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変わりたい(深恋side)

 その動画を見せられた時に息が止まった気がした。


 分かっていた。いくら店長さん達が守ってくれていても、人前に出ている以上、晒される可能性は否定できない。それを分かった上で働いていた。プレジィールでのお仕事は楽しかったし、自分自身も変われている実感があった。


 でもやっぱり私は変われてなんかいなかった。本当の自分を隠しているという秘密がバレてしまいそうになって、すごく怖くなった。それで、亮太君に助けを求めてしまった。


 リスクを分かった上で働いていた。でも、実際にその危機に直面した時の覚悟が私には足りなかった。


 放課後、逃げるように家へ帰ってきて、ベッドに潜り込む。自分のせいだけど、理穂や渚に話を追及されないように逃げ回るのは心が苦しかった。

「明日、学校行きたくないなぁ……」

 その夜はなかなか眠れなかった。




 翌朝、中学生ぶりに熱が出て学校を休むことになった。よくないとは思いながらも少しホッとした。

 ベッドに横になると、熱で朦朧とする頭に昨日の出来事がぐるぐると回る。 

 また亮太君を巻き込んでしまった……私に自分の秘密を打ち明ける勇気がないせいで……苦しくて、悔しい……どうして私は、こんなに弱いの……

 


 目を開けると、枕元の時計は17時を指していた。いつも間にか眠っていたみたいだ。ベッドから出るのも億劫おっくうで薄暗い部屋のままスマホを開くと、チャットに数十件の通知が溜まっていた。普段それほど動いていないクラスラインが活発に動いているなんて珍しい。


『事前投票:一ノ瀬がメイドカフェで働いているかどうか?』


 私の話だ……途端に鼓動がバクバクと速くなる。


『ちょっと! 深恋も見てるのにやめなさいよ!』

『その一ノ瀬が何も話さないからこういうことになってるんだろ?』

『じゃんけん負けて当日行けないんだから、そのくらい楽しませろよ!』

『働いてるに一票』

『俺も一票』


 不安で布団をぎゅっと抱きしめる。それでも画面をスクロールする手は止められない。


『というか、土曜日に鳥屋野が会わせるって言ってるメイドが動画に映ってたメイドがどうかなんて、どうやって判断するんだろうな』

『確かに』

『はっきりした証拠が出せないなら嘘ってことでいいんじゃね?』

『あんだけ自信満々だったからな。証明できなきゃ嘘つきだよ』


 どうしよう、亮太君が嘘つきだなんて言われて……私が、本当のことさえ話せば……

 スマホのキーボードに触れる。

『黙っていてごめんね。動画に映っていたのは私なの』

 震える指先で「送信」を押そうとしたとき、一件の通知がポップアップした。


『大丈夫だから』


 亮太君のその一言で、胸がぎゅっと熱くなった。個別のトークルームを開くと、朝から私の休みを心配する連絡をくれている。そんな優しさにも気づかないくらい、頭がいっぱいになっていた。

 いま私がすべてを打ち明けるのは、ここまでしてくれた亮太君の努力を台無しにすることになるんじゃないの? 私が今やらないといけないのは、もっと別のことだ。


 体に力が湧いてきて、ベッドから起き上がった。そして、部屋のカーテンを開ける。明るい陽の光が私を照らした。


 こんなに守られてばかりでいいの? 迷惑をかけてごめんなさいじゃなくて、一緒に頑張ろうって言える自分になりたい。好きな人の背中を押せる自分になりたい。

「変わりたい……いや、変わるんだ」

 その時、ベッドに置いていたスマホが鳴った。手に取ると、着信は晶さんからだった。


「もしもし晶さん。ああ、はい。具合はだいぶ良くなりました……え?」

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