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第15話 聖剣の勇者がテンションの高い竜を退治する話

戦闘シーンは難しいですね……

 かつてイニテウム遺跡で遭遇した俺とドラゴンの戦いは俺が勝利した。

 というのは厳密な話ではない。

 あの時のドラゴンはそもそも戦いという舞台にすら上がっていなかったからだ。


 あの時のドラゴンの意識など、所詮は蚊が飛んでいたから振り払っただけに過ぎない。

 あまりに蚊がしつこいから、そろそろ本気で叩き落とそうかと考えたところに、俺の《スキル》が覚醒した。


 相手からしたら事故もいいところだ。

 虫だと思った相手が急に馬車で突っ込んできたようなものだ。


 つまりは、あの時と今は違う。



「さあ、こい英雄よ!塵芥の命なれど命は大事であろう?余を倒さねば命が散るぞ!」



 竜の翼、牙、角、そして尻尾。

 人型でありながら明らかに人ならざる外見的特徴。

 それは彼女が本気で戦う意志を示した証に他ならない。



「いざ戦おう!真竜と英雄の戦い、ここに開幕せり!」



 今、俺と真竜は初めて正面から互いの全力を持って戦わなければならない。





 さて、どうしたものか。確かに彼女の望む通りに全力を出すなら、あの時ほど一方的ではなくても勝利はできるだろう。

 だがその全力を出せない。

 ここは武闘大会の場であり、武器を持つことはルール上できない。

 つまり本気を出すこと自体ができない。


 客席からは悲鳴が上がっている。

 当然だ、人間離れした動きを見せていた相手が人外の存在、ドラゴンであることが観客にも気づかれたのだから。

 客席はまさに阿鼻叫喚、我先にと逃げ出すものもいれば、竜気に()てられ気絶するものもいる。

 客席にいるはずのユウは無事だろうか?ちゃんと退避できてればいいが。



「さあ、英雄!」


「うるさい!言われなくても…………ッ!!!」



 渾身の速度で踏み込み、渾身の膂力で殴りつける。

 アリスでさえ直撃すればKOは免れないだろう俺のステータスによる渾身の一撃。



「…………この程度か?だとしたら、少々……いや、かなりガッカリであるな?」


「………それはそうだろうけどっ!」



 やはり、通じない。



「やはり、あの時のように塵芥の命が天秤に乗らねば本気を出せぬか?ならば仕方ない……」



 レナが急激に息を吸い込む。

 まずい、これはまずい。

 あの時(・・・)は不発だった竜の息吹(ドラゴンブレス)が発射されようとしている。

 あの時に感じた死の予感はそのまま。


 だが、そのブレスは俺ではなく客席に向けて放たれた。




 ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ




 コロシアムの客席が吹き飛ぶ。

 恐らくは地球で言うところの東京ドームくらいだろうか。

 その客席の1/3ほどが消し飛んだ。



 幸いなことに、その位置の観客は退避が完了していたことだ。

 全ての観客が退避したわけではないが、たまたまレナがブレスを吐いた場所には観客がいなかったようだ。

 レナの配慮か、あるいは……



「次はないぞ、英雄よ?」



 やはり脅しか……

 だが言葉通り、次は被害者出すだろう。その獰猛な表情に嘘は感じられない。



「ああ、わかったよ……こっちももう…………我慢の限界だッッッッ!」



 掌を空に向けて伸ばす。


 一つだけ感謝しよう。今の俺ではレナのは絶対に勝てない。

 それどころか、既に手札を使い切った俺には準決勝、決勝と戦い抜ける自信はなかった。


 だが



「観客が消えた!」



 客席の1/3を消し飛ばすブレスについに人が消えた。

 あの威力を見た後では警備兵すら現れない。

 恐らくは今頃騎士団に通報でもしているころだ。



「試合じゃないなら、思いっきり戦える――――こい!光翼剣ルクスッ!!!」



 最初の転生における愛剣、女神から賜ったチート、俺を覚醒させた運命の武器。



「いくぞルクス!あのドラ娘にお仕置きしてやる!」


『おお、主ちょっと昔っぽい口調になってる?』



 戦意MAXの真竜とのガチンコをやるのだから、こっちも手加減はできない。

 ルクスから得られる全ての経験を引き出してでも勝たなければ俺の命も、王都の無事も無い。



「おお!これよこれ!そうとも!これがあの時、余を倒した英雄の覇気よ!」


「これ以上、お前に暴れられたら冗談抜きで死者が出るからな!」



 不意を突いて必殺をぶっぱしたあの時とは違う。

 正面からお互いに本気の殺し合いをするために……



「”聖剣流”―――――【聖光斬(フォトン・スラッシュ)】ッ!!!」



 剣を振りぬき光の刃を飛ばす。

 出力と範囲こそ絞っているが飛翔する光の斬撃は真っすぐにレナに向かって飛ぶ。



「甘いわァッッッ!!!」



 竜爪で難なく刃を弾き飛ばしたレナは、再び疾風となって俺を貫かんと飛翔する。



「そうくると思ったよ!」



 光の刃をぶっぱするばかりが聖剣流の剣術ではない。

 この武術の極意は体内の魔力を制御すること。

 聖剣は魔力を撃ちだすための触媒であり、魔導士ではない俺が魔力を外に向けて放つため銃口だ。

 言い換えれば、聖剣を通して魔力を放出する以外にも魔力には使い道がある。



「【魔力転換身体能力向上(エナジー・ブースト)】ッ!!!」



 魔力を体内で循環させることで、バフ系の魔法と同じ効果を自分の体内で発動できる。

 あくまで魔力は循環するだけなので、これによる魔力消費は無い。

 光の斬撃を飛ばすのは、あくまで聖剣の機能。こちらこそが真の聖剣流の極意だ。


 強化(バフ)によってあらゆる身体能力が向上、元のステータスでは見切れなかった竜の進撃をその目に捉える。



「見えてるぞぉおおおおおおおおおっ!!!」



 強化された視力、反射神経、肉体の精密動作、全てがフル稼働。

 一度は振り抜いた聖剣を跳ね上げるように切り上げる。



 ガキンッ



 重金属同士が激突する音が響く。

 聖剣の刃と、竜の爪がぶつかり、鍔ぜり合う。

 本来ならぶつかり合った時点で剣はともかく俺自身は粉みじんになっているはずだ。

 だが強靭さを増幅させた俺と竜のつばぜり合いは拮抗する。



「ふははは!これよこれ!これがしたくで人の形を取ったのだ!よいぞ、よいよい!さすが英雄よ!」


「うるせえ!俺はロイスだ……ロイス・レーベンだッ!!!」


「そうか!覚えたぞロイス!強き人にして英雄たる者よ!フハハハ、人の子の名を覚えるのなぞ初めてよな!」


「だから、うるせえ!!!!!!」



 腕力の増幅ををさらに向上させる。剣術などと綺麗な形ではないが、魔力循環は立派な聖剣流の極意だ。

 強引に向上させた腕力で、人の姿のまま竜の質量を持つ怪物を跳ね上げる。



「なんとぉっ!?よもやこれほどっ!?…………ぬううううっ」



  恐らく、生まれて初めてであろう、生身の力比べで人間に敗れたドラゴンは思い切り空に向かって弾き飛ばされる。

 常人であれば肉体がミンチになるほどの衝撃を受けて、それでもなお竜は健在。

 

 バサッ


 人の女の姿のまま、竜が上空で翼を広げた。

 竜であるレナにとって空中はむしろホームグラウンド。

 上空から大地を這う人を見下ろし、ロイスを熱い視線で見つめる。



(ああっ!たまらぬ!これがニンゲンか!これが英雄が!ああ、ああ!このために余は宝剣を守護したのだ!)



 その表情は恍惚。

 最強種たる真竜は戦いに命を危機を感じることなど無いに等しい。

 だが、本能は戦いを求めているのかもしれない。

 一方的な虐殺ではない。対等で命の鎬を削る殺し合いだ。

 相対する英雄は、竜の殺意に完璧に答える。

 力の比べ合いで打ち負かされたのは初めてだ。感動すら覚える。



「この感情は、まさしく愛……そうだ、これこそ愛ではないかロイスぅうううううううっ!!!」



 レナのテンションが最高潮に達する。

 愛だ。愛なのだ。

 今レナの精神は生まれてから今までに最高の高揚を覚えている。



「これで終わりだロイスッ!今の余なら、この国もろとも灰燼と化すブレスが撃てるぞぉっ!」



 ハッタリではない。今の己なら過去最強の威力の吐息を放てる。

 さあ、英雄よ。どう受ける?ここで死ぬか?ならば、その魂を余が愛そう。それとも……



(どう逆転劇を見せてくれるっ!?)



 己の最大の咆哮に、愛する男(ロイス)はどう答えてくれる?

 期待が、深紅のドレスに包まれた胸のうちに暴れまわる。



「…………やらせねえよッ!」



 地表ではロイスが既に構えを終えている。

 真竜相手に小技が通じるなど最初から思っていない。

 いくら聖剣であっても【魔王級】のエネミーを一撃で倒せるほどの強さなど無い。

 剣の性能だけでは勝てないからこそ、勇者ヒデオは聖剣流を編み出した。


 つまり、この剣技は魔王を倒す技。



「”聖剣流”――――奥義」



 魔力を剣に込める、それ自体は今まで放ってきた技と変わりない。

 だが、この技が必要とする魔力の量が今までと桁違いだ。

 魔王級エネミーを倒すには瞬時に込められる魔力量では全く足りない。


 だからこそ、全魔力を込める。

 時間をかけて、精神を集中し、その時間を稼ぐために強引に力技で相手を空に跳ね飛ばした。

 この技に必要なのは時間であり、それを稼ぐことには成功した。



「――――【天魔伏滅】――」



 イニテウム遺跡で放った技は、大量の魔力を光に変え、天まで届く柱のように魔力を放った。

 だがこの技は違う。ドラゴンすら戦闘不能に追い込んだその光を、刃に集中する。

 膨大な魔力を刃にため込み、僅かたりとも漏らさない。

 射程も範囲も落ちるが、それらを一刀に収束することで威力は数倍に跳ね上がる。


 魔力転換で強化(バフ)を施した脚力で跳躍。

 その跳躍力は上空で飛行するレナに容易く到達して……



「殺し愛おうぞロイスぅうううううううっ!!!」


「ぶっ倒れろおおおおおおおおおおおッッッ!!!」



 レナがブレスを放つ、大言壮語ではなく、真にエルミリオ王国を焦土にするほどの威力の火球が放たれ。


 光を纏う聖剣が、火球を切り裂き、レナに刃が到達する。




 その瞬間、魔力の輝きが、空を覆い尽くした。

何がとは言いませんがレナの人間体は


レナ≧アリス


くらいの大きさです。



そろそろタイトル詐欺になりそうなので色々と回収していきます。

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