第28話 酒場で昔の仲間とワイワイやる話
「それで?なーんで王国第一王女と婚約して伯爵になってるのかなぁ?やりたいことがあって冒険者になるって村を飛び出したのはなんだったかなあ?ねえロイスぅ?」
「うん、まあ。近い、顔が近いよメリッサ。落ち着いて、顔が近い」
エンドヴィル領主である王国貴族ロイス・フォン・レーベン伯爵。
フォンが増えたが俺の名だ。つまりまあ偉いのだ。権威を振り回すのは良くないが客観的事実として。
そんな俺は今、冒険者ギルドの酒場で正座をしている。
おかしい。領主は冒険者より偉いはずだ。
「なあ、メリッサ……俺、伯爵なんだぜ……?」
「ロイスはロイスでしょ?私の幼馴染」
「……はい」
駄目だ。メリッサには本能的に逆らえない。
誰だって子供の頃から付き合いのある気の強い女友達には頭が上がるものではない。誰だってそう。
だがこのままでは話が進まないまま俺が正座を続けなければならない。
「おかしいでしょ。王女と婚約とか!ロイスが結婚なんて私、聞いてないよ!?」
「失礼、少々よろしいでしょうか?」
「なぁに?」
俺を哀れと思ったのか、領主が正座をさせられてるのは体面が悪いと思ったのかアイーダが口を挟む。
さすがにメリッサの剣幕に押されてしまい何も言えない俺としてはアイーダに任せるしかない。
「私は王国第一王女アルーシャ姫の従者兼天虹騎士団長秘書兼領主様の世話係のアイーダと申します」
「わぁ、属性盛りすぎ……」
「やることは世話係ですので……ここからは私が説明させて頂きます」
「えっ……?いや私はロイスとお話を……」
「まあ、聞いてくださいまし」
***
「そっかあ……ロイスも苦労したんだねえ……」
「ええ、今や立派に英雄として貴族として領主としてそれはもう大変なご活躍を」
すげえ。
アイーダが口を挟んで数分、その間にメリッサはコロコロと表情を変え、時に驚き、時に怒り、終いには涙をハンカチで拭いつつ従者の言葉に耳を傾け最後には納得してしまっていた。
一体どんな説得が繰り広げられたのか俺には想像もつかない。
途中で、「妾」とか「一夫多妻」とか「貴族の務め」とか不穏な単語が聞こえたような気がしたが黙っていることにする。
俺は何も聞こえなかった。
「メリッサ様も納得いただけましたか?」
「いただけたー」
俺は思う。魔族よりドラゴンより女は怖い。
「色男は大変だねえ……」
ぐったりしている俺をニヤニヤしながらアリスが茶化す。
お前、ギルド長が昼から酒飲んでるんじゃないよ。
「やめろよアリス……それよりさ。例の件、頼めるか?」
「例の情報集めでしょ?手配はしておくけど、こんな辺境じゃ大した情報は見込めないよ?」
「それでも冒険者ギルドの情報網はあてになるからさ。頼むよ」
「例の件?情報?なんのこと?」
俺とアリスの会話に、いつの間にかアイーダとの話を終えたメリッサが割り込んでくる。
こいつは斥候だけあって耳がいいし周囲をよく観察してる。
「ああ、別に内緒にしてるわけじゃないが……そうだな。メリッサもそれらしい噂を聞いたら教えて欲しい」
「いいよ。それで?どんな話?」
「目立つ冒険者、それこそ俺くらいには滅茶苦茶に功績上げまくってるようなやつの話を聞いたら教えてくれ」
「ロイスくらい?……そんな人いなくない?」
「逆に言えば、いたら目立つだろ?そういうやつがいたら教えてくれって話」
「いいけど、なんで?」
答えは簡単だ。
そんなやつがいたら間違いなくソイツはこの世界の勇者だからだ。
俺は勇者としての前世と力こそ持つが、現世において勇者ではない。
だが、名前持ちの魔族が発生するほどにこの世界では瘴気が濃くなっている。
それはつまり、この世界には魔王誕生の予兆が既に現れているということだ。
だとしたら、いるはずだ。
この世界の勇者としての使命を与えられた人間が。
単純な強さなら、俺は新たな勇者より強い可能性はある。それほどの《スキル》は盛られている。
だが、魔王退治に最も必要なのは「運命」だ。
この世界の勇者ではない俺に、それが足りているかは分からない。
だから探すことにした。
この世界を魔王から救える、この世界の勇者を。
先輩風を吹かすわけじゃないが、それが元勇者として俺のやるべきことだと思った。
「……ま、理由はいつか話すよ。とにかく、今は頼む」
「ふぅん、ロイスがそう言うなら良いよ」
なんだかんだでメリッサはいつも俺に協力してくれる。
だから頭が上がらないのだが、頼りになることは事実。
「がっはっは!心配すんなロイス!もうメリッサも半人前じゃねえんだ。ドンと任せておけって」
いつの間にかギデさんとアリスと酒を飲んでいたアルベルトさんが豪快に笑う。
「いやあ、そうは言ってもあれから数か月しか経ってないだろ……?」
「むっ、私もう金等級なんだけど!?」
「…………はぁっ!?」
金等級ってお前……それは流石に盛りすぎでは?
いきなり虹になった俺が言うのもなんだが。
数か月前まで鉄等級だったメリッサが……金?銀でも速すぎるくらいだが?
冒険者の等級は、新人が銅から始まり、鉄でやっと一人前とされ、銀で優秀。金は一流だ。
虹は該当者が少なすぎて実質存在しない扱いなので金が冒険者の到達点とされる。
「本当だよロイス。今や”草原の狼”の稼ぎ頭はメリッサだ」
「マジか……ジョージさんがそう言うならマジだな」
「なんで本人の言うことよりジョージさんを信用するかな!?」
「俺と同期の初心者が数か月で金とかありえないからだよ!」
「ロイスがそれ言う!?」
「それはそうなんだけどっ!」
確かに俺が銅の頃に既に鉄に昇級していたり、俺を差し置いて他のパーティから誘いが来るほどの成長は早かったが。
それにしても俺の幼馴染、実はすごすぎでは……?
「ロイスを追っかけたかったら修行しろっつったら凄い勢いで成長してなあ……まあ、だからここまで来たんだが」
「げに恐ろしきは乙女心ということですな……」
酒を飲みながらアルベルトさんとギデさんが何かを理解したようにうんうんと頷いている。
乙女心、怖い。
乙女心にビビっているとアイーダが小声で耳打ちしてきた。
「……良いのですか?勇者捜索のことは説明なさらないで」
「……ああ、いいよ。勇者の事や俺の前世の話は俺とアルーシャとアイーダの秘密ってことで」
「……了解しました」
説明が難しいのもあるが、勇者の事を話すなら、魔王の誕生が近いことも話すことになる。
名前持ちとは言え、ただの魔族ですら災厄になりうるのに、魔王の存在は世界の存亡に関わる。
誰にでも話せることではない。
だからアルーシャとアイーダにだけは俺は俺の《スキル》とそれに纏わる前世の話はしたのだ。
「……まったく、どこにいるやら。この世界の勇者さまは」
***
「……っくしゅん」
「なんだお嬢ちゃん、風邪かい?」
「ううん、なんでもない!それより、はいこれ!」
「おう、ジャイアントボアの毛皮の納品確かに受け付けたぜ。これ報酬な」
「やっりぃ!」
冒険者の街イニテウム、かつてロイスたち”草原の狼”が活動していた街。
今でこそ周囲の探索は頭打ちとなり、腕の立つ冒険者は仕事や冒険を求めて他所で移るものが多い。
それでも「冒険者の街」と称されるほどにダンジョンや遺跡が多く発見された街の活気は健在だ。
若い冒険者は今でもこの街で腕を磨き、成り上がりを求める。
そんなイニテウムに最近、若い女が現れた。
女は腕は立ったが、それ以上に変わっていた。
名前が変わっている。少なくともエルミリオ王国では聞きなれない響きの名前であった。
服装が変わっている。少なくともエルミリオ王国では見たことがない服装であった。
言動が変わっている。少なくともエルミリオ王国では聞いたことのない言葉を多用する。
にも関わらず言語は普通に通じるし、接して見れば人当たりは柔らかい。
何より可愛らしい容姿と溌剌とした態度は人を惹きつける。
そして冒険者としても腕が立った。
唐突に表れた変わり者は瞬く間にイニテウムに馴染んでいった。
「はぁー、やっぱり楽しいなあ異世界は。これぞ冒険者って感じ」
「イセカイ?……まーたよくわからんこと言ってるなコイツは」
「ぶー……別に変なこと言ってないもーん」
「はいはい、ほらよ。次の依頼だ」
ギルドの受付を務める男が彼女に依頼書を渡す。
女は依頼書を受け取ると内容を確認した。
「うーん、もっとこうドラゴン退治とかの派手な依頼ないの?」
「アホか、ドラゴンとか早々出ねーよ。伝説だぞ?」
「そっかー、残念」
「まあ、実は数か月前に出たけどな……確かロイスってやつが倒した」
「へぇー、ロイスさん」
「そいつは今や英雄で領主様だとよ。そんくらい凄いんだドラゴン退治ってのは」
「だからだよ!それくらい大変じゃないと!」
王国では珍しい、黒髪のショートカットを振り乱しながら胸を張る。
「僕は異世界から来た勇者だからね!」
前世において地球という小世界の記憶を持つロイスなら、彼女の服装をこう呼んだだろう。
セーラー服、と。
遅ればせながらPV6000を達成しました。本当にありがとうございます。
総合評価も徐々にではありますが伸びてきてくれて本当に嬉しく思います。
今後も頑張っていきますので面白いと思ったら感想・いいね・評価点をよろしくお願いします。




