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それぞれの譲れないもの

 皇とは塗装のやり方を説明するために少し話して、それからはローラーを手にして黙々と作業をしている。皇が何を考えてるのかもよく分からないし、沈黙はなかなかしんどい。

 向こうで接客の練習をしている声がBGMのように聞こえてくる。


「深恋、次はオムライスにケチャップで絵を描いて、美味しくなる魔法をかけよう」

「は、はい! えっと……お、美味しくなぁれ、も、も……萌え萌え、ぎゅん!」

 ビチャ

「ああ!? キラさんのお顔にケチャップが! すみませんすみません!」

「大丈夫。続けて」


 本当に大丈夫か?


「亮太、さっきはありがとう」

 突然そう言われて、隣を振り向いた。

「え、なにが?」

「何がってメイド服のことよ。馬鹿なの?」

 そう言っていぶかしげに俺を見る。感謝されてるはずなのに当たりが強い。


「ああ、そのことか。気に入ったんならよかったよ」

「案外メイド服に詳しいのね……もしかして、ここで働くのは誰かを狙っているの!?」


 そう言って俺から慌てて距離を取り、自分の肩を抱く。プロポーズだとか誤解してたこともそうだけど、勝手な妄想が酷い。


「私はやめてよね! あんたは運命の人じゃないから」

「こっちも願い下げだ」

「それはそれでムカつくんだけど!?」

 何なんだよ。


 狙われてないと分かったからか、皇はまた俺の隣で作業を始めた。


「女子って運命とか赤い糸とか好きだよな」

「他の人と一緒にしないで。私の言う『運命』はそんな安っぽくないんだから」

 そう言ってローラーを置くと、胸の前で両手を握った。


「運命とは、自らの意思を超えた導き。魂の繋がり。前世の契り……」

「最後の違くないか?」

「とにかく! 誰しも運命の人がいるって、昔お母さんが教えてくれたの! その運命の人に認めてもらうためには、魅力的で可愛くならないといけないの!」

「はぁ……」


 俺の反応が不満だったのか、皇は再びローラーを手にして塗装を始めた。


「いいわよ別に。理解してほしいなんて期待してないし」

「そうだな。俺は理解できない」

「はいはい、分かったから……」

「でも否定するつもりはないよ。そういう『譲れない何か』を持っている人の方が強いと思うから」


 他人の大切な思いを否定する人間にはなりたくない。それが俺にとっての譲れないものだ。

 過去に他人から受けた傷は、俺に友達ができないきっかけとなった出来事でもある。その思いは人生の道しるべとして、俺の真ん中に居座っている。それがあるからこそ自分を迷わないとさえ思う。


 譲れない思いに共感できなくても、自分を持っている奴は嫌いじゃない。


「……あっそ」

 皇は小さな声で言った。

 言葉は相変わらず素っ気ないけど、さっきまでとは違う感じがした。


 その時、コツコツと近づいてくる足音に気づいて顔を上げた。そこにはさっきまで向こうで深恋の指導をしていたキラが立っていた。


「2人とも、ちょっと来てくれない?」

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