表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

23.ブナの木の下で

「疲れた…」


 仕事も終わり、自室に戻ったメイは、ため息をついた。


(まさか、ユウヒさまがあんなことを考えていたなんて)


 ユウヒの言葉が、一日中頭の中をぐるぐる支配していた。アイリーンには言えないし、マクレーにも相談できない。


(でも、ユウヒさまが本当にテンスリーと会っていたとなると)


 エンディングの信憑性は、この上なく高いと言える。

 メイは、引き出しから紙を取り出した。そこには、エンディングの映像がメモされている。


 最初は、鹿の紋章のある部屋でほほ笑むユウヒ。

(これは、本当にあったこと。ユウヒさまは本当に、テンスリーと通じていた)


 次は、ブナの木に持たれるマクレー。いつも待ち合わせに使っている、裏庭のブナの木だ。

(マクレーも、なにか大切なキーを握っているということ? 確かに、一緒に時を遡れるのは、マクレーだけ……)


 その次は、振り返るキララ。長い髪と短いスカートが、風にたなびいている。場所は屋外。ぼやけて判然としないが、サフィリア家の中庭のように思われる。

(キララさまは、ユウヒさまの計画の立案者。超重要人物よね)


 最後に、アイリーン。窓に頬杖を突き、外の景色を眺めている。その指には、婚約指輪が光る。

(この部屋は、サフィリア家で間違いない。婚約指輪があるってことは、やっぱり殿下との婚約は”あり”ということ?)


 ひとりで考えていてもらちが明かない。それに、ユウヒのことを相談できるのは、この友人のみだ。夜にしか話せない、頭の中の友人。


「アカリさん」


 呼びかけてみるが、返事がない。アカリが呼びかけに応じなかったことなんて、一度もない。


「アカリさん」


 もう一度呼んでみる。


『なになにー?』


 返答があった。メイはホッとしつつ、まずは昼間にユウヒと話したことを、アカリに報告する。


『うわー!アイリーンさまのお兄ちゃん、ヤバいね!』


 アカリの感想は、あっけらかんとしている。


「そうなんです。ヤバいんです。どうしたらいいと思いますか?」

『うーん……』


 アカリは考え込んでいるようだった。ややあって、返答がある。


『もうさ、詰んでんじゃん。だからこの回は諦めちゃったら?』

「諦める…?」

『そう。今回はユウヒさんの正体が知れた。それが収穫。でまた、時を戻しちゃうの』

「なるほど。でも――そんなに気楽に、時を遡ってもいいものなのでしょうか?」

『大丈夫っしょ! アイテムがあるんだから。これがゲームだったら、まじサッサと使っちゃうところだよ』


 時を戻せば、ユウヒとの関係はもとに戻る。領民を人質にとられずに済む。


「明日、マクレーと一緒に鏡を使います!」

『それがいいよ! マクレーくんにだって、事情を話せるし』

「ええ。でも――マクレーはずっとユウヒさまの側に仕えていました。これを聞かせるべきかどうか……」


 マクレーは、ユウヒを敬愛している。信奉者といったほうが近い。もっとも、自分も主人であるアイリーンに、同じ感情を抱いている。


(もし私が、「アイリーンさまは、実は殿下のことがお嫌いだ」なんてマクレーに言われたら――たぶん条件反射で殴っちゃうな……。そして、そんな話は信じない)


 おそらくマクレーも同じであろう。


「なるほどねー。マクレーくん、めっちゃショック受けちゃうよね。迷うところだね」

「ええ……」


 ――少し、探りを入れてみよう。この件に関してまったく知らないようだったら、そのまま知らせずにいたほうが良いだろう。


 メイはそう結論付けた。


「ともあれ、今回のことで、エンディングって大切な情報かもと思えてきました。

『そうでしょ! あれは絶対、必要フラグのご紹介パートだよ』

「ユウヒさまは、テンスリーとつながっていた。他の三つは――」


 言いながら、メモ上のマクレーの情報をトンとつつく。


「マクレーは……」

『仲間に引き込むことが、必要フラグってことっしょ。マクレーくんがいるところって、裏庭だよね』

「ええ」

『そこで二人して、私たちってば逆行してるー!? ってやったんでしょ?』


 少し違うが、だいたいそうだ。


「聖女、キララさまは――」

『キララさんも、重要だよねー。だって、お兄ちゃんがヤバいことに手を染めようって思ったのも、キララさんがきっかけってことでしょ?』

「はい」


 サフィリア家の中庭にいるキララは、こちらを振り返っている。逆光で表情は判然としない。


『で、最後のアイリーンさんも、もちろん必要不可欠なフラグ』

「ええ。アイリーンさまは、婚約指輪をしていらっしゃいました」

『よくそんなとこ見てたね! ってことは、アイリーンさんと第一王子さんは結ばれる、と』


 メイはうなずいた。


「アカリさん、ありがとうございます。私が次にやるのは、時を戻すこと。そして、事前にキララさまと直接この件に関して話をしたいところです。正直、ユウヒさまを巻き込むのはやめていただきたいということを、お伝えします」

『そうだねー! キララさんがユウヒさんを誘わなければ、アイリーンさんが危ない目に遭うこともないもんね!』

「ええ!」


 メイは力強く言った。キララと初めてまともに話した日、メイはキララのことを気に入った。裏表のない、明朗快活な女性のように思った。


(でも――裏表はあった! それも、とんでもないレベルで)



 昼食の後、メイは裏庭のブナの木にもたれながら、マクレーを待っていた。手には、あの猫の鏡を握りしめている。マクレーには事前に、猫の鏡を使うことを伝えてある。


 ざっと足音がして、メイは振り返った。


「マクレー」


 その人物は、ゆらりとメイのほうに近づいてきた。完全に逆光になっていて、誰かが分からない。しかし少なくとも、待ち人ではない。


(マクレーじゃない……?)


 その動きは不可解だった。ふらふらと酔っぱらっているかのようで、不気味だ。


「あの――どなたですか?」


 屋敷の者ではない気がする。昼間から酔っぱらって、この屋敷に迷い込んだのだろうか。メイはためらいつつ、一歩踏み出した。


「何かお助けしましょうか?」


 もう一歩、踏み出す。


 その人物はやっと、メイの存在に気付いたようだった。そこからの動きは、メイの予想外のものであった。


「小娘えぇぇぇぇ!!」


 奇声を上げながら猛スピードで近づいてくる人物。とっさのことにメイは硬直した。


 腹部に熱い電撃を感じた。わけが分からずその場所を見れば、ナイフが刺さっている。メイは跪く。そして、その人物を見上げた。


「テンスリー……伯爵!」


 腹部からナイフを抜いたテンスリーは、第二撃目を振りかぶる。


「お前のせいで! お前のせいでぇぇ!!」


 なにがなんだか分からないまま振り下ろされたナイフは、どっと倒れこんだメイのすぐ横の地面に刺さった。


「俺はお前に何も言っていない! なのに、なのに、どうしてユウヒさまに俺のことを! そのせいで、何もかもダメになっちまったんだ! お前のせいでぇぇーーーー!!」


 絶叫。テンスリーは、地面に刺さったナイフを抜こうとしている。もっと痛めつけるのか、とどめを刺すのか。


(に、逃げきゃ)


 しかし、力が全く入らない。体全体が、どくんどくんと熱に浮かされ大きく脈打っている。少し先に、自分が落とした猫の鏡が見える。


(アイリーンさま……)


 急に、猫の鏡を下賜してくださった主人が思い浮かぶ。


 そのうちに、視界がぼやけてきた。鏡が、アイリーンの銀髪のように輝いていることだけは視認できる。しかし徐々に緞帳が落ち、それも見えなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ