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19.ユウヒ

 三日後、アイリーンに処刑命令が下される――。罪名は反逆罪。第一王子を扇動し王を討とうとした罪、とのことだった。


 処刑命令が下された夜、裏庭のブナの木にもたれながら、メイは手鏡をなでていた。アイリーンさまから下賜された、猫の鏡だ。遅れてきたマクレーに、メイは告げる。


「マクレー、やるよ」


 マクレーはこくりとうなずく。

 メイはマクレーの手を取り、手鏡を天へと掲げた。


「アイリーンさまを救うぞー!」


 突然大声を出したメイに、マクレーは驚いた。


「ちょ、メイ、声が……!」

「何してんの、マクレー! 一緒にやって!」

「一緒にって――これ、やんなきゃいけねえの?」

「いけねえの! いくよ! アイリーンさまを救うぞー!」

「あ、アイリーンさまを救うぞー」

「時をさかのぼるぞー!」

「時をさかのぼるぞー」


 手鏡が月光にきらりと光る。くらりとわずかな酩酊。

 そして、まわる映像。


 ふわっと柔らかくほほ笑むユウヒさま。どこかの部屋のようだ。壁にかかったタペストリーには、その家のものと思われる紋章がある。サフィリア家ではない。鹿をあしらったこの紋章は――。



 目を開けると、見慣れた天井。メイは使用人休憩室のベッドに寝かされていた。外からの会話から、いつもの聖女召喚後の夜と分かる。


(マクレーは……どうしたんだろう)


 初めて、マクレーと一緒に時を遡った。よく考えれば、彼も一緒に過去へ戻る保証はない。


(今からマクレーが来るはず。そのマクレーは、”何も知らないマクレー”か、”私と一緒の過去へ戻ったマクレー”か――どっちだろう)


 願わくば、一緒に戻っていてほしい。


「メイ!気がついたか!」


 近くにいたマクレーが走り寄ってくる。


(このマクレーは、”どっちの”マクレー? どうやって確かめよう)


 走り寄ってくる様子は、何も知らなさそうだ。


「マクレー、聖女召喚って……?」


「王さまが、ゲートを開けられたんだ! 120年ぶりに聖女召喚したんだけど、なぜが二人も召喚されたって。それで大騒ぎだよ」


 全く同じセリフだ。


(これは、何も知らないマクレー?)


 落胆は想像以上に大きかった。

 するとマクレーが、フッと笑った。


「お前さぁ、毎回あの変な呪文、唱えてんの? 時を遡るぞーって」

「マクレー!」


 良かった。同じ過去から戻ってきたマクレーだ!

 メイは思わず彼に抱き着いた。


「良かった! マクレー!」

「お、お前……泣いてんの?」

「だって……!」


 自分でもどうして泣いているのかよく分からない。


 このマクレーは、一緒に時を遡り、主人の処刑を食い止める、たった一人の同志だ。もう一度、会えて良かった。


 婚約者の胸に顔をうずめたまま、メイはつぶやく。


「マクレー。今度こそ、処刑をとめるよ」



 マクレーと自室に戻り、今までのことをメモした紙を引っ張り出す。


「お前、そんなの書いてるんだ」

「だって、何が何だかよく分かんなくなっちゃうもん」


0回目 聖女ひとり 婚約は3ヶ月後 テンスリー伯爵来ない 処刑は2年後

1回目 聖女ふたり 婚約は1ヶ月後 テンスリー伯爵が訪れる 処刑はすぐ

2回目 聖女ふたり 婚約は1ヶ月後 テンスリー伯爵が訪れる 処刑はすぐ

3回目 聖女ふたり 婚約は1ヶ月後 テンスリー伯爵追い返す

4回目 聖女ふたり すぐに逆行

5回目 聖女ふたり 婚約は1ヶ月後 テンスリー伯爵追い返す 処刑はすぐ


「もう5回目か……全然、何ともならないなあ」


 メモを見て、メイはため息をついた。結局どこを正せば運命が変わるのか分からない。


「どうして――ユウヒさまもキララさまも殿下も、アイリーンさまをかばわなかったんだろう」


 マクレーがぽつりとつぶやく。


 アイリーンは組織の動向を探るために謀反計画に乗ったのであって、反意はないということは、第一王子もユウヒもキララも分かっていたことだ。

 なのに、処刑命令は下された。


「マクレー……。前もこういうことあったんだよ。ユウヒさまにアイリーンさまのことを言ったのに、処刑されちゃった。ねえ……ユウヒさまって――」


 ――信用していいの?


 メイはその次の言葉を飲み込んだ。マクレーはユウヒの侍従だ。そのユウヒを、自分は疑い始めている。


「ユウヒさまは……」


 飲み込んだ言葉は、マクレーにも少し伝わったのだろう。マクレーは眉を寄せ、膝の上で組んでいる自分の手を見つめている。


「ユウヒさまは、ご本心が分かりにくいお方だ。でも――俺はずっとユウヒさまについて、見ている。ユウヒさまに限ってそんなことは……ご家族を裏切るなんてことは。第一、理由が――理由がない」


 ユウヒを疑いきれないマクレーは、落ち着きなく指を組み替える。


「うん、そうだよね」


 マクレーに同調しながらも、メイはユウヒへの疑いをぬぐい切れなかった。メイとユウヒは距離がある分、冷静に見ることができる。


(そういえば、あの鹿の紋章の部屋!)


 ユウヒの侍従であるマクレーに聞けば、どの家か分かるかもしれない。


「ねえ、マクレー。こういう鹿を模した紋章って見覚えある?」


 メイは、エンディングに出てきた牡鹿の紋章を、記憶を頼りに描いてみる。


「絵が下手すぎて分かんねえけど――、少なくとも、四公爵や十六侯爵のものじゃないな……ってことは伯爵家以下――。調べれば分かるかもしれないけど、手掛かりは、この羊の絵だけじゃなあ……」

「羊じゃなくて、鹿! そっか、マクレーも見覚えないか」

「なんでメイは、この紋章が気になるんだ?」


 メイはペンを置いた。


「マクレーは、エンディングって見た?」

「なんだそれ」

「えっとね、過去に戻るとき、ぐわ~ってするじゃん。その時に、何となく頭に映像が浮かぶんだけど……」

「俺は、ないかな」

「そっか」


 あのエンディングを見られるのは、どうやらメイとアカリだけらしい。


「アカリさんが言ってたんだけど、この映像はトゥルーエンド――アイリーンさまが死なない結末にたどり着くヒントなんだって」

「へえ」

「そこに、ユウヒさまが出てくるんだけど、この紋章がある部屋にいるんだよねー。マクレーならユウヒさまと行動しているから、どの家か分かるかなと思ったんだけど――」

「ちょ、ちょっと待てメイ」


 マクレーは、メイの話を遮った。


「そのエンディングとやらは確実なのか?その――夢みたいなものではなくて」

「アカリさんは、確実っぽい口調で言ってたよ。私もそう思ってる」

「変じゃないか?それじゃあ理屈が合わねえ」

「どうして?」


「エンディングでは、ユウヒさまは、その鹿の紋章の家にいるんだよな。んでもって、その家は公爵家でもなけりゃ、侯爵家でもない。たぶん伯爵家かそれ以下だ。ユウヒさま自ら、伯爵家に行くなんてことはあり得ないんだ」

「そういえば――そっか」


 四公爵の嫡男を呼びつけられるのは、王家か同じ公爵家くらいのものだ。状況によっては侯爵家を訪れることもあるが、それより下の家に行くことはない。


「少なくとも――俺はそんなユウヒさまを見たことがない」


 マクレーは、ユウヒの専属侍従だ。外出時にも、たいていの場合は随行する。そのマクレーが見たことないのだったら、本当にあり得ない出来事ということになる。


「そのエンディングってやつ、どのくらい信憑性があるんだ?」


マクレーの言葉に、メイは二の句を継げなかった。

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