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3.脱ヒモ生活!そして厄介事への道が拓かれる/

今回はリョウ編とエリー編は諸事情により分割してお送りします。

> Side RYOU


さて、アルス達が居なくなって1週間。

俺は一つ、思い出した事がある。


「ヒモ生活は…もう、いやですがな」


この一週間はアルス達もそのうち帰ってくるからゆっくり勉強と情報収集しながらがんばんベーよ。

と、思いながら主に読み書きの勉強をしていました。

ちなみに教材はCompだ。

この素敵な籠手型のコンピューターに搭載されているネットワーク機能を通じて、この世界の言語というか文字の書き取りと読み取りの勉強に適したデータを大量に集めてひたすらに勉強したのだ……主に絵本を。

最初の内はゆっくりと勉強していたのだが、途中で事情が変わった。

エリーが妙に……そう、妙に甲斐甲斐し過ぎるのだ。

まるで、このまま飼い殺しでもされるんじゃないかと思ってしまうぐらい。

加速度的に甲斐甲斐しさが酷くなるに連れて俺は悟った。


「俺、今めっちゃヒモじゃね?」


女に寄生して生活している駄目男。

それが今の俺だと気付いてしまった。

そして曲がりなりにも社会人でありキチンと働いていた俺としては自分よりも若い女の子に寄生って言うのは正しく恥じである。

ならばどうするか?

決まっている、働くのだ。

昔からよく言うじゃないか、『働かざる者喰うべからず』と。


そして俺は働く為に基礎となる読み書きの勉強に更に熱を入れた。

気分は学生時代のテスト前って感じだった。

ちなみに、エリーは何故か…。


『何かに必死になってるアランって素敵ね』


なんていって素敵な笑顔で俺を応援して来た。

この言葉で俺は少し理解した。

エリーって悪気無しで男を駄目にしかねない過剰な世話女房タイプだって。

多分、アランがかなりダメダメだと言う噂があるのは半分近くエリーの影響じゃなかろうか?とも思い始めた。

きっと、元の世界でもアランに良く似ていたと思われる割りとダメな弟がアランほどダメっ子じゃないと今俺が感じるのは、エリーのような過剰な世話女房が居なかったからだな、と頷く。


そんなこんなである程度…最低限名前と数字の読み書きと生活に多用される単語の読み書きをマスターし、俺は就職活動をする事にした。難易度的には英検三級並だろうか?

しかし、だ。

ある程度の知識を付けた所で未だにこの世界の職については詳しいわけではない。

と、言うわけで俺はこの世界に関してそれなりに精通している人間を頼る事にした。


「って訳で、いつまでも居候っていうのもアレだし、無職も格好悪いんで働こうと思うんだけど…。

 エリー、なんかアドバイスないか?」

「アドバイスって言われても…」


エリーが困ったような笑みを浮かべる。

まぁ、確かにそりゃそうだってなもんである。


「いやぁ、どんな職でも良いんだけどさ、エリーの意見があればそれにしようかなっと」


と、俺が言うと。


「前みたいにガードの…防衛関連の仕事は駄目なのかしら?」

「ガードか…」


どうやらアランは嘗て村や町の防衛に関わる仕事をしていたようだ。

だが、先日エリーが居ない場所で聞いたアルス・マリー夫妻のアラン評から考えて、それほど頭が良かったわけでも、腕っ節が良かった訳でもないのだろう。

ついでに言えば、エリーもアランが腕が良いとは思ってなかったのも知っている…と言うか本人が行ってたしな。

ガードの仕事も良いが……正直あんまり興味ないんだよな。


「ガード以外の仕事を考慮してみようかと思ってたんだ。勿論、ガードが嫌って訳じゃないけどね…。

 折角環境が変わったんだから色々やってみたい、そう思ったのさ」


前半はアランを演じる俺の方便、後半は俺自身の考えでもある。


「なら、冒険者はどうかしら?

 読み書きとそこそこの能力が無いといけないのだけれど、色々やってみたいって言う面では最適だと思うわ」

「あ、それじゃあそれで」




この街は五角形の形をしており、其々の角の頂点に門があり、そこから中央に向けて主要な通りが作られている。

五つに切り分けられた面はそれぞれ区画整理されており、北西・住宅街、北東・高級住宅街、南西・商業区、南・行政区、南東・工業区。

更にオマケを作ると都市外周部・スラムがある。


アランとマリーの家は当然の如く住宅街にあり、これから向かうギルド(正式には異職種間相互扶助協会というらしい)は勿論行政区に存在する。

この街におけるギルドとは、冒険者ギルド、職人ギルド、商人ギルドの3つが合わさったものだ。

冒険者ギルドは他ギルドから依頼を受けて様々な活動をし、モンスターを倒したり探索を行って物作りの素材を得る。

職人ギルドは冒険者ギルドが得た素材を買い取り、物を作って商人ギルドに売り渡す。

商人ギルドは冒険者ギルド、職人ギルドの双方に依頼をして、得たものを売りに出す。

そういった一連の動きがあるのだ。

では、何故この3つのギルドが一つになったかというと、バラバラのままだと書類手続きが面倒だ、という声が大きったからだそうだ。

そして、ギルドでは冒険者や職人、商人はそれなりに多いのだが…肝心要のギルドの運営に必要なギルド職員が少ないのだという話をエリーがした。

ちなみに、この街には無いが、聖職者ギルドや魔術師ギルドなるものも別の街には存在する。

この街ではその二つを含めて冒険者ギルドで統合されていたりするが、まぁその辺りは些細なことである。

利用する側もされる側も、相手がキチンと機能するのならば文句は無い、というのが基本スタンスだから。


「なるほど、エリーは教えるのが上手いな。わかりやすかったよ」


少なくとも触りの部分はこれで良く分かった。

エリーは『アラン』に関連する認識こそ歪んでいるが、それ以外は非常によく出来た少女だ。

頭脳明晰、容姿端麗、性格…『アラン』抜きで考えれば温和で温厚、運動神経も悪くなく手先も器用。

正直ドンだけ完璧人間なんだ?と、言わんばかりである。

その彼女が言うのだからとりあえず、前提知識はコレで十分だ。


エリーに案内されて向かったギルドの建物は、3階建てで石造りのやけに大きめの建物だった。


「ここがギルドよ。アランの事だから忘れてると思うけど…」


どれだけ信頼されて無いんだ、アラン…。


一階は依頼の受付と依頼報告用のカウンター。

そして酒場や道具屋、武具屋が併設されている。

二階はギルドの事務エリアと格安の宿屋(カプセルホテルの様な物)があり、両者は行き来できないようだ。

三階は幹部の事務室と会議室があるらしい。


「エリーって本当に物知りだな」

「えへへ、アランと一緒になる為にイロイロな事、勉強したんだよ」


エリーは褒めて褒めて、と言わんばかりの良い笑顔で俺に微笑みかける。

ただ、その瞳が映しているのは俺の姿ではなく、俺を通して見るアランだと言うのだから…。


「そう、だな。凄いよエリー」

「でも、まさかお姉ちゃん達みたいに夫婦でギルドに勤めれるなんて、思わなかったわ」

「え?」


思わずエリーの言葉に反応してしまう。


「アラン一人だけに働かせるのは申し訳ないし、それに不安だもの。

 それに私、いろいろ出来るのよ?

 弓だって覚えたし、純粋魔法、水氷魔法や火炎魔法も初級の物なら扱えるわ」

「弓に魔法を3系統も?……何時の間に」


多分、アランが見ていない間にってことなんだろうが…明らかに話に聞くアランよりも才色兼備ですね本当に(ry…ってなもんである。

つか、この子冒険者になって俺の仕事手伝う気?

勘弁してよ、それじゃあ

現在の俺は、多分だがアランよりはマシ程度の実力だろう。

特に戦闘能力は武器がチートだからな、仕方ない。

てか、こんなチートな剣を使ってると実力つかねーよ。


さて、そんな思考の脇道にそれながらもようやくギルド内に入ると、一瞬だけだが色々な場所から視線が飛んできたのを感じた。

アレだ、遅刻した時に『誰が今頃来たんだ?』みたいな感じで見られたときと同じ気分だ。

そんな居心地の悪さを感じながら俺は受付に向かう。


「いらっさいませ~。依頼ですか~?」


受付に居たのは、見た目6歳ぐらいの少年だった!


「………君が受付の担当?」

「はい、そーれすよう!」


明らかに幼い子供です。

この世界じゃこんな子供まで仕事するのか!?やっく・で・かるちゃー!!!


と、心の中で叫んでいると、その光景を見ていた身内と思われる壮年の男性が急いでこちらにやってきた。

身長は170ぐらいで…俺と同じぐらい。やや筋肉質で腕っ節が強そうだが、紳士的な顔をした人物だった。

彼は子供を慌てて下がらせて場所を代わる。


「息子が失礼しました。ようこそユディツァ総合ギルドへ。

 私は当ギルドのヴァン・ホーテンと申します」

「あ、コレはご丁寧にどうも。

 俺はアラン…と名乗っています。

 後で個別でお話しするので今はアランと」


あぁ、ついに自分で事情も知らない相手にアラン名乗っちまったよ。

一応、小さな声でヴァンさんに言ってエリーに自己紹介を促す。


「アランの婚約者のエリー・ウェアドと申します。よろしくお願いします」


アランの、であって俺のではないよなーと思わず心の中で愚痴る。

こう言ってはなんだが、俺はコレでも恋愛純情派を自称している。

そんな俺としては、結婚するならばやはり理想は恋愛結婚である。

エリーとしては満足だろうが俺は不満ありまくりですがな…俺、アランじゃないし。

ってか、エリーの家の名前ってウェアドって言うんだ。初めて知ったよ。


ヴァンさんが俺とエリーを視線だけでささっと見て、話を進めた。

「……。さて、お二方は本日はどのようなご用件ですか?

 依頼ですか?それとも……冒険者登録ですか?」

「冒険者登録でお願いします。

 一応、読み書きは出来るし戦闘も…出来なくはないが表立って戦うのは苦手だ。

 剣や短剣、後弓を扱えるが、どちらかといえば手先の小細工とかが得意だな」

「私も冒険者登録です。

 短弓と純粋魔法、水氷魔法や火炎魔法の初級を扱えます」


その自己紹介を聞いてヴァンさんは少し考えた後に言う。


「ふぅむ、少々特殊な形ですが『剣士っぽいスカウト』と『弓使いの魔導師』ですか…本当に珍しい組み合わせですね。

 それに、お嬢さんみたいに複数属性扱う魔導師も珍しい。

 さて、それでは契約としましょう。

 こちらの書類をよく読んで、同意していただけるのならばサインしてください」


そういって渡された契約書だが……残念な事に知らない単語が多かった。

契約書をしっかりと読み終えたエリーが、様子に気付いたのか口を出してきた。


「契約自体には問題なさそうだし、サインしても問題ないよ」

「むぅ…そっか、ありがとう」


俺達の遣り取りをヴァンさんは微笑ましいものを見るような目で眺めていた。

何となく悔しい…コレではまるで俺は頭の足りない子のようではないか。

とにかく俺はエリーからは見えない角度で素早くサインをする。


"リョウ・イスルギ"と。


そしてヴァンさんに手早く渡す。


「はい、これに俺の"本名"書けばよかったんだよな?

 書いておいたから見てくれ」

「ほぅ、なるほどなるほど……」


受け取ったヴァンさんは意味深げに頷く。


「では続きまして実技試験を課したいのでアルスさんは剣士としての実技試験を行うので着いて来て下さい。

 エリーさんは私の妻が魔法実技試験の場所に案内しますので少々お待ちください」

「わかりました」


ギルドって一族経営だったりするのか?

んなわけないか。


そんな事を考えていると、ヴァンさんはとっとと奥の方へ引っ込み金髪の女性と話している。

どうやらその女性が奥さんのようだ。


再び思考する時間が出来たので、俺は今手持ちのモノに思考を移す。

俺が今持っている中で特筆すべき物はCompと戦闘時だけ凄い剣と無限バンダナの3つだ。


そういえば俺が元の世界であの女に持たされた剣とバンダナに関して詳しい事を何も言って無かったよな。

先ずエクスカリパーなんだが、本来は『聖剣ライトニング』とか言う中学二年生ぐらいが大好きそうな名前の剣だった。

Compを使って調べた所によると、所有者の意思に応じて無制限の切れ味を発揮し、身体能力も格段に上昇するというチート武器。

更に所有者に危機が迫り所有者の能力では対応しきれない場合、一時的に肉体を操作を行う自動防御機能付き。

そしてユーザー認証機能まであって所有者が手放しても一定距離を離れると一瞬で手元に戻り、所有者以外が持とうとすると絶対持てない重さになるとか言う素敵具合。


そしてもう一つ、裏地に無限とびっしり書かれた通称『無限バンダナ』なんだが、コレ…本当にただのバンダナだった。

Compでどれだけ調べても『ただのバンダナ?』と結論付けされただけだった。

実際に身に着けて家に置いてあった弓と矢で実際に射ってみても矢の数は無限じゃなかったしね。


そもそもスーツにはバンダナは似合わないので誰かに上げてしまうか、コレ。


「そうだ、エリー。コレあげるよ」

「な、なにこれ??」


唐突に渡されたバンダナ…の裏地を見てエリーは若干引いてる。

なんとなく、気持ちは判らないでもない。


「以前、仕事中に人助けしたらお礼にって渡されたんだ。

 何でも、『蛇』って呼ばれる潜入工作のプロで、英雄とも言われた傭兵が使ってたバンダナの模造品らしい。

 どんな時でも必ず生きて帰れるとか?ご利益はあるみたいだよ」


ご利益と出所に関しては咄嗟に出た嘘だ。

つか、そもそも嘘つきっ放しなんだしこのぐらいの嘘、今更だよな。

そう思いながら手渡すと、手渡した瞬間にエリーの表情が変わって何か思考顔で呟き始める。


「……え、うそ。これって…」

「?」


何を考えているのかわからないが、尋ねようとした所でヴァンさんが着たので俺は質問を後回しにする事にした。


その後、俺はヴァンさんの案内に従いギルドの裏門から街の外に出て柵に囲まれた訓練場と思わしき場所につれてこられた。

訓練用の案山子やらも幾つも置いてあるようだ。


「こんな所にも街の外に通じる場所があったんだ」

「ギルドでは冒険者の訓練もやっているからね、訓練を出来る場所に直ぐ行ける様に、と言う配慮だよ」


俺の言葉にヴァンさんが応じて答える。


「なるほどねぇ…」


治安とか大丈夫なのか?と思ったが俺の思考が表情に出ていたのかヴァンさんが言う。


「ギルドには常に何人か冒険者が詰めて居るからね。

 魔族…この辺りだと近場の森に生息しているオークが大軍でも率いてこない限りは大丈夫さ」


遮蔽物や障害物があれば、俺一人でも何とかできる可能性があるが、それは言わぬが華。

と、いうかライトニング使って殲滅できても俺の実力とは言い難いよなぁ。


そんな事を考えながら辺りを見る。辺りにはまばらに人の姿が見える。

共通項としては大抵の人が近接武器を装備しているところだろうか?


「ここでは近接武器の訓練を?」

「その通り、ここは手に入れたばかりの近接戦闘用の武器を振り回したり、組み手をするための場所さ。

 ここでは訓練はもとより、君の様な新規登録の冒険者の実力を測ったりすることもしている」

「なるほど」

「さて…一応、冒険者には色々と判断基準が合ってね。

 中でも一番大事なのは『信用』と『信頼』だよ、何故かはわかるね?」


その言葉には試す意味も含まれていると思うが、一般常識を含めて考えれば答えは一目瞭然だ。


「信用がない相手に仕事を失敗されても困るし、信頼が出来ない相手はそもそも頼れないし任せれない。

 そう言う事で良いですね?」

「まぁ、それで良いでしょう」


ここいらで教えておくか。


「んじゃ、なんでまた俺、リョウ・イスルギがアランなんて別人の名前を騙っているかをご説明しましょう」

「あぁ、頼むよ」


そうして俺はエリーと出会い、本物のアランと出合った時の事を嘘偽りなく語る。


「…ってなワケです」


語り終わった俺は、どこかスッキリした気分になって空を見上げる。


「……君は、自分が行っている事を本当にそれで良いと思っているのかい?」


その言葉は何度も自問自答した。


「さぁ?正直何とも言い難いが本音ですよ。

 彼女に嘘をつかなければ、少し急ぐ必要があったあの場では拙かったですし。

 今はもう嘘の訂正すら無駄となってしまっている状態。

 結果、俺が得た物は自業自得の苛立ちと有能過ぎな美人の彼女、です。

 嘘が身を滅ぼすとはよく言ったもんだ。

 今回の冒険者登録だって、本当はエリーと一緒に居る時間を一秒でも減らす為に始めたんだ。

 だってーのにこの状況だ。とんだ皮肉だよ」

「………」


ヴァンは何も言わずに俺を見ている。

その表情は無表情にも近いが同時に敵意のようなものを感じた。


「……余計な事まで喋りすぎたな。

 さぁ、試験を始めようヴァンさん」

「良かろう、試験は単純明快。

 君の実力を見せてもらおう。

 武器は訓練用の木剣でいいな?」


そういって、壁に立てかけられていた木で作られた剣を放り投げてコチラに寄越す。

俺はそれを受け取り、軽く3回ほど振り回してから正眼に構える。

長物を持つのは学生時代の剣道の授業以来だが、やってやれない事は無いと考えて相手を見据える。

ヴァンさんは木剣を片手で持ち自然体の姿だ。

木剣故に片手でも十分に振り回せるからだろう、と言うのが理解できる。


「君のチカラ、見極めさせてもらう!」

「っ!!」


相手が素早く疾走して接近する。

そして同時に構えは袈裟にぶった斬るコースに変わっている。

気付いた所で剣を振るわれる。


「せりゃぁっ!」

「うわっ!?」


俺は及び腰のまま相手の木剣を防ごうと手に持っていた木剣を前に出すと。

木剣と木剣がぶつかり、相手の力に耐え切れず相手の剣と一緒にあらぬ方向に体が泳ぐ。


「おぅわっ!?」


体が泳ぐのと同時にバランスを大きく崩し、気がつけば相手もやや体勢を崩していて、頭が丁度勢いで大きく持ち上がっていた俺の片足が直撃するコースだった。

そして、その片足はソコソコの勢いで相手の後頭部を強く叩き付け、一撃でダウンさせてしまった。

蹴ってしまった時の感触から、かなり良い一撃になってしまったと思われる。


「……えっと、大丈夫か?」

「────」


ヴァンさんからの返事はない。

その状態に俺は焦る。

冗談ではないぞ、頭を強く打ったら色々と拙いんだからな!?


「ちょ!?だ、誰か医者呼んでくれー!!」


俺の言葉を聞いて、様子を見ていた外野の一人が急いでギルドに戻っていった。

残っていた数人は驚いた風に俺とヴァンさんを見ている。


「おい、あの変な服の新人見たか?

 へっぴり腰だと思ってたけど一撃でヴァン教官をのしちまったぞ!?」

「見たぜ、あいつ…もしかして実はトンでもねー凄腕の新人か?」

「いやいや、ありゃどう見てもまぐれだろ?じゃなきゃ俺たちが報われねーよ。

 だって、教官ってアレで騎士団の元・団長だったんだろ?」

「いや、待て……もしかしたらアレは相手の油断を誘い、受け流しとカウンターで相手を倒すと言う流派の技なのかも知れんな。

 そういう流派が極東の国から流れてきていると言う噂を聞いた事がある」

「うげっ、まじかよ!?じゃあもしかして本物!?」


あ、あはははー…なんか素敵に誤解されているような。

つか、極東って何処だよ。日本とか中国っぽい国か?



それから暫くしない内にヴァンさんはギルド職員に運ばれ、俺はギルドの待合室まで連れて行かれた。

そこでエリーと合流し、ヴァンさんの奥さんと思わしき女性から『2人とも合格だよ、明日には必要なものコッチで揃えて渡すから明日の正午ぐらいに来ておくれ』言われ、今日はもう家に戻って休むことにした。

ちなみに、ヴァンさんはあの後救護室で暫く休ませて居たら復活したらしいが、まだ調子が悪いとかで出てくることはなかった。


「アラン、なんだか凄く噂になってたね。

 元騎士団の団長様の剣をいなして蹴り一発でダウンさせた凄いヤツって!

 森でのオーク達との戦いや街道での魔物との戦い、それにあの騎士団長…アラン別人みたいに強くなっちゃったね」

「はっはっは、本当に別人だったりして。

 まぁアレだ、運が良かったんだよ俺は」


未だにアランと呼ばれるとイライラするが、褒められている事は嬉しい。

もっとも全部俺の実力じゃないけどさ。

チートな武器と今回に限ってはとんでもない偶然だ。

まぁ、道具も運も全てひっくるめれば実力の内だけど。

なんだかコレを機に身の丈に遭わない事をやらされそうな、そんな気がする。


だって、似た様なことが元の世界でもよくあったしなぁ…。

俺の明日はマジでどっちだ。



(エリー編に続く)



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