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第2話 覚醒して竜を退治した話

「ぱんぱかぱーん♪《スキル》覚醒おめでとうございますぅ~♪ 」



 何が起こったのだろうか。俺は確かドラゴンと戦い、とも言えない捨て身の特攻を行い。ドラゴンが隠していた剣に手を伸ばした、筈だ。

 何故あの場面で剣に手をの伸ばしたのかはわからない。呼ばれた気がした、という他ない。


 剣に手が届いたのかすらも定かではない記憶が途切れた時、俺は真っ白で何も空間に立ち。

 目の前には、眩く輝かんばかりの黄金の長髪を持つ美女が立っていた。



「……………何がどうなってるんだ、こりゃ」


「はい♪ですから、おめでとうございます♪ロイス様は《スキル》を修得なさいました♪いえーい♪」


「《スキル》?………俺に?」



 《スキル》……この世界である程度の年齢を迎えると目覚める恩恵、恩寵、天恵。

 様々な言い方はあるが、自分だけの能力とも言うべき力。

 個人差は様々で、超人とも言うべき異能スキルもあれば、少し便利な技能であったり、恐らく何の役にも立たないものもある。

 そして俺はこのスキルが目覚めるはずの年齢を超えても未だにそれが目覚めることは無かった。

 どうやらそれが今、目覚めたらしいが……



「待ってくれ、スキルの覚醒でこんな光景を見るなんて聞いたこともないし、今俺はドラゴンと戦ってるはずでこんな話をしてる暇は……」


「それはご安心ください。ここはいわゆる精神世界であり、体感時間も5000倍に圧縮しておりますので現実での時間は全くすぎておりませんよ」


「ご、ごせ……?」



 時間圧縮など、そもそも時間魔法など賢者の称号を得る大魔導士の中でも最高クラスの天才ですら使い手は滅多に表れない伝説級の大魔法だ。

 そんなものがなぜ俺の精神世界で発動しているのか全くわからない。



「そこは私、女神ですので」


「ああ、そうか。やはり俺は死んだんだな……」


「違いますよぉ~」


「じゃあ、何なんだよ!?説明してくれ!何がどうなってるんだ!?」


「そうですねぇ~……私も本当は手取り足取り腕取り腰取り説明してさしあげたいのですがぁ~」


 自称女神が頬に手を当ててくねり出した。美人なのでかわいいと言えばかわいいが、状況が状況なのでちょっと不審である。

 直後、スゥっと佇まいを直し、貴婦人もかくやという気品を感じさせる表情に戻る。

 この姿を見ると女神であると信じられてしまうほど神々しい。



「詳しくは貴方様の《スキル》が教えてくれるでしょう。此度はただ、そう。貴方様への祝福に女神が来たものと御記憶ください」


「だから、そのスキルって………!?」



 詳しい事を聞こうとするが、彼女の真剣な瞳がこちらを見ると何も言えない。

 それほどにその瞳は美しく、神々しい。

 女神の顔がゆっくりと近づいてくる。



「え、ちょ、なにっ!?」


 ゆっくりと互いの顔が近づき、やがて唇同士が触れあった。

 刹那、視界が暗転した。



「………………どうか、記憶の片隅にでも私の名が仕舞われておりますように」




「英郎さん」






***









―――――――――《スキル》を習得しました。


転生極技レトログレード・アクセス

転生前の生前に取得した経験・技術を現世において引き出す《スキル》。

この《スキル》の発動条件として前世において(ゆかり)を持つ装備品を身に付ける必要がある。

本来は消失する前世記憶を不完全ながら思い出すこともできる。





―――――――――「光翼剣ルクス・アラ・グラディウス」を入手しました。


光翼剣ルクス・アラ・グラディウス

 伝説に語られる勇者が使用した聖剣。かつて魔王レイヴンを倒し、邪神竜を滅ぼした伝説の武器。

 使用者の魔力を光の刃に変換する。その威力は使用者の魔力量と質次第である。

 伝説級古代遺物。この装備は契約者である勇者以外に装備はできない。

 『ロイス・レーベン:装備可能』





 見覚えのあるウインドウが視界に映る。これは勇者にだけ見えるというシステムウインドウだ。

 覚醒した《スキル》と「装備」の情報が視界に文字情報として表示され、直接読まずとも情報が脳に叩き込まれる。


 懐かしい。これは最初(・・)に異世界転生した時に使った装備だ。

 記憶が流れ込んでくる。力がみなぎり、意識が冴える。

 今なら戦い方を思い出せる(・・・・・・)


 視界はダンジョンに戻り、ドラゴンの頭上には巨竜いる。

 ロイスの手には装飾はシンプルなれど美しいという言葉以外で形容できない宝剣が握られている。

 始めて握ったはずのその剣はとても手に馴染み、今すべきことを思い出させてくれる。




「”聖剣流”――――――――――《竜殺しの剣(ドラゴンブレイカー)》ッ!!!!!!!!!」




「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!???????」




 光と共に、巨竜が吹き飛んだ。


 金色に輝く”聖剣”はロイスの持つ無尽蔵の魔力を吸って輝きを増し、輝きは光刃となる。

 そして光刃は柱のように巨大化しダンジョンの天井を貫き、魔力の奔流はドラゴンを飲み込んだ。

 やがて魔力の奔流が消失し、ダンジョンを貫いた光の柱の痕跡は、確かにさきほどまで天井があった場所に青空が見えている。

 赤い真竜は既に消失していた。



「はぁ…………はぁ…………くそ、久しぶりに大技使ったから、まだ体が本調子じゃないな……」



 【光翼剣ルクス・アラ・グラディウス】、まさかこんな近くに隠されたとは…………


 そうだ、俺はこの剣を手に触れた時に《スキル》に覚醒した。

 【転生極技レトログレード・アクセス】、前世で使用した装備を身に付けることで、前世で身に付けた能力を再び取得する《スキル》。


 俺は、かつて転生者だった。地球と呼ばれる小世界の日本という平和な国のただの高校生。

 事故で死んだ俺は女神に勇者として選ばれ、異世界に勇者として転生した。

 この剣はその時に授かったチート特典というやつだ。この剣があったから俺はあの人生で勇者になれた。


 魔王を倒し、邪神竜を倒し、仲間の女騎士と結ばれて自分の国を作り、めでたしめでたしの人生を生きて大往生を迎え……



ルチアス(・・・・)め、とんでもない《スキル》を押し付けやがって……この剣もわざわざ俺が手に入るように仕組んだな」



 思い出した、あの女神のことも。

 最初に勇者として転生させる魂の選定に間違えて俺を選んだうっかり神だ。

 間違えとは言え、俺は既に勇者として指名されてしまい代えが効かない状況で、埋め合わせにチート聖剣を与えられた。


 そこまではよかったが、問題はアイツは、俺が転生した世界での生涯を終えると、またしても別の世界の危機に勇者として指名してくるようになった。

 それこそ数えきれないほどの転生を繰り返し、世界を救った。前世の記憶は消えるが、経験は魂に蓄積される。

 そんなことを数えきれないほど繰り返せば魂の方がその事実を理解するというものだ。



「まあ、思い出せるのは最初の転生だけか……なるほど、この剣を使ったのも最初だけだもんな」



 具体的な記憶は思い出せないが、この聖剣は次の転生に持ち込めなかったような気がする。

 だからこそ、俺の《スキル》では聖剣を手にした時に思い出せる経験と記憶は、その世界での記憶だけなのだろう。



「って言っても、この世界にあるのか、他の装備?……いや、ありそうだな……ルチアスなら古代遺物(アーティファクト)扱いでこの世界にばらまいてそうだ……」



 あの女神は何故か俺をやたら気に入って何かと押し付けつつも便宜を図ってくる。やりすぎなほどに。

 とは言え、今回はそれで助かったので文句を言うつもりはないのだが、それにしても……



「……イスっ…………ロイス………………ロイスぅううううううううっ!!!!!」


「うわああっ!?なんだよメリッサ!?ビックリするだろ!?」


「ビックリしたのはこっちなんだけど!?なんかドラゴンやっつけたし!どういうこと!?」



 ああ、そうだ。俺はメリッサの目の前で伝説上の存在である真竜をぶっ倒してしまったのか……



「なんか剣からビームでたし!」


「出たなあ、ビーム……」


「あれ魔法じゃないよね!?」


「魔法、じゃないなあ…………」



 俺の魔力を使ってるから原理として根っこはそうは違わないが、この世界の魔法とは異なる技ではある。

 あるのだが、説明が難しいし、というか面倒くさい。メリッサに理解できるように説明できる自信もない。

 なので……



「まあ、その辺の話は後回してさ……二人を安全なとこまで運ばないか?」



 気絶しているアルベルトさんとゲオルグさんを指さして苦笑いをした。

 さて、なんて説明したものか……





***




 イニテウム遺跡の上空、雲よりも更に高い場所。

 ボロボロになった赤い竜は傷ついた翼を必死に羽ばたかせ、険しい瞳で地上を見下ろす。

 見下しているのか、見下ろしているのか、どちらにせよ興味なさそうに人間を見ていた時とは異なる真剣な目だ。



「よもや、宝剣を奪われるとは………」



 あれは半年ほど前だったか。竜の本能が稲妻に撃たれたように衝撃が走った。

 竜が財宝を集め、我が物とし、自らの巣で守護するのは本能に等しい。

 理由もわからず、引き寄せられるように人間たちの街がある方向に飛翔し、迷うことなく遺跡に飛び込んだ。

 ドラゴンには人間が主に使う精霊魔法と呼ばれる系統とは異なる魔法を使う。

 瞬間移動を駆使して人に気づかれず、壁をすり抜けて真っすぐに隠し部屋に入り込んだ。


 そこで見た剣は宝物に五月蠅いドラゴンの眼鏡に適った。

 装飾は最低限なれど、白銀の如く輝く刀身。豪奢でこそないが精密な細工が施されたグリップと金色のガード。

 どこをとっても宝と呼ぶことに申し分なき美剣。

 なにより、その剣が纏った古代遺物としての風格は間違いなく伝説級の物品。


 ゆえに、真竜はこの剣を自らの財宝と定め、「正しい所有者」が現れるまで守護することを決めた。



「何百年でも待つつもりが、よもや瞬きするが如き時間で奪われただと?余が?」



 誇り高き真竜、伝説に謳われる超越生命、高次の命を持つ真竜が、英雄ですらないただの人間に財宝を奪われた。



「あり得ぬ………あってはならぬことだ。だとすれば、余は確かめねばならぬ」



 それはあってはならぬ過ちなのか。それとも……」


 巨大な竜が光に包まれる。

 次の瞬間、巨竜は蒼穹から消失した。



「我は真竜レド・ノビリス・アレス・レギナ…………赤き真竜レドの姫なるぞ」






明日も投稿します。

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