達の仁義なき戦いが始まった。
「はぁはぁ……流石に疲れたわね」
そう言って、皇は濡れた前髪を掻き上げた。
姫野が「水も滴る……」なんて言ってたけど、この美男(?)美女3人が水着で濡れてる姿はなかなかに画力がある。遊んでいる時は夢中で気づかなかったけど、周りの男も女もこっちをチラチラと気にしているみたいだ。
「私、飲み物買ってきますね!」
「ちょっと! 1人じゃ危ないでしょ!」
先に浜へ上がって行った深恋の背中を皇が追いかける。水着の美少女が1人から2人に増えたところで、危ないのは変わんないんだよな……
「俺たちも行こうか」
「そうだね」
「……って、早速絡まれてるんだけど!?」
俺達とちょっと離れた隙を狙ったように、深恋と皇は大学生らしき男2人組に声をかけられていた。
「君ら2人?」
「めっちゃ可愛いね! 一緒に遊ぼうよ」
足を速めて、その浅黒い背中に近づく。
「あの」
俺が声を掛けると男は振り返った。そして、俺の隣を見てぎこちなく笑う。
「ま、まあ彼氏いるよね。じゃ!」
去り際、コソコソ話す声が耳に入った。
「美男美女でヤバかったな」
「え、でもどっちかはモブ顔の連れってこと?」
聞こえてるぞ。
「2人とも大丈夫?」
姫野が声を掛ける。
「助かったわ。結構ですって言ってんのに無視して話進めてくるのよ。アレは都合のいい事しか聞こえない耳が付いてるわ」
「あはは……」
皇の毒舌に、深恋は苦笑いを浮かべた。
「飲み物は俺が買ってくるから、3人はそこの日陰で待っててくれ」
飲み物を買って戻ると、姫野の姿だけなかった。
「あれ、姫野は?」
「お手洗いに行ってます」
「そうか。まあ飲んで待ってようぜ」
そう言って俺はコーラの缶をプシュッと開けた。
しかし、5分、10分、30分と経っても姫野が戻って来ることはなかった。




