Extra04.とある死者の遣り残し~死者と生者のお茶会~
前回から結構間が空いているのに短くなってしまいました。
待っていてくれた人にはごめんなさい。
色々と首を傾げる所があるでしょうが、割とわざとです。
>Side Alain
うたた寝をしていた時の様な微妙に眠く、だけど直ぐに起きれそうな気だるい感覚。
ボクは……なにをしていたんだっけ?
そうだ、エリー……。
エリー……。
『ハイハイ、エリーの事を気にするのも良いが俺の事を忘れてもらっちゃ困るぜ?』
目の前から声がした、目の前?
ボクは横になっていたんじゃ……。
『ここは俺の精神世界だよ、だから上も下も無いし右も左も無い。
ここはそういう場所だよ、アラン・ルクツリア』
誰?
『そうさな、先ずはキチンと起きろ。脳味噌……はお前のはもう無いが、キチンと頭を働かせろ話はそれからだ』
良く分からないけど、分かったよ。
『素直だな。ウチのひねた弟よりも素直だ。アルスが羨ましくなるな、少しだけ』
目を開けるとそこには見慣れぬ衣装を着た、兄さんにそっくりな人が居た。
兄さんとの違いは髪の毛と目の色だろう。
顔や背丈、それに表情や雰囲気は兄さんに良く似てる。
だけど、彼が兄さんとは別人である、というのがボクには何故だか良くわかった。
『さて、俺のことは誰だか分かるかな?』
いえ、全然まったく……どこかでお会いしましたか?
『一応、な。とはいえ一方的に俺がアランを知っているだけとも言える』
それじゃあ分かるはずもありませんよ。
それより改めて聞くんですけど、ここはどこです?
『さっきも言ったけど、俺の精神世界だよ』
何でボクはそんなところに?
『それは決まっている、お前が勝手に俺の中に住み着いたからだ』
え?
『自覚はなしか、まぁ仕方ないとすっか』
彼はそう呟くと、急に浮遊感がボクを襲う。
うわっ!?
その後にしりもちを付いてしまう。
『っと、わりいな。立ち話もなんだったから椅子とテーブル、それに飲み物を用意させてもらったぞ』
え?えぇ!?
なにをどうやったの!?
『言っただろう、ここは俺の精神世界だ。
俺の精神……心の中なんだから俺の思うがままにできるんだよ』
彼がそういうと、真っ白な世界は次第に色づき、世界はどこかの酒場のような場所になった。
『酒場じゃなくて、喫茶店だ。まぁ知らないかもしれねーけど。
それよりも、さっさと席について用意した茶でも飲め、落ち着くぞ?』
あ、はい。戴きます。
椅子に座り、何時の間にか用意されていた貴族達が使いそうな豪華な茶器に入れられたお茶をご馳走になる。
このお茶……すごい!家で飲むのとは大違いのおいしさだ!
もしかして、この人って貴族なのか!?
『別に豪華って程でもない。そこいらで1000円もしない程度の少し見栄えの良いティーカップだ。
茶の方は100円ショップの安モン。そして俺はどこにでも居る一般人だ。
最近は一般人の枠からはみ出しつつある感じだが』
良く分からないが、彼にとっては安いものなのだと言うことは理解できた。
本当に一般の人なんですか?
だって、よく見たらその服だって凄く綺麗だし。
『これはスーツっていってな、働く人々の半数ぐらい……が日常的に着ている服だ。多分。
ちなみにこれが綺麗なのは当然だ、俺の幼馴染が選んでくれた、俺に良く似合う一張羅だからな』
とても誇らしそうに彼は言う。
『さて、それではアラン・ルクツリア。君は今、外……あぁ、つまりこの精神世界の外がどうなっているか、理解しているか?』
いえ、どうなってるんですか?
時々、エリーと一緒に暮らしている夢を見た様な気はするんですが、それはなんだかボクだけどボクじゃなくて……。
『それが正解だ。お前だけどお前じゃない、つまり俺の見た外の光景をお前が見ているに過ぎない。
そして、お前の影響力は日増しに強くなり、遂には俺と言う存在を侵食し乗っ取ろうとしている。
自覚の有無は、見る限りではないみたいだな』
どういうことなんです?
正直わけが分かりませんよ。
『俺だって良く知らない。強いて言うならこういうのの専門家の筈のピュコアさんかもう少し説明があって然るべきの筈なんだがなぁ……』
ピュコアさんってだれです?
『お前の兄貴の元冒険仲間の僧侶……だよな、うん。で、ギルドの職員だ』
その人がえっと……。
『俺に取り憑いたお前をどうにかするために協力して貰った、そして今に至る。
ちなみに、お前が目覚める大分前に俺は目覚めて、お前が目覚めるまでの間ずっと色々とやってるからこういう風に余裕を持ってお前と相対することができる。
なにせ、お前をどうにかする方法がもう理解できているからな』
あの取り憑いたとかどういうことです?
まるで
まるでボクが死んだみたいな言い方じゃ。
『死んだよ、そりゃもうザックリとオークの剣でぶった切られて』
え?
彼は驚くボクに対してその時の情景を周囲の空間を弄って彼が見たものをボクに見せる。
切り裂かれてあっけなく絶命したボク。
呆然として心を壊してしまったエリー。
そして彼が数多の魔物を剣一本で難無く引き裂く彼視点での光景。
『お前がここにいるのは、まぁ間違いなくあの後助けに入った俺に取り憑いたからだろう。
俺自身、幽霊とか悪霊には耐性が無いみたいだからな』
彼はそういってお茶を飲む。
『うん、この安物チック味がいいな。
下手に高いと肩肘張っちまって逆に飲み辛いし』
彼はそういって笑う。
その笑顔はやはり兄に似ていた。
でも、コレもボクからすると凄く高そうなんだけど…・・・。
『さて、アラン・ルクツリア。お前に幾つかの選択肢をくれてやる』
選択肢?
どういうことですか?
『あぁ、正直な、俺はお前に俺の体を乗っ取られるのは気に食わない。
俺の体は誰が何を言おうと俺のものだ。俺が両親から授かり、生まれてからずっと使い続けてきた体だからな。
誰かに勝手に使われるのは我慢ならないんだよ。それに、俺の心に干渉されるのもな』
彼は睨み付ける様に……違う、本当に睨んでいるんだ。
怒りと殺気を伴って。
ボクはその事実に身震いしてしまう。
同時に悟る、この人は本当ならいつでもボクを"消す"ことが出来るのだと。
『だが、お前に対しては同情する要素があることも認識している。
それに……お前は俺の生き別れの弟に良く似てるからな、だから特別サービスだ』
彼はそう言ってから改めて真剣な表情でボクを見た。
『選択肢は俺が掲示する以外にもあるかもしれないから良く考えろよ。
選択肢1。今、この場で俺に消される
この選択肢は俺にとって非常に都合が良い物だ。目の上のタンコブが消えてくれるんだからな』
彼は非常に冷たい目で僕を見ている。
その視線にボクは思わず腰が引けてしまう。
『選択肢2。逆に俺を消してお前がこの体の主になる。
この選択肢はお前にとって非常に都合が良い物だ、何せ失った肉体を再び得ることができるのだからな。
しかし、不可能だと言うことを知っておけ』
彼の言葉が終わると同時に強烈な抗いがたい圧迫感がボクを襲い、ピクリとも身動きができなくなる。
視線すらも自分の意思では動かせない。
そうか、ここは彼の世界。つまりココに限っては彼の存在は神と同義なのか。
『選択肢3。現状維持で俺の心の中に住む傍観者に徹する。
ただしこちらは今までと違って俺の精神への干渉はさせないし、俺の体を乗っ取ることもさせるつもりは無いぞ』
その言葉と共に彼はニヤニヤとボクを見る。
彼は待っている。ボクの答えを。
ボクは……。
『しかし答えを聞く気は無い。お前にはやって貰わなきゃならん事があるからなぁっ!
フゥーハハハハー!』
ボクが答え様とした瞬間に彼が突然そう言って笑い出し、ボクの目の前は真っ白になった。
ついでに言えば、今までとキャラがぜんぜん違う、とも思った。
そして気が付くとボクは夢の中で見た……いや、彼の視界を通してみたギルドの椅子にもたれかかっていた。
『ようやくお目覚めか、暢気なもんだ』
「っ!?」
僕は思わず頭に響いた声に驚いてしまう。
『俺だよ俺。その肉体の本来の主、リョウ・イスルギだ。
良く考えた結果、とりあえずお前には俺の体を貸しといてやる。
俺じゃエリーの相手をしててもストレスが溜まってしょうがないだけだしな。
とりあえず、貸し出し期間はお前かエリーが死ぬまでだ』
「死ぬまで?それってかなり長いんじゃ」
『別に構わん。殆ど眉唾物だが、俺はどうも不老不死らしいからな。
だから、テキトーに幸せでも目指して見せろ』
なんとも都合の良い話だけど……。
『あと、お前の行動が気に食わなくなった時は無理やり取り返してお前は消すから、そのつもりで居ろよ』
「……ありがとう、リョウ」
『気にすんな、どうせこっちも実験がてらだ。あのガセネタがどこまで信頼できるかの、な』
ガセネタが何を示すかわからなかったが、何か確信を抱いてそれを語っているとボクには思えた。
『あ、そういやお前がエリーを抱いて子供作ったらそいつは間接的に俺の子供って事になるな』
「な、なんでさ!?」
『あのな、俺の体で俺の種だろうが。そうとしか言いようがねぇよ』
アランはそこまで言われてようやく納得したようだった。
つまるところ、やっぱりどうあがいても入れ物が違うのだと言う事実をだ。
そして、ボクは同時に彼に逆らえず、抗えず、流されるしかないのだろうかと思ってしまう。
『まぁ気にすんな。少なくともお前が死ぬかエリーが死ぬか、俺がお前を否定するまでは体を自由に使わせてやるんだからよ』
今のボクには、彼のこの言葉に従う以外、選択肢など考えられないのだから。
彼の言葉のどこかに裏があるのではないかと思いながら。