あるメイドカフェの営業初日
俺達は初日の営業を終え、打ち上げのテーブルにはメイドカフェの定番であるオムライスが並ぶ。その場にいるのは俺と店長の汐姉と、そして同じ高校の三大美少女である、「一ノ瀬深恋」と「キラ」と「皇茉由」。
俺は隣に座る深恋に顔を向けて声を潜めた。
「仕事は嫌じゃないか」
「はい! お客さんはみんな優しくて、お話しするのは楽しいです。最初は緊張しすぎて、キラさんや茉由さんにたくさん助けてもらったんですけどね。えへへ……」
そう言って恥ずかしそうに髪を指でいじった。
「嫌な思いをしてないならよかったよ」
「それもこれも一緒に働いている亮太君や皆さんが素敵だからです。ずっとこのみんなで働けたら楽しいだろうなって思っちゃいました」
そう言って無防備な笑顔を見せる。
その時、向かいの会話が不本意ながら耳に入った。
「はーい♡ これからこのオムライスにお絵かきしたいと思うんですけど、お嬢様は何がいいですか? うさぎさんでもくまさんでも可愛く描きますよ♡」
「うさぎさんがいいな」
「うさぎさんですね♡ ふんふふんふふふーん……はい、可愛く描けました♡ 最後にこの可愛いオムライスに美味しくなる魔法をかけちゃいます♡ まゆの愛情いっぱいで美味しくなぁれ、萌え萌えきゅーん♡」
「1万点!」
「すいません」
深恋は言った。
「亮太君は事情があって働いているみたいなのに、勝手なことを言ってしまいました。今こうして一緒に働けているので、それで充分です」
そう言って寂しそうに笑う。罪悪感でグッと胸がつかえた。
「深恋に何したの」
その声に顔を上げると、キラが立っていた。そして深恋の後ろに立って首元に手を回す。
「深恋は茉由と違って繊細なんだから」
「今よくない事言われなかった!?」
向こうに立っていた皇が反応した。そしてこっちにやってくる。
「私は図太いって言いたいの?」
「茉由の肝が据わっていて逞しいところ、私は好き」
「逞しいなんて全然可愛くないんだけど!?」
言い合うキラと茉由の間で、深恋はあわあわと交互に2人を見つめていた。仲がいいんだよな?
まさか学年の三大美少女とメイドカフェで働くことになるなんて考えもしなかった。しかも、クラスメイトに言えない「秘密」まで共有することになるなんて。
話は数日前にさかのぼる。