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2.幻想世界の商業都市・ユディツァ/姉夫婦の所へ

> Side RYOU

 あの後、エリーの案内で俺は森を抜けて街道に出た。

エリーは相変わらず俺にあの死体の少年、俺の弟にも似たアランの姿を投影し、俺をアランと呼びいちゃついていた。

正直な話、俺はかなり居心地が悪い。

美少女に好かれるのは嬉しい、だが…心を病んで恋人…いや、夫か?

夫と間違われ続けるのはストレスだ。

開き直ってしまえば良い気もするが、残念な事に俺の神経はそこまで図太くない。

俺がストレスでぶっ倒れるのと、開き直ってエリーを抱いてしまうのはどちらが先になるやら、である。


あぁ、そうそう…大事な事を言い忘れていた。

俺、なんか5歳ほど若返ってました。

5歳若返るってことは不幸なアラン少年とほぼ同年代で、更に更に不幸なアラン少年は俺の弟、石動進に鏡写しの様に良く似ていた。

で、その進は俺に良く似ていた。

さて、コレで言いたい事はわかるな?


アランにくりそつだった俺は、衣装を除けば最初からアランと間違えられる要素たっぷりだったんだよ!!!


まぁ、茶髪か黒髪かって言う差もあったけどな。


さて、そんな俺達だがバカップルが如くいちゃつきながら街道を歩いていた。

正確にはエリーが一方的にじゃれ付いていた、と言うのが正しい。


「ねぇ、アラン。ユディツァに着いたらどうしようか?」

「あぁ、そうだなぁ…取り敢えず仕事でも探すかエリー。

 金がないし」

「お仕事かぁ…うん、私アランの為に頑張るね!」

「ありがとう、エリー。

 俺もエリーのために頑張るよ」


自分で言っててなんだが、どの口が抜かすってなもんである。

ぶっちゃけ、俺は仕事ではなく、どうすればエリーを自然な形で、後悔する事無く手放せるかとかも考えている。

自然な形、と言うのはあれだ、エリーが他に好きな男を見つける、と言う意味である。

或いは愛想を尽かすでも構わない。


「そういえば、ユディツァにはアランのお兄さんと私のお姉ちゃんが住んでいたよね。

 今日はそこに顔を出してみない?」


キター!手放すためのフラグですね!わかります!!

プレッシャーもあるが、それ以上に罪悪感を手放すチャンス!


「そうだな、そうしようか!

 あ、でもどこだったか覚えてないや…エリーは覚えてる?」

「うん、勿論だよ♪」




商業都市ユディツァ。

そこは俺達が今いる国、エインブレターン王国の最南端で、エリーの故郷の村から街道を歩いて3日、危険なオークの住むフェチャシュの森を突っ切って1日の場所にある。

そこは隣国、西方のフロウェム・トアソフ連合国と南方のバナンイダコム共和国との境にあり商人たちが自治を行う自治都市でもある。

…という事を道すがらエリーから聞きだした。


「久し振りに着たけど、相変わらずにぎやかだね、ユディツァは」

「そうだな。コレだけ大きな町なら、仕事も直ぐに見つけられそうだ」


ユディツァは街道の丘の上から見るに六角形の形をした外壁に囲まれた都市だ。

三国の交易拠点として栄え、様々な流行は王都よりもこの都市から生まれる、という事らしい。


「それじゃあ、早速兄さん達に会いに行こうか」

「うぅん、そうだね。わかったよ」


そして、俺達はアランとエリーの兄、姉夫婦が住まう少々こじんまりとした家に辿り着いた。

さて、勢いだけで此処まで来たが正直、向こうさんにはどう説明したものか。

まぁ、正直に言うのが一番か、面倒だけど。

そんでもって、エリーを引き取って貰えば俺は晴れて自由のみだ。

彼等だって見ず知らずの住所不定無職の男に大事な妹を任せたくは無い筈だ。

そう信じたい。


「あら?もしかしてアラン君にエリーかしら?」


背後からかかる声に思わずギクリとする。

振り向くとエリーを少し大人びかせてスタイルを良くしたらこういう人だろう、と思わせるにたる女性がそこにいた。


「あ、お姉ちゃん久し振り-」

「……」


エリーは嬉しそうに姉に近寄る。

俺は取り敢えず会釈だけする。


「えぇ、エリー、久し振りね…アラン君も…あら?」

「えぇっと、色々と言わなければならない事があります。

 取り敢えず俺の事は今はアランと呼んでください」


その言葉に、お姉さんは難しい表情をした。


「何言ってるのアラン?アランはアランじゃない」

「えっ?」


エリーの言葉に驚きを隠せないお姉さん。

何を言ってるのこの子、と言う眼差し100%である。


「その事に着いても、説明しますので」


俺は少しだけ溜息をついた。

ってーか、この人俺の幼馴染の奈菜によぉく似てやがるよ、畜生。

奈菜のヤツ元気にしてっかなぁ…。

あぁっと思考が逸れた。


「……まぁ、そういう事なので。

 積もる話もあるので、先ずはエリーを休める場所へお願いします。

 エリー、疲れてるだろう?お姉さんに部屋借りて休ませてもらうと良い」

「えぇ~、私を子供扱いしないでよ。

 アランこそ疲れてるんじゃない?」


エリーが子供染みた感じで反論する。


「俺は大丈夫。体力と根性には自信があるからね」

「そうね、エリー貴方は女の子なんだからもう少し身嗜み、気を使いなさい?

 髪の毛、土埃で汚れているわよ。お風呂を貸して上げるから浸かって来なさい」


お姉さんがそう言うとエリーが過剰に反応した。


「え、お姉ちゃんちお風呂あったの!?アルスさんって何時の間にそんなにえらくなったの!?」

「この街じゃ、お風呂ぐらい各家庭に普通あるわよ。アルスが特別って訳じゃないわ」


お姉さんはくすくすと笑いながら言う。


「それじゃあ、2人とも上がりなさい」





さて、ついに尋問される時が来た。

ちなみにエリーは風呂だ。


「さて、それでは改めて自己紹介をさせていただきます。

 俺は石動涼と言います。現在、残念なことに住所不定無職です。

 妹さんとはフェチャシュの森で出会い、死亡したアラン君の代わりに彼女を此処まで連れてきました。

 遺品として持ち出したのはこの剣のみです…」


そう言って腰に挿していたアランの剣を差し出す。


「アラン君が…!?嘘ッ!?そんな…でも、この剣はアルスがアラン君に上げたものと…」


お姉さんは動揺しながらも渡された剣を手に取り確認を取る。


「何があったか…教えてもらえますか?

 何故エリーが貴方をアラン君と呼ぶのかも含めて」

「最初からその心算です」


そして、俺はフェチャシュの森で見た事をそのまま伝えた。


「──以上が、俺の知る限りです。

 ぶっちゃけた話、彼女達が駆け落ちであそこに居た位しかあそこに居た理由は知りません」

「そう…だったの…。あの子…」


お姉さんが呟く。

きっとエリーの為に心を痛めているのだろう、と適当に想像しておく。


「さて、為すべき事は為したつもりです。

 後の事はあなた方にお任せして俺は宿に向かわせてもらいます」


そう言って俺が席を立とうとすると…。


「途中からだが話は聞かせてもらった。お前にはまだ用があるからそのままで居てもらおうか」

「っ!?」


何時の間にか何ものかに背後を取られ、しかも刃物を首筋に当てられている。

やばっ、全然気付けなかった…!


「お帰りなさい、アルス。良い所に帰ってきてくれたわね」

「ただいまだ、マリー」


和やかに俺を挟んで会話する夫婦だが、首に当たっているものは正直どうにかして欲しい。


「とーりあえず、逃げも隠れもしないんで、コレ、どけてくれません?」


ちょいちょいと首筋に当たっているそれを指差す。

アルスはふん、と鼻を鳴らしてからそれをどけた。

ようやくキチンと視界に収まったそれはすんごく切れ味が良さそうで、しかも超使い込んでいそうで一部に血の跡が残っている短剣だった。

正直ガクブルものである。


「なるほど、胆力はまぁまぁだな。だが、俺如きに背後を取られている事にも気づかない様では大した察知能力も無いな」

「いやいや、そもそも安全地帯と判断した場所で戦場と同じように気配探せってキツイって。

 こちとら戦慣れしているわけじゃないんだしね」


そう言ってから振り返って彼を見ると…そこには俺(2Pカラー)が居た。

正確には、こちらの世界に来る前の俺に良く似た男だ。

まぁ、アラン君のお兄さんと聞いていたしこういうのも想定してたよ。


「さて、アンタが聞きたいのは本物君がどこで眠りに着いたか、どうなっているか、だろう?

 正直な所、余り見に行くのはお勧めしないが…」

「それでも俺はアイツの兄だ。知る権利があるし…アイツをせめて埋葬してやらねばならん」


俺と同じ顔が確りとお兄さんをしていた。


「そうだね、その気持ちは判る。

 俺も弟がそうなれば同じ事を言うし同じ事をしようとするだろうしな。

 彼は、俺の弟に良く似ていたからその気持ちは一入だよ」

「良く似ていた…?

 君に、ではなく?」


俺は静かに首を横に振る。


「俺にも似ていますがね俺以上に弟に良く似ていましたよ。

 それに、今の俺、とある魔導師との戦いで競り負けた際の呪いで何歳か若返ってる上に、記憶も一部奪われているんだよ。

 この辺りに湧いて出た理由は魔法で空間跳躍させられたから、だ。

 本来の姿に戻ると、丁度アルス…君と同じぐらいの背格好さね」


まぁ、それはともかく。


「彼の遺体、残念ながら弔う余裕は無かったからそのままだ。

 もしも弔うつもりがあるなら案内するけど…どうする?」

「勿論、弔わせてもらう。……だが、君はよくあの森を抜ける事が出来たな。

 あの森は中堅の冒険者達でも突破するのに一苦労する場所なのだが」


アルスは俺の問いに頷いた後、疑問をぶつけてきた。


「ぶっちゃければ、俺の持つ武器の性能のお陰、といった所です。

 俺自身は剣の扱いなんて素人以下ですし…。

 この剣、何でか知らんのですが木に斬りつけても切り傷一つ出来ない癖に、

 オークを剣ごとぶった切るとか言う離れ業、やってのけたんですよ」


そう言って、鞘ごと剣をアルスさんに差し出してみる。


「抜いてみろ、と?」

「えぇ、どうぞ…興味があるのでしょう?」

「それはまぁ…そうだ」


そう言ってアルスさんが受け取って…モロに落とした。


「っ!?すまない!今───な、なんだコレ持ち上がらんぞ?!」


落とした事に慌てて、急いで拾おうとするが、何故か持ち上がらないようだ。


「お前、こんな馬鹿みたいに重い剣を使っていたのか!?」

「馬鹿みたいに重い…?ありえないでしょ、それは。

 俺程度の貧弱ボーイでも持てる剣ですよ?」

「だが、俺は今コレをもてないのだが…例えるなら大岩を持ち上げようと頑張る子供の気分だぞ!」

「んな馬鹿な」


俺はそう言ってヒョイっと剣を持ち上げた。

うん、やっぱり重くない。

昔に部活で使っていた剣道の竹刀を多少重くした程度の重さはあるが、その程度だ。

俺は不審に思って首を捻る。


「アルスさん、ちょっと腕相撲して見ません?」

「…判った、やってみよう」


どうやら俺の意図している所を正しく理解していただけたようだ。


「それじゃあ、審判は私ね?」

「あぁ、頼むよマリー」


そしてテーブルの上でがっつりと組み合う俺とアルスの腕。


「開始!」


『フッ…!』


お互いに力んだ瞬間、勝負が呆気なく決まった。

誰が勝ったかって?

決まっている、アルスだよ。


「「「………」」」


微妙な沈黙が落ちる。


「ちなみに、一切の手加減なしの全力でコレです」


テーブルに打ち付けられた手の甲が痛いなぁと重いながら俺はアルスに言う。


「えぇっ!?でも、お前…幾らなんでも、この結果は男として情けなすぎるだろう」

「……言わんでください、昔から何故か腕力だけは付き辛いんです。

 それに、俺は戦士ではなく…どちらかと言えば技術者としての側面の方が大きい」


派遣社員で色々な技術職を転々としていたからな、間違いではない。

本当は一本に絞ってやりたかったのだけど、よく言えば万能、普通に言えば扱い易い器用貧乏な俺は様々な場所に出されたのだ、上司の命令で。

この世界でどのぐらいが求められるか知らないが、少なくとも日曜大工程度は軽くこなせる自信がある。

それに、イザと言う時はCompから元の世界への情報検索が出来るようなのでモノヅクリに関して困る事が有れば材料ぐらいだろう。

にしてもComp便利すぎる。本当に大事にしよう。




その後、その日はアルス達の家の客間に泊めて貰った。

エリーはお風呂のあとそのままベッドに入った様でぐっすりと寝ていたのをみてやっぱり女の子に旅をさせるもんじゃないな、と思った。

あ、後面倒ごとに関わる事も確定した。自業自得だな、こりゃ。

さて、翌日、2人に泊めてもらった礼を言おうかと思ったのだが、起きたら既に昼で二人は急用でしばらく出かけると言う伝言をエリーから聞かされた。

そして、2人からの伝言で自分達が居ない間、家は好きに使っても良いとか言う話だとか。

あの2人が帰ってくるまで、この家の留守はキッチリと俺とエリーで護ろう、と俺は思った。

明らかにエリーの扱いに困るのは間違いないだろうな。とも思いながら。





> Side Elie


 あの後、私とアランは森を抜けて街道に出た。

アランはあの偽者の事をずっと気に掛けていたみたい。ちょっと嫉妬しちゃうなぁ。

時々くらい顔をしていたから、元気付ける為にちょっと大胆に腕を組んでみたり色々と話してみた。

アランは紅くなったり驚いたり何時もみたいに反応してくれる。

心配事が多くてお腹が痛くなりそうだ、と言っていた。

私は彼のために妻として今まで以上に支えてあげなくては、と思った。


そういえば、勢いだけで此処まできたけどユディツァに着いたらどうするか決めていない事を思い出した。


「ねぇ、アラン。ユディツァに着いたらどうしようか?」

「あぁ、そうだなぁ…取り敢えず仕事でも探すかエリー。

 金がないし」


どうやらアランも決めていなかったみたい。


「お仕事かぁ…うん、私アランの為に頑張るね!」

「ありがとう、エリー。

 俺もエリーのために頑張るよ」


アランが少し気弱に微笑む。

アランは少し疲れているみたいだしやっぱり私がフォローしてあげなくちゃ。


「そういえば、ユディツァにはアランのお兄さんと私のお姉ちゃんが住んでいたよね。

 今日はそこに顔を出してみない?」


2人が結婚したのは大体4年前だったかな?

あの2人の結婚を見て、私も2人みたいにアランと幸せに暮らしたいとずっと考えてきたのだ。


「そうだな、そうしようか!

 あ、でもどこだったか覚えてないや…エリーは覚えてる?」

「うん、勿論だよ♪」


アランはやっぱりどこか抜けてる、それをフォローできるという事は私にとってとても幸せだ。



久し振りに訪れたユディツァはやはり村と違ってとても人が多く活気にあふれていた。

あんまり人が多いので少し煩わしく、故郷の村の長閑な光景がもう懐かしいと感じてしまう。


「久し振りに着たけど、相変わらずにぎやかだね、ユディツァは」

「そうだな。コレだけ大きな町なら、仕事も直ぐに見つけられそうだ」


確かにコレだけ大きな都市ならば働き手は幾らあっても足りないと私も思う。

アランは努力家だから、きっとどこに行っても重宝されるだろうとも思った。


「それじゃあ、早速兄さん達に会いに行こうか」

「うぅん、そうだね。わかったよ」


そして、私達は姉夫婦が住まう少々こじんまりとした家に辿り着いた。

お姉ちゃん達に会うのは久し振りで、少し迷惑掛けるけど…大丈夫だよね?


「あら?もしかしてアラン君にエリーかしら?」


考えていると、懐かしい声が聞こえた。


「あ、お姉ちゃん久し振り-」

「……」


私は声を掛けてお姉ちゃんに近寄り。

アランは静かに会釈だけしてる。

なんだか硬いなぁ、アランは。


「えぇ、エリー、久し振りね…アラン君も…あら?」

「えぇっと、色々と言わなければならない事があります。

 取り敢えず俺の事は今はアランと呼んでください」


アランとお姉ちゃんの遣り取り。

アランはまた変な事を言うなぁ。


「何言ってるのアラン?アランはアランじゃない」

「えっ?」


私が言うとお姉ちゃんは変なものを見た時みたいな顔をする。


「その事に着いても、説明しますので」


アランが何か説明をするらしい。

溜息をついているから余り説明したくないことなのかなぁ?


「……まぁ、そういう事なので。

 積もる話もあるので、先ずはエリーを休める場所へお願いします。

 エリー、疲れてるだろう?お姉さんに部屋借りて休ませてもらうと良い」

「えぇ~、私を子供扱いしないでよ。

 アランこそ疲れてるんじゃない?」


私も疲れているけど、アランも疲れている筈だ。

だって、街道からここまでもずっとアランは1人で戦闘までしていたんだし。


「俺は大丈夫。体力と根性には自信があるからね」

「そうね、エリー貴方は女の子なんだからもう少し身嗜み、気を使いなさい?

 髪の毛、土埃で汚れているわよ。お風呂を貸して上げるから浸かって来なさい」


その言葉に私は自分の失態を悟った。

あぁ、なんてことだろう私はアランのために何時でもどんな時でも最高の状態で居なければいけないのだ。

それは勿論身嗜みも含めてだ。

だからこそ、この様な失態は許せない。


だけど、余りに見苦しく動揺するのもアランの前ではしたくない。


「え、お姉ちゃんちお風呂あったの!?アルスさんって何時の間にそんなにえらくなったの!?」

「この街じゃ、お風呂ぐらい各家庭に普通あるわよ。アルスが特別って訳じゃないわ」


お姉ちゃんはくすくすと笑いながら言う。

当たり前のようにお姉ちゃんは言うが、村ではお風呂なんて共同サウナぐらいしか存在せず、個人の家で持てるものではなかったから非常に驚きである。


「それじゃあ、2人とも上がりなさい」



家に入って直ぐに私はお姉ちゃんの家のお風呂に入れさせてもらった。

このお風呂はなんでもユディツァの北にある、美味しい水としても有名で、そしてこの大陸でも有数の大きさを誇るエクァルタ湖から水を引っ張ってきて、更にそれを魔法施設を利用して各家庭に給水しているらしい。

そして各家庭では給湯器という魔道具を使ってお湯に変化させてお料理やお風呂に使っているらしい。

扱い方の方はお姉ちゃんに先ほど教えてもらえたのでもうバッチリだ。


「うぅん、やっぱりお風呂って凄く気持ち良いのね」


村に居た頃は、水を汲んできて体を洗ったりしていたが、やっぱりお湯の方が気持ち良い。

それに、お湯を作るのに薪を使って火の調節をしなくて住むのも嬉しい。

ユディツァって本当凄いわ。


「あ、でも余り長風呂はしないようにしなきゃ。水でしわしわになった肌なんて、アランに見られたくないし」


そう考えながら手早く、確実に体中の汚れを落とす。

後、何時アランに貰われてもいいように重要な場所は念入りに洗っておく。

余り念入りにやり過ぎて、予想以上に長くなってしまったのは置いておこうと思う。



お風呂を上がり、お姉ちゃん達と合流しようとおもったらアルスさんが扉のまで私に背を向けて立っていた。

どうやら部屋の中の話を聞き耳を立てているようだ。

そしてアルスさんは極自然に、しかし音を立てずゆっくりと静かにアランに近寄りナイフを抜いた。


「さて、為すべき事は為したつもりです。

 後の事はあなた方にお任せして俺は宿に向かわせてもらいます」


そう言ってアランが席を立とうとすると…。


「途中からだが話は聞かせてもらった。お前にはまだ用があるからそのままで居てもらおうか」

「っ!?」


私はここまで何も出来ずにただ驚愕と怒りとが混じりあった感情を抱いていた。


その後私は何時の間にかベッドに身を投げていて、気付いたらアランがベッドの横で右膝を抱くような形で眠っていた。

私はアランを起さないようにベッドから出て、リビングの方に向かう。

リビングにはまだ明かりが灯っており、話し声が微かに聞こえた。


『アラン………残念……殺……エリー……』

『あのバカ……愚か……仕方ない…森…遺体は……一緒…死……』


あの2人の話している内容が私の繋がってきた。

私とアランを殺そうと言うの!?


そう思った瞬間、恐ろしい光景が脳裏に走る。

アランを斬り殺す何か、怯えて竦むことしか出来ない私。

そして…。


殺そう、殺すしかない。

私とアランが幸福になる為にはあの二人は邪魔殺さなきゃいけないどうやって殺す?あぁ丁度良いアランの剣があるからソレで斬って潰して砕いて刺して貫いて焼いて炙ってさぁ剣を手に執り敵を殺そう。


そう思って私が『アランの剣』に手を伸ばすと…。


「ハーイ、ストップ。そこまでだよエリー」

「え、アラン?」


振り向くとそこにはアランが居た。

シャツとズボンだけという姿で、眠そうな顔をしているけど間違いなくアランだ。


「素人が剣を持つのはお勧めしないなぁ」

「あっ」


彼は私が何かをするよりも早く、ひょいっと違和感無く剣を取り上げてしまう。


「アラン、剣を渡して。それがないと私─」


あの二人を殺せない、と続けようとした所で私の口はアランの唇で塞がれてしまった。

キスだ。

普段はアランからはしてくれない、キス。

アランは何時の間にか剣手放し、私を抱き寄せる。

そしてアランの舌が私の口の中に入ってきて、私の舌といやらしい音を立てながら絡み合う。

気持ち良い、心が融けてしまいそう。

アランってば、何時の間にこんなに情熱的で上手なキスを出来るようになったのかしら?

1秒毎に心臓が早鐘を打つ。頭がボーっとしてくる。もう、アランの事しか目に入らなくなってくる。


そしてアランは私を見据えて宣言した。


「俺も取り敢えず覚悟を決めたよ。放って置くと、害しか残りそうに無いからな。

 彼らにゃ悪いが…エリー、君は俺のモンだ。

 エリーが俺を嫌いになるまでずっとだ。『愛してるよ、エリー』」


私の意識はそこで真っ白になった。




朝、目が覚めると私はやっぱりベッドの上で、アランはベッドの脇で眠っていた。

今度は膝ではなく剣を抱いて眠っていると言う様子だったが。

あのアランとの情熱的なキスは夢だったのだろうか?

そう思っていると、下着が濡れている感じがした。


「~~~~~!!」


アランは気付いていないだろうか?

様子を見るとぐっすりと眠っている。

気付かれる前に、下着を替えよう。

ものが無いから姉さんから借りる事になるけど…大丈夫よね?

そう思い、姉さんが居ると思われるリビングに向かった。


「あら、エリー。早いわね」

「だが、丁度いいともいえるな」

「お姉ちゃん、お義兄さん。おはよう」

「「おはよう」」


挨拶を交わした所で、お姉ちゃんが少し変な顔をしてから問いかけてくる。


「ねぇ、『あの』アラン君の事、エリーは好き?」


変な問いかけだ、私はアランのことが好きだって事…お父さんやお母さん以上に良く知っている筈なのに。


「うん、私…アランのこと大好き。愛してるわ」


迷う事無く返す。

そうすると2人はどうしてか困った顔をした。


「そう……か。アランも果報者…だな」


お義兄さんは何故か背を向けてそう言った。


「エリー、私達は今日から一度、リュエシカまで戻るわ。

 そこでお父さんとお母さん達にエリーとアラン君のこと、伝えてくるから。

 本当は、当人達が向かうのが良いけど、そう言う訳にもいかないしね」

「そっか…ごめんね、お姉ちゃん、お義兄さん」


2人が私達の為に行ってくれると言うのなら、きっと昨日の夜に聞いたこと私の勘違いか何かだったのだろう。

だって、お姉ちゃんは優しいからそんなことしないよね…?


「私たちが不在の間、この家にあるものは好きに使っていいわ。

 後、アラン君には仕事の紹介、アルスの仕事仲間にお願いしてあるから後出来てくれる筈よ」

「うん、わかったよ」


私が頷くのを確認してから、お義兄さんは立ち上がり、お姉ちゃんに声を掛ける。


「そうか、それじゃあ行こうマリー」

「えぇ、それじゃあエリー…またね?」


2人はそうして出て行った。



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