私が言うことをよく聞いて
姫野が家に来るのはかなり久しぶりな気がする。今日こそはソークロのBlu-rayを見るんだろうし、姫野に途中まで貸していた漫画やラノベの新刊も揃っている。放課後じゃなくてわざわざ休日を選んだってことは、長居するってことなんだろう。そう思ってジュースやお菓子も多めに用意しておいた。
約束の10時になって、玄関のチャイムが鳴る。
「はーい」
ガチャっと扉を開けると、そこには……
「なんで、キラ……?」
白いワンピース姿のキラが立っていた。
フリルのついた白いワンピースとキラの黒髪のコントラストが眩しい……ってそうじゃない。
「なんでここに……? あれ、なんで家の場所が……?」
「亮太、入ってもいい?」
「え? あ、はい……」
流されるまま、キラを部屋へ案内した。
俺の部屋のソファにキラが座っている。一体どういう事なんだ? 家はもしかしたら汐姉か姫野に訊いたのかもしれない。だとしても、わざわざ俺の家までやってくるなんて状況が分からない。
さっき隙を見て姫野にチャットしてみたけど既読もつかない。それも気がかりだけど、この状況を姫野に見られるのは嫌だと思った。
「亮太、どうして床に座っているの?」
「いや、気にしないでくれ……」
二人掛けのソファの隣に座れるわけがないだろ。今の俺には硬くて冷たいフローリングがちょうどいい。
「テスト勉強をしてた時、赤点を一つも取らなかったらご褒美くれるって約束したよね」
「ああ、そうだったな」
用件はそれか。キラには悪いけど、今日は姫野との約束があるから話を聞いたら日を改めてもらおう。
「赤点一つも取らなかったから、お願い聞いてくれる?」
「分かった」
「それじゃあ、今から私が言うことをよく聞いて」
「あ、うん」
聞くだけ?
キラはソファから立ち上がると、俺の前にしゃがみ込んだ。耳にかけていた黒髪が前に垂れる。
「亮太……私は姫野晶だよ」




