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7.メイ、実家に帰る

 数日後、メイは仕事を終え、私室に帰ろうとしていた。そのとき、手紙を持ったマクレーに呼び止められる。


「メイ、手紙だ」

「あんたがメッセンジャーやってるなんて、珍しいじゃん」

「頼まれたんだよ。ミッドのやつ、腹いてぇって言うから」

「へえ。優しいところあるじゃん」


 軽口をたたきながら、メイは差出人を見た。実家だ。

 何げなく開封し、内容に目を通す。すぐにメイの顔色は青くなった。


「マクレー、どうしよう! お母さん、病気で倒れちゃったって!」

「え? おばさんが?」


 マクレーとメイは遠い親戚同士であるため、メイの母とマクレーも顔見知りだ。


「すぐ帰ってきてって書いてある。どうしよう、どうしよう!」

「落ち着けって。とりあえず旦那さま――アイリーンさま? いや侍従長に報告しよう」

「うん……。お、お母さん――」

「大丈夫だって!」


 マクレーは、震えるメイの肩に手を添える。


「休暇をもらって、ちょっと帰れよ。お前が顔を見せれば、おばさんも元気になるんじゃね? 俺、侍従長に報告してくるから、お前はここで待ってろ」

「う……うん」


 肩に乗せられた温かい手に、メイはそっと自分の手を添える。


「ありがとう、マクレー」

 

 この手紙をひとりで読んでいたら、そばにマクレーがいなかったら、もっと自分は取り乱していたかもしれない。


「お前は今は何も考えずに、荷物をまとめてろよ」


マクレーはそう指示をすると、廊下を走っていった。



 馬車から降りたメイは、久々の実家を見上げた。辺境ではあるものの、比較的大きな領地を治めるハーサウェイ伯爵家。それが、メイの実家だ。

 サフィリア家を出てから2日目の夕方、やっと到着した。玄関にいた使用人が一礼をして、扉を開ける。


「メイ~! ごめんね~!」


 玄関ホールに、母の明るい声が響いた。見る限り、とても元気そうだ。


「お母さん! 病気は?」

「それがね~、もうダメだ~! と思ってメイに手紙を送った次の日、治っちゃった! やっぱり来なくていいよってもう一度手紙を送ったんだけど、行き違っちゃったのね」

「よ、良かったね……」


 張りつめていた緊張の糸が切れ、メイはへなへなと座り込んだ。母のそそっかしいところはは、今に始まったことではない。ともあれ元気で良かった。


「せっかく休みをとったんだから、ゆっくりしていきなさいよ~」

「うん、そうしようかな」


荷物を運ぶ使用人に一礼し、メイは食堂へ向かった。用意されていた食事を、母ととる。


「メイ、お仕事はどう?」


 そう言いながら、母はワインをくいっと飲んだ。メイはそれを見て安心した。本当に、元気そうだ。


「楽しいよ。それに――とてもやりがいがあるの」


 主人を処刑させない。そのためにメイはできることをした。もう大丈夫だ。


「それなら良かった~! マクレーくんも一緒よね。どう?」

「あいかわらずよ。そうだ、お母さんのこと、とても心配してたよ」

「ごめん~! って言っておいて」

「まったく」


 メイはあきれて笑いながら、ワインに口をつける。久々のお酒に、少し酔ってきてしまったようだ。


「私、そろそろ休むね。疲れちゃった」

「そう。こっちにはどのくらいいられるの?」


 立ち上がるメイに、母が聞く。


「とりあえず10日間のお暇をいただいたから、5日くらいかな」

「そうね。たまにはゆっくりしたほうがいいわ」


 自室に入ったメイは、ベッドに倒れこんだ。2日間、ずっと馬車に乗りっぱなしだったから、まだ景色が揺れている気がする。お酒もきいてきている。


(でも良かった、お母さん元気で)


 母の病気は肩透かしだったものの、それでも安堵の気持ちが大きい。


『メイっぴー!』


 アカリの声だ。


『お母さん、元気で良かったね』

「はい!」


『それにしても、メイっぴって貴族だったんだね! 意外~!』

「どういう意味ですか?」

『アイリーンさまと一緒に見ていたからかな。メイっぴって、なんとなく親しみやすい感じだから』

「それはそうでしょう。四公爵と比べれば、うちなんて紙くずみたいなものですよ」

『なんか、そのへんの貴族ランクが全然分かんないんだけど』


「簡単ですよ。王の下に四公爵。その下に、それぞれの公爵家にお仕えする十六侯爵。そしてさらにその下に私たち伯爵という感じです。マクレーは十六侯爵の下のほう、私はその下の伯爵家。本来なら十六侯爵にお仕えするところ、いろいろ厚遇していただいて、四公爵にお仕えしています」


 メイは空中にいくつもの線をを描きながら説明する。


「これって、すごく名誉なことなんですよ! 私のひいおじいさまが農地改革や鉱山開発をして、王家にすごく貢献したから、今のハーサウェイ家があるんです」


 メイにとって、曾祖父は誇りだ。その収入は、今も国庫を支えている。


『ふーん。四公爵がダントツに偉くて、あとはまあまあって感じなのかな。――テンスリー伯爵はどのポジ?』

「あんなの!」


 少し酒が回っているメイは、鼻息荒く答える。


「伯爵のなかでも、没落寸前! 領土もほとんど没収され、猫の額ほどしか残っていません。本来なら、アイリーンさまと直接会える人じゃないのに、アイリーンさまったら!」

『メイっぴ……酔ってるね』

「私は、あの老人が許せません。商人と汚いことをしてのし上がってきた、いやーなおじいさん!」


 メイは、ぼふっと枕にこぶしを突き付ける。


『メ、メイっぴ。話を変えよう? ――前回はお母さんの病気なんて、なかったよね。なんでだろう?』

「わかりません。とりあえずアイリーンさまは、伯爵の計画を突っぱねてくださったのだから、そっちはもう安心です」


 伯爵がくるまで、毎日気を張っていた。それが無事終わったかと思えば、今度は帰郷。メイは少し疲れていた。


「しばらくはそのことを考えず、領地でゆっくりしたいです……」


 半ば眠りに落ちながら、メイはつぶやいた。

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