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最終章 深夜のコンビニエンスストア

「でも、どーして、あいつがこの店に来たとき、あたしは意識なくなったのかワン?」

「ソウデスネ、三日マエノ北の森デハ、ヘイキデイマシタネーッ」平気? ヨーコも坂下も北山大悟の前では思いっきりビビって固まっていたぞ。

「あいつーっ、私たちが飛んでガーッて睨んでも全然平気だったワン。柴丸はあいつがコワイみたいで、ずっと私のお腹に隠れてたし。人殺しはやっぱヘンテコリンだワン」飛んでないだろ、お前は?

「ソレハヤハリ、ヨーコチャンガチャーミングだからですヨ」

「キャー! あたしは怒っていても可愛いのネーッ、だから北山は怖がらなかったのね。困ったワン」(北山はお前たち幽霊には興味なかっただけだ)俺はそう考えたが口に出すことでもなかった。

「僕もハセガワサン二、イツモ怒られてコマッタ、ワンワン」

「ジョージ、それはお前が仕事しないからだ」

「オーマイガー」ジョージは大げさに両手を広げ天を仰いだ。何が「オーマイガー」だ、こいつは。

「ねぇねぇクモちゃん、あいつのユータイっていうの? あの黒いヌルヌルしたトカゲのような蛇みたいなやつ。あれってあたしやノボル君みたいな幽霊なの?」

「ああ、たぶんそうだ」俺は北山大悟のヘンテコな幽体を思い出すと、未だにゾクゾクと寒気がする。

「あいつの正体はトカゲ蛇オトコだ、ワン!」

「ヨーコチャン、あのイカレタオトコハ、あの黒いナイフを自分の眼にツキサシタノデスヨ」

「エーッ! あたしを切ったヘンテコなナイフで自分の眼を刺したの?」

「それで霊能者になったみたいだ」

「ハセガワサン、アノ狂ったキョウジュハ、そのノウリョクト引き換えに、あんなヘンテコな幽体にナッタノデショウカ?」

「そうとしか考えられないなぁ。俺はいろんな幽霊を見てきたけど、あんなに気持ち悪い幽体は初めて見た」ヨーコもジョージも黙っていた。

「シロはどこ行っちゃったのかな、ワン・・・・・・」

「ヨーコチャン、シロにはマタ逢えるとオモイマスヨ」

「ワンワンワン」元気よく吠えた柴丸をヨーコはそっと抱き上げた。

 店の丸い時計は午前二時を指していた。相変わらずイートインスペースに幽霊のヨーコと柴丸がいる。俺はヨーコの前に霊化させたコーヒーを置いた。

「アリガト、クモちゃん。最近クモちゃんの淹れてくれるコーヒーは優しくて美味しいワン」

「ハセガワサン、僕は美月ちゃんがイレテクレタコーヒーでイイです」

「そんなものはない!」

「ところでジョージィ、夕方、北の森で介抱してあげた早川さんがお礼にきたんだってぇ、やるじゃん、ジョージ・アブラハム・ワシントン! ワンワン」

「オウーッ、もうヨーコチャンのミミにハイリマシタカ。早川さん、美月チャン、ジャスミンチャン、ヨーコチャン。ウーン、ミンナ可愛くてチャーミングで困ります。本命は誰にシヨウカナ?」また変な妄想を、こいつは。早川さんは俺が好きだと北山が暴露しただろ。 でもそれ本当かな・・・・・・。

「ところでヨーコ。ナルシー坂下はどうしている? あれから見てないけど」

「ウーン、ノボル君は、あいつが意識なくして寝たきりになったから、スッキリしたみたい。シロもいなくなったし、あまりこの世に未練がなくなったのかなぁ、クゥーン」

「ソウデスネ。サカシタクン、スッキリした顔シテマシタ・・・」

「まあ、坂下は変人だったけど勇気はあったよ、確かに」俺も何となく淋しい気持ちがした。

「フフフッ、お兄様は人を見る目だけは確かですねーっ」坂下昇は天井から舞い降りた。こいつ、幽霊のスキルが上がっている。

「僕もあの件が片付いて、いろいろ考えたわけですよ。もうこの世界にもあまり未練がなくなって、さっさと生まれ変わっちゃおうかなーって。だけどお兄様、一つだけやり残したことがあるのです」俺は嫌な予感がした。

「お兄様、僕はまだ天使の美月さんと永遠の愛の誓いをこの現世ではしていないのです。麗しい美月さんは必ず僕の存在を見つけてくれるし、僕たちが永遠の愛を再び誓う時が必ず来ます。僕たちは時の始まりから恋人同士だったのですから・・・。三日前の北の森の戦いで、僕は更に幽霊としてバージョンアップしました。そして美月さんも霊的覚醒が直ぐそこに迫っていると実感しました。僕は美月さんと永遠の愛を誓い、来世で再び巡り逢うことを約束できるまで、この世界にいることにしました」勘違いがバージョンアップしている。

「お兄様、熱く語ってしまったので喉が渇きました。コーヒーをお願いします」

「オニイサマ、僕もオネガイシマス」俺はあきれ果てて脱力した体を引きずってコーヒーを二杯淹れた。入口の自動ドアが開いて袴田刑事が入って来た。

「相変わらず賑やかですね」ようやくマトモな人間が来た。

「ボスに敬礼! だワン」ヨーコの言葉に俺を除く三人は敬礼をした。袴田刑事も笑いながら敬礼をしてコーヒー代百円を俺に渡した。そして彼は自分でコーヒーを淹れイートインスペースに向かった。

「ボス、あの犯人はどうなりやした? ワン」

「北山大悟はずっと意識がなくて、医者もどうして生きているのか不思議なくらいの状態です。もうあまり長くないだろうと・・・」みんな黙っていた。クゥーンクゥーンと柴丸が袴田刑事の足元に寄って行った。

「長谷川さん、ジョージさん、若宮さん、坂下さん。今回北山大悟を逮捕することができなくて申し訳ありません。でも彼がもう犯罪に手を染めることはないということで、許してください」ヨーコと坂下がそれで良ければ、俺もジョージも言うことはない。幽霊二人は少し困った顔をしていた。

「長谷川さん・・・、今回の事件の結末は美月さんの考えた通りになったようですね?」

「まあ、美月の考えることはちょっと俺には理解できないけど」

「それで、この店には北山大悟の息のかかった人間はもう来ていないですか?」

「そうですね、来ていないと感じます。ジョージはどうだ?」

「ボクモアイツの手先ミタイナ奴ハ、もうキテイナイとオモイマス」

「袴田さん、コンビニに来る客は常連でも名前知らないですよ」

「確かに」

「でもさぁ、この店にアイツとかスパイとかが来ていて、あたし達のこと調べてたなんて、セコイのだ、ワン!」

「調べると言ったらヨーコ、お前、坂下が最初に留まった場所に行かなかっただろ?」

「アーッ、三人デキタノモリ二坂下クンヲ探しにイッタトキデスネ。」

「ソーだったかニャン・・・」ヨーコは俺の視線を避けた。

「お前、パトカーがあって警官がいたから、あそこに行かなかったんじゃないか?」

「ンーッ、もう忘れちゃったワン」ヨーコはそう言う天井の方に上がっていった。

「ヨーコ、昔、何やってたんだ!」

「まあまあ、いいじゃないですか長谷川さん。若宮さんは事件の被害者で今回のことでも大変協力してくれたでしょう」

「まあ、そうだけど。アッ、忘れていた。袴田さん、ちょっとこっちへ」俺は袴田刑事をレジの方へ連れて行った。

「これ、お返しします」俺は腕時計型盗聴器を袴田刑事に渡そうとした。

「長谷川さん、それはあなたが持っておいて下さい」

「エッ、どうしてですか?」

「それは必要な人のところにあるべきなのですよ。それから美月さんが言っていましたね。犯行に使った黒いナイフ『黒蛇』を何故北山大悟は手放したのか?」

「ええ、確かにそれは不可解です・・・」

「ひょっとして、黒いナイフのような妖刀は一つではないかもしれません・・・・・・。この事件はまだ未解明なことが多いのです。あのおぞましいナイフは誰がつくったのか? そして美月さんが違和感を覚えたことーこの事件の首謀者は本当に北山大悟なのか・・・・・・。おそらく今後も皆さんにご協力願うことになるでしょう。その時はまたよろしくお願いします。では」そう言うと袴田刑事は再びイートインスペースへ歩いて行った。袴田刑事が椅子に座るとヨーコがフワーと彼の隣に降りて来た。柴丸が袴田刑事の足元でじゃれついている。ジョージも坂下も霊感刑事に話したいことがあるようだ。

 俺は疲れを覚え、紺色のデイバッグからモスグリーンの水筒を出しアイスコーヒーを飲んだ。

「お兄ちゃん、明日お休みでしょう? 海までドライブしよう」

俺は美月の言葉を思い出した。血の繋がっていない聡明で美しい妹の言葉は、いつも俺を優しく温かく包んでくれる。

「それでね、今回私、頑張ったでしょう? だからご褒美をお願いね」と嬉しそうな美月の銀色の瞳が脳裏に浮かんだ。

 俺は何かプレゼントを買った方が良いのか、何も買わない方が良いのか、悩んでいる。

 もうすぐ午前三時、俺たちのいる三丁目のコンビニエンスストアに人間のお客はまだ来そうにない。




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